著者
藤澤 和子
出版者
大和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、公共図書館において知的障害者の図書館利用や読書支援を進めるための合理的配慮のあり方について、公共図書館で実証的に検証し、具体的内容と方法を明らかにすることである。本研究の2年目にあたる平成29年度は、スウェーデンの公共図書館等で取り組まれている知的障害者への読書支援サービスについての先行事例を収集した。さらに、28年度に調査した図書館利用についての当事者のニーズ調査をもとに検討した合理的配慮の事項を協力図書館4館において検証を進めながら実践した。①図書館利用のためのわかりやすい配慮については、知的障害のある利用者が声が出たり落ち着けないときや代読に利用できる個室の設置、ピクトグラムによる配架表示、わかりやすい利用案内の制作、図書館に来館する知的障害者に対する一般利用者の理解を促すためのポスター制作を行っている。②わかりやすい図書や視聴覚メディア資料については、LLブック等を収集したわかりやすい図書コーナーを設置して、利用状況の調査等を実施した。コーナーの設置によりLLブック等の貸し出し件数の増加が示され、コーナーの効果が明らかになった。③職員によるわかりやすい対応やサービスについては、読書サポート講座を実施して参加者へのアンケート調査を行った。講座は、図書館、福祉施設や事業所、学校、一般市民を対象に、知的障害者の読書支援のための基礎的知識と代読や読み聞かせの技能を学ぶ内容で、大阪と奈良の3館、東京1館で開催し、1館につき6講座を設けた。講座を受講して知的障害者への読書支援についての関心が深まったという参加者の回答が99%に及び、講座の必要性が明らかになった。知的障害者に図書館見学と読み聞かせ等のサービスを行う図書館体験ツアーを実施し、当事者から好評を得た。
著者
藤澤 和子 川﨑 千加 多賀谷 津也子 清水 絵里香
出版者
藤澤和子
巻号頁・発行日
2012-03-20

日本コミュニケーション障害学会助成金 出演:末川一樹 佐々木麻帆 この電子データ「はつ恋」は、日本発の写真版LLブック(LLはスウェーデン語のLättlästの略語。「やさしく読める」本)の試行版である。LLブックは知的障害や読書障害(ディスレクシア)の人にもわかりやすく読める本として制作されたものである。スウェーデンでは国の援助で多くのLLブックが制作されているが、日本では翻訳書が若干あるもののオリジナルで作成されているものは非常に少ないのが現状である。 今回の「はつ恋」は日本オリジナルで文字が読めない人だけでなく、一般の方が写真集としても楽しめるLLブックとして作成した試作版である。この企画は日本におけるLLブック研究の第一人者である藤澤和子氏(京都府立南山城支援学校)と大阪芸術大学図書館の多賀谷津也子氏、同大学の院生や学生達とのコラボレーションによって実現した。筆者はこの企画段階に関わり、約2年を経て冊子版が完成した。この度、より広く多くの方に見て頂くことができるようにその電子書籍データ(ファイル形式:PDF, 110029KB, 推奨環境:タブレット端末(9inch以上)、PC )を公開した。 本書は7つのエピソードを写真の4コマ漫画のように仕立て、それぞれに面白いオチのある短編とし、全体で一つのストーリーとなるように構成している。偶然の出会いから恋心が芽生え、彼女に思いを伝えようとしては失敗する青年の行動や気持ちをコミカルに表現したものである。従来のLLブックでは子ども向けの日常生活に役立つ情報を伝えようとするものが多く、読書の楽しみを提供するものではなかった。今回は大人でも楽しめるよう、恋愛感情を一つのモチーフとして取り入れ、「読む」楽しみを伝えることを目指した。 写真やアクター、冊子版の印刷・製本まですべて多賀谷津也子氏を中心とした大阪芸術大学の院生・学生たちにお世話になった。撮影に当たっては、障害のある人にとって写真の精細さが重要であり、解像度の高さと簡潔な表現が求められた。そのため撮影する高さを固定し一コマずつ、できるだけ余計な背景を入れず、人物の表情がわかるように撮影された。またLLブックであることを示すオリジナルロゴを近澤優衣氏が制作した。 LL冊子版については、藤澤氏の日本コミュニケーション障害学会が交付する研究助成によっており、知的障害を持つ人約20人への聞き取り調査を実施し、同学会第38回学術講演会(2012年5月13日 於 県立広島大学)で「知的障害や自閉症のひとのためのやさしく読める本:LLブックの制作に関する研究」として発表された。インフォーマントの反応は非常に良く、楽しかった、おもしろかったという感想が多かった。一方、いくつかのエピソードについてはわかりにくい、写真の何処を見て良いのかわからない等の今後の制作に役立つ意見もみられた。 最後に、試行版を電子書籍版として公開するにあたり、大阪女学院大学小松泰信准教授にご協力を頂いた。電子化することにより冊子体では得られない精細な写真の美しさが際だったこと、見たい箇所を大きくして見られる等の効果があった。今後、音を加えたり、カラー版を作成するなど様々な可能性を拡げる機会になったと感謝している。またLLブックは図書館の多文化サービスとしての活用可能性をもつものであることも付け加えておく。(文責:川﨑千加)
著者
清田 公保 中山 典子 藤澤 和子 井上 智義
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. WIT, 福祉情報工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.746, pp.19-24, 2004-03-18
参考文献数
4
被引用文献数
4

本研究では文字や言葉を十分に利用できない知的障害児のコンピュータリテラシー教育に関して,視覚シンボルとメディア情報を用いたコミュニケーション支援を提案し,知的障害児における情報処理教育の導入を試みる.コミュニケーション支援の完全な理想形態は,様々な障害を持つ人同士が必要とする情報を補完的に完備したシステムであるとの観点に立ち,画像や音声,テキストなどに等価な協調性を持たせた共通メディア情報言語の概念を新たに導入する.研究事例として知的障害児に対してコンピュータを用いた情報伝達の情報教育を目指し,視覚シンボルを媒体とした電子メールソフトを開発する.提案システムを児童に利用してもらった結果,視覚シンボルをコンピュータによる情報交換のメディアとすることによって電子メールの利用の可能性を見いだした.
著者
シャンプー ベルナルド 藤澤 和子 井上 智義 岩舘 祐一
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.24, no.29, pp.1-6, 2000-05-16
参考文献数
9
被引用文献数
2

本報告ではコンピュータ支援によるアイコン言語システム、CAILSについて述べる。本システムを利用すると、ユーザはアイコンの基本セットを組み合わせることにより、メッセージの作成、概念の表現、或いはルールの教授などを行える。CAILSはユーザの視覚的記憶を利用したものであり、イメージを特定することによってあいまいさを除くことができる。このシステムは、異言語間のコミュニケーション、ビジュアル/空間的概念の表現、またビジュアル教育などへの応用が可能である。
著者
藤澤 和子
出版者
三重県亀山市立亀山西小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

1.研究目的知的障害のある人たちが、遠隔コミュニケーションを拡げるために携帯電話などの携帯端末で利用できるシンボルを使ったWeb版のメールシステムを開発し、特別支援学校での事例実践によりシステムの教育的な有用性と実用性を検証する。2.研究方法携帯端末に対応できるインターフェースの開発を行い、Ipad、Iphone、パソコンを使って、メールの送受信を行った。A養護学校の知的障害児童5名を対象に、クラス担任3名と、A養護学校で児童がよく知っている教師や保護者、他の養護学校教師7名が参加して、メール交換を行った。顔のイラストで送受信者を選択できるようにしたので、参加者は、事前に登録する手続きを取った。3.研究成果携帯端末用のインターフェースは、表示されるシンボルのサイズが小さくなり、一画面にたくさん並べることは難しくなるため、選択したシンボルの大きさを画面にタッチすることで自由に拡大縮小できる機能を付け、シンボルのカテゴリーに階層性を持たせることで、できるだけ多くのシンボルから選んでメールを作成できるようにした。23年1月~3月にメール使用を実施した。対象児童は、Ipadを使い、遊び時間などに自発的に、保護者や別クラスや他の学校の教師といった目の前にいない人に向けてもメールを送り、返信メールの受信を楽しみにした。児童以外の参加者も、家や学校などからIphoneやパソコンを使って、児童へのメールの返信や自発的な送信を行った。児童からのメッセージは、学校でがんばっていることや遊んでいることの報告や、遊ぼうという呼びかけ、何を勉強しているのかという問いかけなど、伝達意図は明確だった。参加者全員の総メール回数は199回に達し、本システムが時間と場所を選ばず、パソコン環境の有無などの影響を受けずにメール交換ができた利便性と遠隔コミュニケーションツールとして活用できる有効性を明らかにしたと考える。
著者
藤澤 和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.23-29, 2004-04-25 (Released:2009-11-19)
参考文献数
11
被引用文献数
1

話しことばのない青年期の自閉症者1名に対し,シンボルと文字を使ったコミュニケーションの個別指導を3年間行った.その結果,話題を共有した相互的なやりとりが増えた.生活場面でも,自発的なコミュニケーション行動が増加し,両場面で他者の視点を理解したコミュニケーション行動が認められた.本事例では,AAC手段による指導や情緒的に安定できる日常的な人間関係が,自閉症の対人機能に改善をもたらしたと考えられた.