著者
市崎 一章
出版者
宮崎女子短期大学
雑誌
宮崎女子短期大学紀要 (ISSN:02898748)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.1-15, 2006-03

英語母語話者が、3項または4項から成り、3種類の文法構造を有する肯定Yes-No疑問文を対象に、各項を強調して発話した。そして文の全長、および強調された項の、長さ・高さ・強さの変化等の韻律特徴を音声分析ソフトを用いて計測・分析した。強調は、音の高さ変化に増幅したかたちで最も顕著に反映された。ある項を強調するひとつの手段として、ポーズの使用があるが、調査結果より、その挿入箇所が予測可能であることが判明した。文の左端または右端の項を強調する場合は、それぞれその直後、直前にポーズが置かれる。というのも、ポーズの挿入によって一連の発話音声が中断され、それがポーズに隣接する項の音調を孤立させるが、その孤立音調こそが卓立を生じるからである。Yes-No疑問文においては、主語と動詞の文法的(連語上の)結びつきは、左端の項(助動詞)と主語との結びつきや、動詞と引き続く項(補語や目的語)との結びつきより、弱いため、主語や述語(動詞)を強調する場合は、いずれもポーズは主語と動詞の間に置かれることになる。また、強調された項の位置による韻律特徴の増幅については、左端の先頭項がその程度においても、増幅する韻律特徴の数においても最も顕著になった。文の長さについては、いかなる強調発話であっても、常に中立発話よりも長くなることが観察された。中には、強調と共に、ある韻律特徴の値が中立発話時よりも小さくなることもあったが、その際には必ず基本周波数曲線に変化が生じており、ピッチの変化の方向も、強調を反映する重要な韻律特徴の一つであることが示唆された。すべてのデータをまとめると、強調は本稿で扱った何らかの韻律特徴の増大として74%という確率で現れ、そしてそれらの増大分は73%という確率で他項の韻律特徴の減少として補償された。