著者
市川 千恵子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

「堕ちた女」の感傷的な表象や、慈善活動の救いの対象としての受動的な存在としてではなく、自律した生を模索する下層階級女性の姿を、マーガレット・ハークネス(1854-1923)の著作を中心に考察した。ハークネスの語りには、下層階級女性を物語の声の主体としながらも、中流階級的なまなざしが介在する。その一方で、労働者階級女性の経済的脆弱さ、政治的声の獲得の困難さを提示する際には中流階級的価値観に対する批判と抵抗を潜ませる。自らの権利の模索としてのストライキへの参加に、慈善活動における階級差を基盤とした女性の関係とは異なり、労働者階級女性の連帯の萌芽と、彼女たちの政治的覚醒のあり様を見出すことができた。