著者
藤澤 和子 川﨑 千加 多賀谷 津也子 清水 絵里香
出版者
藤澤和子
巻号頁・発行日
2012-03-20

日本コミュニケーション障害学会助成金 出演:末川一樹 佐々木麻帆 この電子データ「はつ恋」は、日本発の写真版LLブック(LLはスウェーデン語のLättlästの略語。「やさしく読める」本)の試行版である。LLブックは知的障害や読書障害(ディスレクシア)の人にもわかりやすく読める本として制作されたものである。スウェーデンでは国の援助で多くのLLブックが制作されているが、日本では翻訳書が若干あるもののオリジナルで作成されているものは非常に少ないのが現状である。 今回の「はつ恋」は日本オリジナルで文字が読めない人だけでなく、一般の方が写真集としても楽しめるLLブックとして作成した試作版である。この企画は日本におけるLLブック研究の第一人者である藤澤和子氏(京都府立南山城支援学校)と大阪芸術大学図書館の多賀谷津也子氏、同大学の院生や学生達とのコラボレーションによって実現した。筆者はこの企画段階に関わり、約2年を経て冊子版が完成した。この度、より広く多くの方に見て頂くことができるようにその電子書籍データ(ファイル形式:PDF, 110029KB, 推奨環境:タブレット端末(9inch以上)、PC )を公開した。 本書は7つのエピソードを写真の4コマ漫画のように仕立て、それぞれに面白いオチのある短編とし、全体で一つのストーリーとなるように構成している。偶然の出会いから恋心が芽生え、彼女に思いを伝えようとしては失敗する青年の行動や気持ちをコミカルに表現したものである。従来のLLブックでは子ども向けの日常生活に役立つ情報を伝えようとするものが多く、読書の楽しみを提供するものではなかった。今回は大人でも楽しめるよう、恋愛感情を一つのモチーフとして取り入れ、「読む」楽しみを伝えることを目指した。 写真やアクター、冊子版の印刷・製本まですべて多賀谷津也子氏を中心とした大阪芸術大学の院生・学生たちにお世話になった。撮影に当たっては、障害のある人にとって写真の精細さが重要であり、解像度の高さと簡潔な表現が求められた。そのため撮影する高さを固定し一コマずつ、できるだけ余計な背景を入れず、人物の表情がわかるように撮影された。またLLブックであることを示すオリジナルロゴを近澤優衣氏が制作した。 LL冊子版については、藤澤氏の日本コミュニケーション障害学会が交付する研究助成によっており、知的障害を持つ人約20人への聞き取り調査を実施し、同学会第38回学術講演会(2012年5月13日 於 県立広島大学)で「知的障害や自閉症のひとのためのやさしく読める本:LLブックの制作に関する研究」として発表された。インフォーマントの反応は非常に良く、楽しかった、おもしろかったという感想が多かった。一方、いくつかのエピソードについてはわかりにくい、写真の何処を見て良いのかわからない等の今後の制作に役立つ意見もみられた。 最後に、試行版を電子書籍版として公開するにあたり、大阪女学院大学小松泰信准教授にご協力を頂いた。電子化することにより冊子体では得られない精細な写真の美しさが際だったこと、見たい箇所を大きくして見られる等の効果があった。今後、音を加えたり、カラー版を作成するなど様々な可能性を拡げる機会になったと感謝している。またLLブックは図書館の多文化サービスとしての活用可能性をもつものであることも付け加えておく。(文責:川﨑千加)
著者
川﨑 千加
雑誌
司書課程年報(桃山学院大学司書課程)
巻号頁・発行日
no.8, pp.29-42, 2013-03-15

大阪女学院大学及び短期大学の初年次情報リテラシー科目では、半期15週の授業を通して、論文作成のための基本的なスキルを身に付けることを目指している。論文作成プロセスを10のステップにわけ、各ステップ毎に課題を提出しながら、各自の論文を仕上げていくものとなっている。本稿では、この小論文作成過程において、学生がどのように図書館を利用しているかを中心に、学生の記述式アンケートから把握した。616人のアンケートの記述文から、khcoder を用いて抽出された総抽出語数は219,727語、語彙数は5,981語で、「図書館」の出現数は679回であった。本稿ではこの「図書館」に関する679件、170人の記述内容を分析した。論文作成過程では、テーマの選択段階から事前調査、資料の収集段階で図書館を積極的に活用し、資料を読み、考え、執筆する段階では利用が減少していた。また、関連資料が図書館で見つからない、探し方が分からないなど、資料がないことへの不安が多く見られた。このような分析から、図書館の蔵書の充実が論文作成過程で果たす役割は大きく、資料を探しきれていない学生には司書による適切な支援が求められることを示唆した。なお、本稿は2013年3月15日発行『桃山学院大学司書課程年報』第8号の原稿に、若干の修正を加えたものとなっている。