著者
市川 豪
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は、平成23年度にフランスのラウエーランジュバン研究所で17日間にわたって取得した実験データの物理的な解析を行った。超冷中性子の量子状態の位置分布を、凸面鏡を用いて拡大するというこれまでに前例のない実験手法であり、解析の方法についても、結果を実験的に確認したものが無いため、新たに考案する必要があった。中性子の分布が拡大円筒で反射されてピクセル検出器上で検出されるまでの過程は、鉛直方向の位置だけではなく運動量にもよるため、位相空間上の中性子分布を用いる必要がある。そのため、ウィグナー関数を用いて位相空間上の準確率分布を考え、ガイド端の位相空間上の点とピクセル検出器上での検出位置の対応関係を、古典力学による軌跡で近似することで、検出器上の中性子分布を与えるモデルを立てた。量子状態の各準位の確率は、古典力学と同じエネルギー分布を持ち中性子ガイド内に入射した超冷中性子が、ガイドの中で床と天井によって取り除かれていく、という過程を定式化して計算を行った。実験データの中性子分布と、量子力学に基づく計算による分布はよく一致し、特にはじめの数個の分布の濃淡が一致していることが確認出来た。これは、明らかに、古典力学に基づいた計算からは得られない結果である。中性子分布を測定する精度は、0.7マイクロメートルであると評価した。これまでの中性子の分布を測定する精度は、検出器単体の分解能の数マイクロメートルに限られていたが、この研究によって、これを越えるサブミクロンの精度で測定することに世界で初めて成功した。