4 0 0 0 OA ライム病

著者
川端 眞人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.83, no.7, pp.1206-1211, 1994-07-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

ライム病は野山に生息する大型のダニ(マダニ)によって媒介され,病原体はBorrelia burgdorferiである.本症は全身性感染症で,第I期症状はマダニ刺咬傷部の丘疹が遠心性に拡大し遊走性紅斑を形成する.第II期にはボレリアが血行性に全身拡散して,神経・循環器・関節などに多彩な病変を生じ,神経症状・関節炎など一部の病変は慢性化し第III期へと移行する.ライム病は1970年代にアメリカ合衆国で最初に確認された.ヨーロッパ諸国でもマダニ刺咬傷に続発する(慢性)遊走性紅斑や髄膜炎の出現は今世紀初頭から記載されており,アメリカ合衆国とヨーロッパ諸国が世界のライム病二大流行地である.東アジアも流行地のひとつで,日本にも流行が確認されている.これまでの調査から日本のライム病は臨床的および疫学的特色が次第に解明され,アメリカ合衆国やヨーロッパとの違いが指摘されている.
著者
武田 淳 川端 眞人 松尾 敏明
出版者
佐賀大学農学部
巻号頁・発行日
no.85, pp.19-43, 2000 (Released:2011-03-05)

ガダルカナル島は,熱帯の島嶼に属するメラネシア・ソロモン諸島の一つで,多様な植生と豊富な資源に恵まれた島である. タラウラ村は,ソロモン諸島の主島ガダルカナル島の首都ホニアラからほぼ50キロメートル東方に位置する.およそ300人ほどの人々が住んでいる集落である. ガダルカナル島タラウラ村における動植物資源の伝統的な利用技術や管理形態を通して,オセアニア島民の島嶼生態系における生存戦略がいかに行なわれてきたか,また現在行なわれているかを探るために1997~1999年まで現地での住み込みによる狭域調査(intensive study)を行なった. 基礎資料は現地で行なった聞き込み法(questionnaires),直接観察法(direct observation)によって得られたデータに基づき,調査期間中にソロモン諸島のマライタ島,フロリダ島やニュージョージア州のギゾ島での広域調査で得られた情報を付け加えた. オーストロネシア語を話すモンゴロイド集団が,インドネシアやフィリピンあたりの多島海からの根茎類・樹木類と土器を携えて,長けた航海術を駆使して,オセアニアの海原に乗り出したのは,今から7,000~5,000年前といわれる.いわば新石器文化をもった「海のモンゴロイド集団」が,先住集団のオーストラロ・メラネシアンの人々を時には避けながら,移住(migration)・定住(sedentarism)・混血(interbreeding)をしながら,オセアニアの大小の島々に地理的に拡散していった.その集団の一つであるラピタ(Lapita)人が,メラネシア・ビズマーク諸島のムサウに残したラピタ土器は,今から3.200から3,300年前になる. 彼らがオセアニアの島嶼に進出と放散・適応する過程で利用した,重要な食用資源には樹木栽培(arboriculture)によるパンノキやココヤシがある.とくにパンノキの実を発酵させたものは,貯蔵食糧(fermented storage food)としても利用する.またココヤシは,人為的な栽培の手を加えなくても,海流に流されてたどり着いた浜辺に自然に根付いて,その生育範囲を広げられる特性をもっている.さらにココヤシの多様な部位が,それも生育過程の各時期(stage)に応じて人間が利用・食用できるメリットは大きい.しかも,ほぼ無尽蔵に利用できる点でもパンノキと同様に非常に重要である. 調査の結果,本集落においてタロイモやヤム等の根茎類を主食とし,シダ類を副食とする,ガダルカナル島の固有な植物性資源に強く依存した食体系(food-technology system)を構築してきたことが判明した.ポストコンタクト(post-contact)と呼ばれる白人たちとの接触によって,島に導入された外来のキャッサバやサツマイモなどの新大陸起源の作物もあった.しかし,それでもなお.プリコンタクト(pre-contact)の島には,自給自足できるほど十分な固有な植物資源に恵まれた環境にあった.ガダルカナル島民がもつ民族植物学的知識は,彼らの生活の中でみられる様々な智恵に垣間みることができるばかりか,その深さや幅の広さに外国の植物学者たちも一様に驚愕することでも十分うなづけるものである.さらにソロモンピジン語で「キャベッジ」と呼んでいる栽培種や野生の採集種は,実に多い.その植物のほとんどすべてが日常的にオカズとして利用される.そのオカズの豊富さと周年性も,ソロモン諸島住民の食生活の大きな特徴と捉えられる. 島をとり囲む裾礁(fringing reef)に足を一歩踏み入れば,サンゴ礁には利用できる水族資源も豊かであるが,彼らにとって海はそれほど魅力もなく,とりたてて海洋資源にさほど依存する必要もなかった.イルカ漁(dolphin hunting)に専念するマライタ島民の一部に見られる海辺住民などを除けば,海洋資源の開発に積極的な姿勢は見られなかったといっていい. ソロモン諸島島民の伝統的な食物利用・技術形態を緻密に調べていく狭域調査は,今後,島嶼生態系の住民の生存戦略を明らかにし,海のモンゴロイドたちがオセアニアに散らばる大小の島々への進出・定性・拡散を探る上でも基礎的な作業といえよう.