著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.721-725, 2012 (Released:2013-07-24)
参考文献数
16
被引用文献数
8 8

加齢に伴って筋肉量が減少し,筋力を維持できなくなってしまうサルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させる.われわれは栄養摂取等の生活習慣や既往歴など,サルコペニアのリスク要因について,無作為抽出された40歳以上の地域在住男性1,783名,女性1,825名での10年間,延べ14,010回の測定の縦断的データを用いて網羅的に検討を行った.二重エネルギーX線吸収装置(DXA)での筋肉量から診断されたサルコペニアでは喫煙,運動不足,総エネルギー摂取量の不足,たんぱく質・分岐鎖アミノ酸不足,自覚的健康が良くないことなどがリスクになっていた.65歳以上のみを対象とした身体機能からの診断されたサルコペニアでもDXAでの診断の場合と同様に検討を行った.喫煙がリスクになっており,総エネルギー摂取量,ビタミンD,たんぱく質,分岐鎖アミノ酸摂取が意にリスクを下げていたが,身体活動との関連は有意ではなかった.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.195-198, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
5
被引用文献数
11 14

サルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させ,健康長寿の障害となる.われわれは無作為抽出された地域在住中高年者コホートのデータを使用して,日常生活機能と筋力,筋量との関連について検討した.男女ともに40歳以降,握力,下肢筋力は年間約1パーセントずつ低下していた.どの年代でも男性は女性よりも筋力が強く,80代の男性の筋力は40代の女性の筋力にほぼ等しかった.筋力の低下は女性の日常生活機能により大きな影響を与える可能性がある.一方,四肢の筋量は男性では加齢とともに低下するが,女性では加齢による低下はほとんどなかった.このことは女性では筋肉の量的な変化よりも,質的な変化が問題になっていることを示している.日常生活機能は筋肉のパフォーマンスの影響を受け,握力と歩行速度で推定することが可能であった.高齢者の脆弱を予防するためには,これらの評価によりハイリスクの集団を見つけることが重要であろう.
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014 (Released:2016-03-20)
参考文献数
43
被引用文献数
6

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
内田 育恵 杉浦 彩子 中島 務 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.222-227, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
21
被引用文献数
23

目的:我が国における高齢難聴者の現況を推計することを目的として,「国立長寿医療研究センター―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」データを検討した.方法:NILS-LSA第6次調査(2008~2010年実施)より男性1,118名,女性1,076名の計2,194名を対象として,地域住民の粗率に近似すると考えられる5歳階級別難聴有病率を算出した(算定A).また,聴力に有害な作用をもたらす耳疾患と騒音職場就労を除外した算出も行った(算定B).総務省発表人口推計を用いて全国難聴有病者数を推計した.次に第1次調査(1997~2000年実施)時点で,除外項目と難聴定義に該当せず,かつ第6次調査にも参加した男性212名,女性253名の計465名を対象として,10年後の難聴発症率を解析した.結果:難聴有病率は65歳以上で急増していた.算定Aでは,男性の65~69歳,70~74歳,75~79歳,80歳以上の年齢群順に43.7%,51.1%,71.4%,84.3%で,女性では27.7%,41.8%,67.3%,73.3%といずれも高い有病率を示した.算定Bでは,同様の年齢群順に男性で37.9%,51.4%,64.3%,86.8%で,女性では26.5%,35.6%,61.4%,72.6%であった.全国の65歳以上の高齢難聴者の数は,算定Aでは1,655万3千人,算定Bでも1,569万9千人に上った.10年後の難聴発症率は,調査開始時年齢60~64歳群では32.5%,70~74歳群では62.5%と,年齢上昇に伴い高くなったが,依然聴力を良好に維持する高齢者が存在した.結論:高齢者の難聴有病率は高く,全国難聴有病者数推計から,加齢性難聴が日本の国民的課題であることが再確認された.また年を経ても聴力を良好に維持することが可能であると示唆された.
著者
宮本 恵子 今井 具子 瀬崎 彩也子 川瀬 文哉 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-7, 2018-12-25

【目的】健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間を健康寿命という。平均寿命と健康寿命との差は日常生活に制限のある「不健康な期間」である。この「不健康な期間」をできる限り短くすることが日本を始め世界の多くの国で最大の健康政策課題となっている。本研究では国際比較研究から平均寿命と健康寿命の差と、それに影響を与える因子について明らかにすることを目的とした。【方法】国別の健康寿命、平均寿命のデータはGlobal Burden of Disease(GBD) 2015のデータベースを用いた。国連食糧農業機関のデータベース(FAOSTAT)を用い、国民一人当たりのエネルギー供給量とたんぱく質、脂質、炭水化物供給量、そして、それぞれのエネルギー比を求めた。FAOSTAT の食糧供給量は生産から消費者に届くまでの減耗を除いた量であり、家庭での消費量を反映している。国別の教育年数は国連教育科学文化機関統計研究所のデータベースから、喫煙率はGBDのデータベースから、肥満率(BMI ≧ 30)は世界保健機関(WHO)のデータベースから引用した。人口、高齢化率(65歳以上の人口割合)、国内総生産(GDP)と国民一人当たりの医療費は世界銀行のデータベースから引用した。データの揃った人口100万人以上の国131ヵ国を解析の対象とした。国別に平均寿命と健康寿命との差と、差に影響を与える因子について、ステップワイズ法による重回帰分析を行った。分析にはR 3.5.0を用いた。【結果】2015年度のデータでは日本の平均寿命、健康寿命はともに世界一であった。平均寿命と健康寿命との差は平均寿命が長いほど大きかった。しかし、日本の平均寿命と健康寿命との差は9.3年で、世界131ヵ国中60位であった。社会経済的指標、生活習慣などの要因を入れたステップワイズ法による重回帰分析では、肥満率、GDP、エネルギー供給量がこの順で平均寿命と健康寿命との差を大きくする要因となっていた。また肥満率、医療費が平均寿命と健康寿命との差の割合を大きくする要因であり、教育年数、高齢化率が差の割合を小さくする要因であった。【結語】平均寿命と健康寿命との差及び差の割合は肥満と最も強く関連していた。日本は平均寿命、健康寿命が世界で最も長いが、先進国中では肥満率が少なく、このため平均寿命と健康寿命との差が短くなっていると考えられる。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012-09-20 (Released:2017-07-28)

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。
著者
下方 浩史
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.177-184, 2008-06-30 (Released:2010-08-05)
参考文献数
9
被引用文献数
6 5

聴力の加齢に伴う変化は個人差が大きく, その個人差には, 内的要因としての遺伝子多型と数多くの外的要因の関与が考えられる。これらを明らかにしていくことが, 高齢者の聴力の低下を予防して, 高齢者が豊かな老後を過ごすために重要である。われわれは名古屋市内の12万人の18年間にわたる大規模な追跡のデータから, 聴覚の加齢変化を確認するとともに, 国立長寿医療センターで行っている住民調査の結果をもとに, 高齢者の聴力に個人差を生じさせる因子を中心に解析を行った。加齢によって聴力は高音域ほど低下し, 男性は女性よりもその影響が大きかった。また1989年以降の18年間ですべての年代で聴力は低下していた。聴力の加齢変化には遺伝子多型の影響が大きかった。糖尿病, 虚血性心疾患, 腎疾患などの慢性疾患が聴力と関連しており, 特に動脈硬化との関連が大きかった。また騒音曝露, 喫煙と聴力との関連が認められた。
著者
吉田 大輔 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 伊藤 健吾 加藤 隆司 下方 浩史 鷲見 幸彦 遠藤 英俊 鈴木 隆雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1414-EbPI1414, 2011

【目的】物忘れなどの記憶障害は、アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の特徴的な前駆症状である。海馬や嗅内野皮質を含んだ内側側頭葉はこの記憶の中枢であり、記憶障害と内側側頭葉の脳萎縮とは密接な関係があると考えられている。一方、日常的に知的な活動や身体活動、あるいは社会活動(社会とのつながり)を保持することは、高齢期における認知症(特にAD)の発症遅延や認知機能の維持にとって有効である可能性が示唆されている。これらのことから、活動性の高い日常生活を送ることは、内側側頭葉の脳萎縮を抑制できると推察されるが、高齢期における内側側頭葉の脳容量と日常生活活動との関係については、これまでほとんど報告されていない。そこで本研究では、どのような日常生活活動が内側側頭葉の脳萎縮と関連があるのか明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】主観的な記憶低下の訴えがある、もしくはClinical Dementia Ratingが0.5に該当した65歳以上の地域在住高齢者125名(76.1±7.3歳)を対象とした。すべての対象者は、基本情報に加え一般的な認知機能検査、頭部のmagnetic resonance imaging (MRI)検査を受けた。内側側頭葉における脳萎縮の程度は、MRI検査で得られた画像を基にvoxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease(VSRAD)を用いて定量的に評価した。日常の生活活動状況は、質問紙を用いて過去1ヶ月における各活動の実施状況(二択式;している/していない)を聴取した。各々の活動項目はセルフケアや手段的日常生活動作、社会活動などの25項目から構成されており、高齢者の生活活動全般を幅広く捉えられる項目内容とした。そして、活動項目ごとに「している」と回答した者(活動群)と「していない」と回答した者(不活動群)の2群間で内側側頭葉の脳萎縮度に差がないか、共分散分析を用いて検討した。なお分析の前段階として、2群いずれかのサンプルサイズが20に満たなかった活動項目は、あらかじめ分析項目から外した。また、年齢と脳萎縮との関係をpearsonの相関係数で確認した。<BR><BR>【説明と同意】すべての対象者に対しては、事前に研究内容を説明し、書面による同意を得た。また、本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得て行った。<BR><BR>【結果】内側側頭葉の脳萎縮と年齢との間には、有意な正の相関関係が認められた(r = 0.457, p < 0.01)。そこで、年齢を共変量とした共分散分析を行い、内側側頭葉の脳萎縮と日常生活活動との関係を検討した結果、「頭を使う活動(将棋や学習)」において、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 6.43, p = 0.01)。同様に、「習い事」においても、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 4.40, p = 0.04)。<BR><BR>【考察】記憶とその関連領域である内側側頭葉の脳容量とは、密接な関係があると考えられている。今回、同領域の脳萎縮と知的活動(「頭を使う活動」)の実施状況との間に関連性が認められたことは、先行研究の結果と矛盾しない。地域高齢者にとって、日常的に知的な活動を取り入れることは、認知機能の低下だけでなく内側側頭葉の脳萎縮も抑制できる可能性が示唆された。ただし、それ以外の活動(主に身体活動)の実施状況と内側側頭葉の脳萎縮については、有意な関連性が認められていない。今後は内側側頭葉以外の領域、あるいは活動の実施頻度を考慮したより詳細な検討が必要と考える。また、日常的な知的活動が内側側頭葉の脳萎縮を抑制できるとの仮説を立証するためには、縦断的な研究や介入研究が必要であり、今後も追跡調査を継続する予定である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法の現場において、認知機能障害を有する高齢者を対象とするケースは少なくない。本研究は、このような高齢者に対し運動療法だけでなく日常の生活活動状況にも配慮した理学療法戦略が重要であることを示した、意義ある研究であると考えられる。また、今回の研究結果をさらに発展させることで、脳萎縮や認知機能の低下を予防するような方策が将来明らかになると期待している。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
日本老年社会科学会
雑誌
老年社会科学 (ISSN:03882446)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.370-381, 2012-10-20 (Released:2020-01-30)
参考文献数
51

本研究では,高齢者の抑うつがその後8年間の知能低下に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.分析対象は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査(ベースライン)に参加した65〜79歳の地域在住高齢者805用いて評価した.また,知能の変化は,ベースラインおよび2年間隔で行われた4回の追跡調査において,ウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)により測定した.線形混合モデルを用いた分析の結果,抑うつの有無は,「知識」「類似」「符号」の経年変化に影響を及ぼすことが示された.一方,抑うつから「絵画完成」の経年変化への影響は認められなかった.以上の結果から,高齢者の抑うつは,その後8年間の一般的な事実に関する知識の量,論理的抽象的思考力,および情報処理速度の低下を引き起こす可能性が示された.
著者
阿部 稚里 今井 具子 瀬崎 彩也子 宮本 恵子 川瀬 文哉 白井 禎朗 眞田 正世 位田 文香 加藤 匠 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-29, 2019-12-25

【目的】乳癌は女性にとって主要な癌の一つである。これまでに、乳癌と乳製品摂取との関連がメタアナリシスによって検討されているが、一貫した結論が得られていない。その理由として、食事調査の手法や乳製品摂取量の評価が論文間で異なること、調査地域が限られていることが挙げられる。そのため、乳製品と乳癌の関連をさらに明らかにしていくためには、地球規模で同一手法を用いた乳製品摂取量の調査による研究が必要と考えられる。そこで本研究では、現在公表されている国際データを用い、乳癌と乳製品の関連を地球規模による国際比較研究で縦断的に明らかにすることを目的とした。【方法】乳癌発症率および乳癌死亡率は、Global Burden of Disease( GBD) 2017データベースから各国の10万人当たりの年齢標準化された値を入手した。生産から家計までのすべての段階における減耗を除く、各国の食品供給量と総エネルギー供給量は国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)から入手し、乳製品の供給量を求めた。調整変数として、人口、国民一人当たりの国内総生産(GDP)、高齢化率(以上世界銀行データベース)、平均BMI、喫煙率、教育年数、身体活動量(以上GBD データベース)を入手した。全てのデータが得られた100万人以上の人口を持つ139カ国を対象とし、共変量を調整した線形混合モデルを用いて、乳製品供給量と乳癌発症率および乳癌死亡率との1990年から2013年までの23年間の縦断的関連について解析を行った。解析にはR 3.6.1を用いた。【結果】すべての共変量を調整したモデルにおいて、乳製品供給量と乳癌発症率の間に有意な正の関連があった(β= 7.393、標準誤差1.553、p<0.001)。同様に、すべての共変量を調整したモデルにおいて、乳製品供給量と乳癌死亡率の間にも有意な正の関連があった(β= 2.123、標準誤差0.613、p<0.001)。【結論】乳製品供給量と乳癌発症率および乳癌死亡率が正の関連を示すことを、比較的近年のデータを用いて縦断的に明らかにした。このことから、乳製品を多く摂取する食生活は、地球規模において乳癌発症率や乳癌死亡率を上昇させる可能性が示された。今後さらに、乳製品を低脂肪と高脂肪に分けて解析を行うことが必要である。
著者
今井 具子 加藤 友紀 下方 浩史 大塚 礼
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.161-173, 2022 (Released:2022-08-24)
参考文献数
40

一般住民の食事データを用いて日本食品標準成分表2015年版 (七訂), 及び2020年版 (八訂) で算出した栄養素等摂取量についてデータベース切り替えによる影響を検討した。対象は老化に関する長期縦断疫学調査の第1次から第7次調査参加者のうち秤量法による3日間食事調査を完了した累計男性7,596名, 女性7,566名とした。男女別に検討したところ, 有意な相関はあるものの, 七訂と八訂の差は測定法が変更されたエネルギー (5.1%), 炭水化物 (5.8%), アミノ酸組成によるたんぱく質 (6.0%) や, 成分値の収載数が大きく変わった有機酸などの栄養成分項目の算出値に差が生じ, 系統誤差が生じる可能性が明らかとなった。またこれらの差には性差が見られ, 対象者の食事内容により影響を受ける程度が異なる可能性も考えられた。栄養アセスメントの側面では, データベースの切り替えを慎重に行う必要があることが示唆されたが, 対象者をランク付けする等の疫学研究ではデータベース改訂の影響が比較的小さい可能性も示唆された。
著者
眞田 正世 今井 具子 瀬崎 彩也子 宮本 恵子 川瀬 文哉 白井 禎朗 阿部 稚里 位田 文香 加藤 匠 下方 浩史
出版者
名古屋学芸大学管理栄養学部
雑誌
名古屋栄養科学雑誌 = Nagoya Journal of Nutritional Sciences (ISSN:21892121)
巻号頁・発行日
no.5, pp.15-22, 2019-12-25

【目的】全世界で3 億人以上の人たちが抑鬱状態であり、さらに80万人に近い人たちが自殺によって死亡している。抑鬱は身体障がいの最大の要因である。近年、食事と鬱病との関連が注目を集めており、特に抗酸化物質と抗炎症成分が豊富な野菜類は、鬱病の発症予防に有益な効果を持つ可能性が指摘されている。本研究の目的は、野菜類・果実類の供給量と鬱病有病率との22年間の縦断的関連を国際比較研究で明らかにすることである。【方法】生産から家計までのすべての段階における減耗を除く、各国の食品供給量と総エネルギー供給量を国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)から入手し、食品群分類から野菜類の供給量を求めた。鬱病については、Global Burden of Disease( GBD) 2017データベースから各国の10万人当たりの年齢標準化鬱病有病率を入手した。調整変数として、世界銀行データベースから人口、国民一人当たりの国内総生産(GDP)、高齢化率、失業率、GBD から平均BMI、喫煙率、教育年数、国別の中心経度緯度を入手した。データの得られた100万人以上の人口を持つ137カ国を対象とし、共変量を調整した線形混合モデルを用いて、野菜類、果実類の供給量と鬱病有病率との1991年から2013年までの22年間の縦断的関連について解析を行った。解析にはR 3.5.3を用いた。【結果】野菜類供給量と鬱病有病率との関連の縦断的解析では、すべての共変量を調整したモデルで有意な負の関連が認められた(β = -0.058±0.028、p <0.05)。また、果実類の供給量と鬱病有病率についても同様にすべての共変量を調整したモデルにおいて、有意な負の関連が認められた(β=-0.097±0.036、p <0.01)。【結論】野菜類および果実類の供給量は鬱病有病率と有意な負の関連を示した。豊富な野菜類や果実類を摂取する食生活は鬱病有病率を低下させる可能性が示された。Background and objective: More than 300 million people worldwide are depressed and nearly 800,000 people have died from suicide. Depression is the biggest cause of disability. The association between diet and depression has drawn attention in recent years. Among the dietary factors, vegetables and fruits, which are rich in antioxidants and anti-inflammatory components, were hypothesized to play an important role in depression development. The aim of this research is to clarify the longitudinal association of vegetables and fruits with depression rate using 22-year worldwide statistics.Methods: Average food supply (g/day/capita) and energy supply (kcal/day/capita) by country, excluding loss between production and household, were obtained from the Food and Agriculture Organization of the United Nations Statistics Division database (FAOSTAT). Each food was sorted, and supplies of vegetables and fruits were obtained. Data of age-standardized prevalence of major depression per 100,000 people by country were derived from the Global Burden of Disease (GBD) 2017 database. As control variables, population, gross domestic product (GDP) per capita, aging rate, and unemployment rate by country from the World Bank database, and BMI, smoking rate, expected years of education, and central longitude and latitude by GBD database. The 22-year longitudinal associations of fruits and vegetables with major depression were examined in the 137 countries with populations of 1 million or greater controlling for covariates by the mixed effect model.Results: A significant negative association was found by the longitudinal analysis of the relationship between the vegetables supply and the prevalence of major depression in the model controlled for all covariates (β = –0.058 ± 0.028, p<0.05). In addition, a significant negative association between the supply of fruits and the prevalence of major depression was also found in the model controlled for all covariates (β = –0.097 ± 0.036, p<0.01).Conclusions: Vegetables and fruits supply were significantly negatively associated the rate of major depression. Vegetables and fruits may reduce the prevalence of depression.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.209-211, 2007 (Released:2007-05-24)
参考文献数
10
被引用文献数
4 3

肥満はさまざまな生活習慣病の原因であり,最近はメタボリックシンドロームとしてその病態が注目されている.健康長寿には健全な食生活によって肥満を防止することが重要である.しかしやせているほど健康というわけではなく,人間には理想的な肥満度がある.この理想的な肥満度は年齢によって異なり,高齢者では生命予後を考えた場合,肥満の予防よりもむしろやせの予防の方が重要である.栄養摂取の不足は高齢者では寿命を短くすることが多い.高齢者の栄養のかかえるさまざまな栄養問題,栄養評価に関する考え方を述べるとともに,健康な長寿を目指すための理想的な肥満度,内臓脂肪や体脂肪分布と健康,そして急激な体重変動が健康障害をもたらす等の知見を示し,長寿と食生活,栄養との関連について幅広く紹介する.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵 中島 務 西田 裕紀子 丹下 智香子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.325-329, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

目的:耳垢は高齢者および知的障害者に頻度が高いことが知られており,湿性耳垢の頻度が高い欧米では高齢者の約3割に耳垢栓塞があるという報告もある.しかしながら乾性耳垢の多い日本においての報告はない.今回,本邦における一般地域住民における耳垢の頻度と認知機能,聴力との関連について検討した.方法:『国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究』第5次調査参加者中,60歳以上で,耳垢確認のための鼓膜ビデオ撮影検査を受け,かつ耳疾患の既往のない一般地域住民男女792人を対象とした.Mini-Mental State Examination(MMSE)と良聴耳の耳垢の有無,良聴耳の4周波数平均聴力との関連について一般線形モデルで検討した.結果:対象792人中良聴耳の耳垢を85人(10.7%)に認めた.MMSE 24点以上の群では良聴耳の耳垢が有るのは10.0%だけだったが,MMSE 23点以下の群では23.3%に耳垢を認めた.また良聴耳の平均聴力は年齢,性を調整しても耳垢有群では無群より有意に悪かった(p=0.0001).また,年齢,性,良聴耳平均聴力,教育歴を調整しても耳垢有の群では有意にMMSE得点が低かった(p=0.02).結論:本邦においても高齢者の1割に良聴耳の耳垢を認め,耳垢により聴力が低下している場合があることが示唆された.また耳垢を有する群では認知機能が悪いことが明らかとなった.
著者
富田 真紀子 西田 裕紀子 丹下 智香子 大塚 礼 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.89.17223, (Released:2018-11-15)
参考文献数
37
被引用文献数
4

A work-family balance scale was developed for middle-aged and elderly individuals. Employed people (N =1,351, 788 men and 563 women; age range, 40 to 85 years; mean age, M = 54.82, SD = 9.86 years) in the seventh study-wave of the National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging participated in the study. We hypothesized a four-factor structure consisting of “work-to-family conflict,” “family-to-work conflict,” “work-to-family facilitation,” and “family-to-work facilitation.” An item pool based on previous studies was developed and administered to the participants, and confirmatory factor analysis was conducted on their responses. The results identified 16 items related to work-family balance with a four-factor structure, which supported the hypothesis (GFI = .924, RMSEA = .073). Multiple-group analysis of populations based on age group (middle-aged, elderly) and gender established the configural and measurement invariance of the scale. Moreover, reliability (α = .69―.85) and criterion-related validity were confirmed based on mental health. Furthermore, age (the 40s, 50s, 60s, over 70) and gender differences were partially identified in the four subscales that were developed.
著者
下方 浩史 葛谷 文男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.572-576, 1993-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
13
被引用文献数
5 32

Age is one of the most important factor of changes in energy metabolism. The basal metabolic rate decreases almost linearly with age. Skeletal musculature is a fundamental organ that consumes the largest part of energy in the normal human body. The total volume of skeletal muscle can be estimated by 24-hours creatinine excretion. The volume of skeletal musculature decreases and the percentage of fat tissue increases with age. It is shown that the decrease in muscle mass relative to total body may be wholly responsible for the age-related decreases in basal metabolic rate. Energy consumption by physical activity also decreases with atrophic changes of skeletal muscle. Thus, energy requirement in the elderly decreases. With decrease of energy intake, intake of essential nutrients also decreases. If energy intake, on the other hand, exceeds individual energy needs, fat accumulates in the body. Body fat tends to accumulate in the abdomen in the elderly. Fat tissue in the abdominal cavity is connected directly with the liver through portal vein. Accumulation of abdominal fat causes disturbance in glucose and lipid metabolism. It is shown that glucose tolerance decreases with age. Although age contributes independently to the deterioration in glucose tolerance, the decrease in glucose tolerance may be partly prevented through changes of life-style variables, energy metabolism is essential for the physiological functions. It may also be possible to delay the aging process of various physiological functions by change of dietary habits, stopping smoking, and physical activity.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.133-142, 2017-04-01 (Released:2017-03-19)
参考文献数
24
被引用文献数
2

The state in which physical and mental functions are deteriorated with aging is called frailty, and decrease in muscle mass and muscle strength with aging accompanying deterioration of physical function is called sarcopenia. Frailty and sarcopenia are found in older adults, which is a major obstacle to achieve healthy longevity. Estimation of prevalence and number of patients, as well as elucidation of risk factors in frailty and sarcopenia are important for the prevention of frailty and sarcopenia. The prevalence of frailty determined by criteria based on the method of Fried et al. was 5.2% for men and 20.9% for women in a cohort of randomly selected community-living population, and the estimated number of people with frailty was about 0.77 million men and 2,22 million women among the population aged 65 years and over in Japan. The prevalence of sarcopenia by the Asian Working Group for Sarcopenia (AWGS) criteria was 9.6% for men and 7.7% for women. The number of people aged 65 years and over with sarcopenia in Japan was estimated to be 1.64 million for men and 1.39 million for women. The onset of frailty was related to physique, physical function, cognitive function, depression, and various chronic diseases. Depression and lack of exercise were significant risk factors of sarcopenia. Physical activity, nutrition and control of chronic diseases are required for the prevention of frailty and sarcopenia, and the prevention will be an important issue for health and longevity in Japan.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.195-198, 2012-03-25
参考文献数
5
被引用文献数
14

サルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させ,健康長寿の障害となる.われわれは無作為抽出された地域在住中高年者コホートのデータを使用して,日常生活機能と筋力,筋量との関連について検討した.男女ともに40歳以降,握力,下肢筋力は年間約1パーセントずつ低下していた.どの年代でも男性は女性よりも筋力が強く,80代の男性の筋力は40代の女性の筋力にほぼ等しかった.筋力の低下は女性の日常生活機能により大きな影響を与える可能性がある.一方,四肢の筋量は男性では加齢とともに低下するが,女性では加齢による低下はほとんどなかった.このことは女性では筋肉の量的な変化よりも,質的な変化が問題になっていることを示している.日常生活機能は筋肉のパフォーマンスの影響を受け,握力と歩行速度で推定することが可能であった.高齢者の脆弱を予防するためには,これらの評価によりハイリスクの集団を見つけることが重要であろう.<br>