著者
山口 裕文 平井 佐津紀
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.38-45, 1987-05-26 (Released:2009-12-17)
参考文献数
18

雑草には種群の分類が難しいものが多い。自然雑種や変異の解析は種群の認識の手助けになる。ニワゼキショウ (Sisyrinchium rosulatum BICKN.) にはオオニワゼキショウ (本文では L-race と示す) と呼ばれる類似品があり, 分類学的な検討が望まれている。この二群が混生する大阪府立大学構内に自然雑種と思われる中間型が見られ, 花色の変異が大きい (Fig. 1)。中間型が自然雑種であることを証明する目的で人為交配を行ない, 両親と人為雑種および中間型の形態と花粉稔性および染色体を観察した。また, ニワゼキショウの花色の変異の遺伝を調べた。ニワゼキショウ, オオニワゼキショウおよび中間型の差は多くの形質で量的であったが, 中間型は花色と果実が実らない点で区別された (Table 1)。交配は比較的容易で (Table 2), ニワゼキショウの赤紫花, 白花およびオオニワゼキショウの間で健全な人為雑種が得られた。人為雑種の植物体の特徴はニワゼキショウとオオニワゼキショウの中間的であった (Figs. 2, 3)。また, 人為雑種は体細胞で両親と同じ32本の染色体を持つが (Plate 1), その花粉稔性は3~30% (Table 3)で, 花粉母細胞では多極分裂が見られた。中間型は3~28A%の花粉稔性を示し, 花粉母細胞では人為雑種と同様の多極分裂が見られた。ニワゼキショウの花色変異体間の交配のF1は総て白花となり, F2や戻し交配の分離の結果から (Table 4), 白花は赤紫花に対して一遺伝子優性と推定された。形態の類似性と同じ染色体数を持つことおよび雑種が低い稔性を示す事から, オオニワゼキショウはニワゼキショウに近縁の別の分類群に所属すると考えられた。また, 中間型はニワゼキショウとオオニワゼキショウ間の自然雑種と推定された。原産地の合衆国南部のニワゼキショウは花色の変異が大きく近縁種との自然交雑も見られている。この大きい花色の変異は花色の多型現象と自然交雑によって引き起こされているらしい。