著者
市川 喜崇
出版者
福島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

革新自治体期の(1)老人福祉,(2)公害規制,(3)開発規制,(4)自主財政権獲得政策の4分野の政策過程を分析することによって日本の地方自治体のもつ潜在的可能性が顕在化する条件を探ることが長期的な課題であるが,今年度は,その予備作業として,日本の地方自治史に占める革新自治体期の位置づけを明らかにすることに力点を置いた。革新自治体期はいわゆる「新中央集権」といわれる時代に引き続いて現れるので,新中央集権について考察し,その結果を,論文「『新中央集権主義』の再検討」(福島大学『行政社会論集』第9巻第3・4号,1997年3月)にまとめた。ついで,美濃部革新都政の公害規制政策について現在研究をまとめているところである。まだ完成途上にあるが,その概要は以下のようになる予定である。深刻化する公害問題に対応するため,美濃部都政は公害防止条例を制定し,国の法律よりも厳しい基準で公害規制に乗り出した。これに対して国は当初,自治体が法律よりも厳しい基準を条例で定めることはできないとの姿勢で臨んだが,公害問題が深刻極まる中で法律論争をすることは世論の支持を失うと見ると姿勢を転換し,むしろ,法律の基準を都条例なみに厳しくすることによって問題を決着させた。その結果,国は再び法律の優位を取り戻した。これは都の政策が全国化したという意味で美濃部の勝利であったが,国は,政策内容で譲る代りに,法律-条例関係の厳格は解釈権(「先占理論」)を守ったともいえる。都の勝利の要因は,第1に世論の支持とマスコミの注目であり,第2に都が国と同等以上の専門知識を有していることであった。このことは,上記(4)の政策における都の敗北と対比すると一層明らかになるものと思われる。