著者
道下 雄大 梅本 信也 山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.33-55, 2005-03-31
被引用文献数
1

外周型の構造をとる日本の民家庭園では,さまざまな有用植物や野生植物が利用保存されて来た。このような庭園での植物と人との関わりを明瞭にする一例として,2004年の春と秋の2回,伊豆半島北部の2集落と東南部の2集落で,計80軒の民家庭園に生育する維管束植物を調査し,現地の住民より利用法と導入由来を聞き取った。145科781種の植物の生育が確認された。確認されたすべての種は,確認された軒数,常在度,鉢植えにされているかどうか(鉢比率),利用法とともに表1に示した。常在度は,雑草ではカタバミ,イヌワラビ,オニタビラコ,メヒシバ,コモチマンネングサ,ツメクサの順に高く,雑草を除く有用植物では,ドクダミ,ナンテン,ヒラドツツジ,キリシマツツジ,ウメ,イワヒバの順で高かった。有用植物には,631種あり,観賞,垣根,食用,薬用,儀礼,工芸用として利用されていた。有用植物の約8割は観賞用であり,花,葉,果実が観賞されたり,盆栽や忍玉として利用されたりしていた。鉢比率は,ナツメグゼラニウム,ウキツリボク,ハナスベリヒユ,外国産多肉植物など商店で購入された観賞植物や盆栽の植物などで高い傾向にあった。聞き取り調査で明らかとなった植物の導入先や由来は,自然実生の侵入,山野からの採集,店からの購入,贈答の4つに大別でき,その違いによって管理の様子に違いがあった。多様な由来をもつ植物が確認されたが,特に至近の野山から導入されたエビネ類,クマガイソウなどの日本原産林床性種に貴重種が多く,民家庭園は遺伝資源の現地保全(in site conservation)の機能を果たしているとも考えられた。
著者
紙谷 年昭 中山 祐一郎 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究. 別号, 講演会講演要旨 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
no.42, pp.112-113, 2003-04-19

希少種を多く含む水生雑草であるミクリ属(Sparganium L.)植物は水辺の植物群落の復元などにおいて自然修復措置の素材として注目されている。しかし,ミクリ属では種の同定の難しさもあって研究が進んでおらず,環境修復を効率よく進めるために必要な生活史や生育環境についての基礎的な情報が不足している。ミクリ属は根茎断片による分布拡大や根茎によるクローン成長によって群落を形成する。この性質は修復地における移植初期の群落形成に重要な役割を果すと考えられる。そこで本研究では,ミクリ属のミクリとオオミクリ,ヒメミクリを環境修復素材として用いる際の基礎的な知見を得るため,3種を同一環境下で栽培し,根茎の伸長様式をはじめとするクローン成長に関する形質を調査した。
著者
山口 裕文 久保 輝幸 池内 早紀子 魯 元学
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.127-139, 2019 (Released:2020-01-28)
参考文献数
117

シロザとアカザを含む“あかざ”Chenopodium albumに関する中国における文化認識の変遷を把握する目的で清代以前の64の漢籍にみられる“あかざ”の漢名と生態的・形態的特徴および利用の記述を調査した。“あかざ”は,雑草(非有害)や食用(蔬または羮,穀物),杖,灰の素材として認識され,三国時代までに萊,藜,藋,釐,拝,蔏および茟などの文字で表され,唐宋代には灰條,灰藋,白藋,青藜,金鎖夭,紅灰藋,鶴頂草など2,3文字でも表記されるようになり,明代には紅心の藜(および丹藜,藜菜,臙脂菜,舜芒穀,観音粟など)と葉に白粉をつける灰藋(および灰條,灰条,灰菜,灰條莧など)との2群で認識され,清代には地膚や絡帚,薇,苜蓿などとの混同が修正され,藜または灰藋に集約されていた。調査した漢籍のうち80%の文献に用途が示され,用途の記された文献のうち蔬(菜または羮)に関する文献は71%あり,杖(藜杖)に関する文献は59%あった。
著者
山口 裕文 平井 佐津紀
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.38-45, 1987-05-26 (Released:2009-12-17)
参考文献数
18

雑草には種群の分類が難しいものが多い。自然雑種や変異の解析は種群の認識の手助けになる。ニワゼキショウ (Sisyrinchium rosulatum BICKN.) にはオオニワゼキショウ (本文では L-race と示す) と呼ばれる類似品があり, 分類学的な検討が望まれている。この二群が混生する大阪府立大学構内に自然雑種と思われる中間型が見られ, 花色の変異が大きい (Fig. 1)。中間型が自然雑種であることを証明する目的で人為交配を行ない, 両親と人為雑種および中間型の形態と花粉稔性および染色体を観察した。また, ニワゼキショウの花色の変異の遺伝を調べた。ニワゼキショウ, オオニワゼキショウおよび中間型の差は多くの形質で量的であったが, 中間型は花色と果実が実らない点で区別された (Table 1)。交配は比較的容易で (Table 2), ニワゼキショウの赤紫花, 白花およびオオニワゼキショウの間で健全な人為雑種が得られた。人為雑種の植物体の特徴はニワゼキショウとオオニワゼキショウの中間的であった (Figs. 2, 3)。また, 人為雑種は体細胞で両親と同じ32本の染色体を持つが (Plate 1), その花粉稔性は3~30% (Table 3)で, 花粉母細胞では多極分裂が見られた。中間型は3~28A%の花粉稔性を示し, 花粉母細胞では人為雑種と同様の多極分裂が見られた。ニワゼキショウの花色変異体間の交配のF1は総て白花となり, F2や戻し交配の分離の結果から (Table 4), 白花は赤紫花に対して一遺伝子優性と推定された。形態の類似性と同じ染色体数を持つことおよび雑種が低い稔性を示す事から, オオニワゼキショウはニワゼキショウに近縁の別の分類群に所属すると考えられた。また, 中間型はニワゼキショウとオオニワゼキショウ間の自然雑種と推定された。原産地の合衆国南部のニワゼキショウは花色の変異が大きく近縁種との自然交雑も見られている。この大きい花色の変異は花色の多型現象と自然交雑によって引き起こされているらしい。
著者
山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.73-78, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
41
被引用文献数
1
著者
道下 雄大 山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科学術報告 (ISSN:18816789)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.13-37, 2006
被引用文献数
1

民家庭園など人の身近な場には,遺伝資源または文化遺産として重要なさまざまな維管束植物が生育している。これらの植物の多様性を体系的に知るために,2005年の春と秋に長崎県平戸市の2集落と松浦市の2集落において庭園に生育する維管束植物を調査し,その利用法と導入経緯を聞き取り調査した。確認された161科868種の植物について,確認した戸数,常在度,鉢植えの実態(鉢比率),利用法をまとめた。有用植物では,ナンテン,イヌマキ,ヒラドツツジ,ツワブキ,ツバキ,マンリョウ,シンビジュームの順で常在度が高く,雑草ではカタバミ,オニタビラコ,ムラサキカタバミ,メヒシバ,ツユクサ,キツネノマゴ,コミカンソウ,ツメクサの順に常在度が高かった。651種の植物は,観賞用,垣根,食用,薬用,儀礼用,工芸用などにされていた。有用植物の約8割は観賞用で,花や葉や果実が観賞対象とされ,盆栽や忍玉としても利用されていた。国外産多肉植物は鉢植えとされる傾向が高く,シンビジューム,フチベンベンケイ,クンシラン,クジャクサボテンの順で鉢比率が高かった。40科58種では地方名を記録した。調査対象地の民家庭園の植物は,観賞植物を中心として高い多様性を示した。
著者
橘 雅明 伊藤 一幸 渡邊 寛明 中山 壮一 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.175-184, 2008 (Released:2009-01-24)
参考文献数
29
被引用文献数
3 2

東北地域の転作コムギ畑で問題となっているハルザキヤマガラシ(Barbarea vulgaris R.Br.),カミツレモドキ(Anthemis cotula L.)および侵入が危惧されるイヌカミツレ(Matricaria inodora L.)の防除法を策定するために,出芽を中心にこれらの生活史を調査し,除草剤と中耕による管理について検討した。カミツレモドキは,青森県の秋播きコムギ畑では,主に秋季に出芽する越冬個体が雑草害の原因となっていた。カミツレモドキは春季と秋季の年2回種子より出芽していた。コムギ畑に発生したハルザキヤマガラシ,カミツレモドキおよびイヌカミツレの帰化雑草3草種に対しては,播種直後のリニュロン水和剤土壌処理,秋季の出芽終期にあたる11月上旬のアイオキシニル乳剤処理,5月上旬の条間中耕またはアイオキシニル乳剤処理に高い除草効果がみられた。上記の3つの除草管理時期のうち,いずれか2つの時期に適切な除草管理を実施すれば各草種の収穫期乾物重は無除草区の4%以下となり,帰化雑草3草種のいずれでも防除できる。カミツレモドキとイヌカミツレについてはチフェンスルフロンメチル水和剤による茎葉処理でも高い除草効果がみられた。
著者
中山 祐一郎 梅本 信也 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.205-217, 1999-10-29 (Released:2009-12-17)
参考文献数
33
被引用文献数
16 20

温帯東アジアのヒエ属 (Echinochloa) 植物の形態的特徴の変異は非常に大きく, ときに分類群の同定が困難である。そこで, 中国雲貴高原を中心とした外国産および日本産のヒエ属植物の16の分類群または型-E. obtusiflora (2倍体), E. crus-pavonis (2倍体), E. stagnina (4倍体と6倍体), タイヌビエの群 (4倍体: タイヌビエのC型とF型, 非脱粒性タイヌビエ, 栽培型タイヌビエおよび E. phyllopogon), イヌビエの群 (6倍体: イヌビエ, ヒメタイヌビエ, ヒメイヌビエ, ヒエ, リコウビエおよび E. oryzoides) およびコヒメビエの群 (6倍体: コヒメビエおよびインドビエ)-のアイソザイムの変異を分析した。酵素6PGD, AATおよびADHにおいて, 4倍体および6倍体の種は, それぞれの倍数性に応じたバンドの重複を示した。イヌビエの群 (6倍体) とコヒメビエの群 (6倍体) では, アイソザイムパターンは異なっていた。タイヌビエの群 (4倍体) とイヌビエの群 (6倍体) は, 小穂の形態では識別が困難であるが, 群内のアイソザイムの多型はわずかしかみられず, アイソザイムパターンによって倍数性の異なる2群が識別できた。数種の酵素を用いてアイソザイム分析すれば, ヒエ属植物の倍数性群が判別できるので, 分類群の同定が容易となる。
著者
梅本 信也/山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
no.54, pp.41-47, 2002-03-31

和歌山県紀伊大島では, 江戸時代以来, 半農半漁が営まれてきた。ここでは生活を支える重要な植物資源としてイネ科のススキMiscanthus sinensisとチガヤImperata cylindricaが共に利用され, 持続的に保全されてきた。両草本の利用と保全的管理の関係史は以下のようにまとめられる。(1)江戸期から明治前期:江戸時代には上方と江戸とを給ぶ菱垣廻船の風侍港として紀伊大島は栄えていた。明治前期には, チガヤが船舶に欠かせない防水シートとして編まれて販売された。 (2)明治後期から昭和30年代前半:チガヤは生業に欠かせない防水シート, 農薬用の「ふご」, 海苔乾燥用のスノコおよび葬儀および仏事用庇いとして利用された。これらは「とましぼた」と呼ばれる編み機を使い, 女性遂によって製作された。島内の耕地周辺にはチガヤ草地が入念に管理され, 必要な量を供給した。一方, ススキはそれほど多用されなかった。(3)昭和30年代から昭和末期:ビニールシートの普及によって, チガヤシートの利用が激減した。また, 徐々に儀礼が簡素化され, チガヤ利用が減少した。湿田も続々と放棄され, 稲わらの供給が低下した。一方, この頃から暖地花卉弁栽培が盛んとならだため, 農業資材としてススキの需要が高まった。そこでススキ草地の利用が始まった。(4)昭和末期から平成期:花弁栽培とキンカン栽培への傾斜の結果, ススキがさらに必要になった。従来のススキ草地に加えてススキ移植栽培も始まった。チガヤの冠婚葬祭利用はさらに減少した。
著者
橘 雅明 伊藤 一幸 渡邊 寛明 中山 壮一 山口 裕文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.175-184, 2008-12-24
被引用文献数
2

東北地域の転作コムギ畑で問題となっているハルザキヤマガラシ(Barbarea vulgaris R.Br.),カミツレモドキ(Anthemis cotula L.)および侵入が危惧されるイヌカミツレ(Matricaria inodora L.)の防除法を策定するために,出芽を中心にこれらの生活史を調査し,除草剤と中耕による管理について検討した。カミツレモドキは,青森県の秋播きコムギ畑では,主に秋季に出芽する越冬個体が雑草害の原因となっていた。カミツレモドキは春季と秋季の年2回種子より出芽していた。コムギ畑に発生したハルザキヤマガラシ,カミツレモドキおよびイヌカミツレの帰化雑草3草種に対しては,播種直後のリニュロン水和剤土壌処理,秋季の出芽終期にあたる11月上旬のアイオキシニル乳剤処理,5月上旬の条間中耕またはアイオキシニル乳剤処理に高い除草効果がみられた。上記の3つの除草管理時期のうち,いずれか2つの時期に適切な除草管理を実施すれば各草種の収穫期乾物重は無除草区の4%以下となり,帰化雑草3草種のいずれでも防除できる。カミツレモドキとイヌカミツレについてはチフェンスルフロンメチル水和剤による茎葉処理でも高い除草効果がみられた。
著者
梅本 信也/山口 裕文
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学農学部学術報告 (ISSN:1344848X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.25-31, 1999-06-15

京都大学理学部(KYO), 東京都立大学牧野標本館(MAK)と国立科学博物館(TNS)および中華人民共和国の中国植物科学院(PE)と南京大学(N)の標本室に保存されているタカサブロウ属(キク科)の〓葉標本301点と各国植物誌におけるタカサブロウ属の分類学的記述, および笠原(1974)と笠原・武田(1978)の雑草の種子と果実に関する考古学的研究におけるタカサブロウ属にかかわる成果を検討し, タカサブロウEclipta thermalis BungeとアメリカタカサブロウE.alba(L.)Hasskarlの日本への帰化時期と帰化様式を推定した。タカサブロウは, 植物地理学的には東アジアの湿潤温帯部に本来の分布域を持ち(Tables 2,4), 稲作とともに日本にもたらされ, 少なくとも弥生時代には日本の低湿地に分布した史前帰化植物であり(Table 3), 一部は近代の物流拡大に伴って再導入されたと考えられた(Fig.1)。一方, アメリカタカサブロウは, 新世界の北・中米に本来の分布域を持つコスモポリタン種であり(Table 4), 日本へは第2次世界大戦とその終了にともなって1948年以降に軍事散布された(Fig.1;Table 1)と考えられた。
著者
山口 裕文 梅本 信也 前中 久行
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.249-257, 1998-10-30
被引用文献数
15 11

大阪府堺市における整備段階の違う水田において5月から12月の間, 約1月間隔で畦畔植生を調査し, 出現する種の構成と多様性の変化を検討した。棚田地帯の隣接した水田から, 伝統的水田, 基盤整備後1年目の水田, 基盤整備後5年を経過した水田を選び, 畦畔の平坦面の植生を全推定法により調査した。未同定種を含めて161種の植物の生育が認められた(Table 1)。伝統的畦畔には83種, 整備後5年を経た畦畔(5年畦畔)では92種, 整備後1年目の畦畔(直後畦畔)では94種が認められたが, 群落を構成する種は大きく異なっていた(Table 2)。伝統的畦畔では, 在来の多年草が有意に多く, チガヤ, ヨモギ, ノチドメ, スイバが優占し, 半地中植物が多い傾向にあった。また, 帰化植物は, 非常に少なかった。5年畦畔では, 多年生帰化植物が多く, 春にはカラスノエンドウが, 秋にはメヒシバが優占し, 帰化植物率が高かった。直後畦畔では, イヌビエやイヌタデの出現が顕著で, 在来および帰化の1年草(1回繁殖型植物)の生育が多く, 在来の多年草は少なかった。伝統的畦畔では, 種多様度が高く, 冬季にも多様度は低下しなかった(Fig. 1)。直後畦畔では春季の種多様度は比較的高かったが, 夏季から冬季に向かって多様度の顕著な低下がみられた。5年畦畔では種多様度はやや低く, 季節変動も小さかった。基盤整備により改修された畦畔では本来の畦畔植生への遷移とは異なる系列を辿っていると考えられた。
著者
山口 裕文 佐合 隆一 伊藤 一幸 榎本 敬 種坂 英次 秋本 正博 副島 顕子 大野 朋子
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

耕地雑草あるいは侵入植物として生物多様性に影響を及ぼす恐れのあるヒエ属植物(イネ科)について、ユーラシア、北南米、アフリカ、オセアニア地域において海外踏査を行い生態的特性と形態的多様性の実態を調査し、植物標本館における調査と併せて、地域ごとに多様性の実態をまとめた。一年生種は原生地および侵入地とも稲作や畑地の雑草として、国際移動した多年生種は侵入種として水辺や湿地の生物多様性に影響すると推定される。
著者
山口 裕文 中尾 佐助
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.32-45, 1975-02-28
被引用文献数
2

栽培植物の近縁野生種や同伴雑草(companion weeds)は作物の進化に重要な役割を果している(HARLAN1965)。雑草系統には品種改良の遺伝子源として重要なものが含まれる。燕麦の育種の基礎的研究として,日本の雑草燕麦をMALZEW(1930)のsystemに従がって分類地理学的に検討した。また,雑草燕麦の適応と日本への渡来について考察を加えた。 1970〜1971年の筆者の蒐集標本と京都大学,東京大学,国立科学博物館所蔵の措葉標本について調査したところ,3種(11亜種);Avena strigosa Schreb. subsp.barbata Thell., A. fatua L. sens. ampl., A. sterilis L.が雑草と認められた。A.fatua L.は7亜種:subsp. septentrionalis, subsp. nodipilosa, subsp. macrantha, subsp. cultiformis, subsp. praegravis から成り,最も多様であった。その内容は25変種,6亜変種,1品種で,このうち3変種(var. pilosiformis, var. hyugaensis,var. nipponica), 4亜変種,(subvar.pumila,subvar. Zine, Subvar. maniformis, subvar. pseudonana),1品種(forma subcontracta)を新分類群として記載した。
著者
道下 雄大 梅本 信也 山口 裕文
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.81-89, 2009-05-30
被引用文献数
1

観賞利用を主な目的とした植物の人為的移動が及ぼす生物多様性への影響を考察するために、長崎県、和歌山県および静岡県の民家庭園にみられるRDB掲載植物の種類と常在度を調べ、導入経緯の聞き取りを分析した。環境庁または県のRDB掲載植物は、3県の民家庭園に25科53種みられ、82%の民家庭園に少なくとも1種確認された。聞き取りでは、自生地よりの採集が89例、親戚や知人等よりの贈呈が45例、購入による導入が12例あり、この傾向には地域による違いはなく、調査した民家庭園では採集による導入が多い傾向にあった。集落ごとにみられるRDB掲載植物の種数と多様度は、漁業を主とする海岸の集落では低く、農林業を主とする中山間地の集落で高い傾向にあった。民家庭園のRDB掲載植物には地域外からの導入や園芸品種化した植物があり、これらは野生化や近隣の自生個体との自然交雑をとおして生物多様性の劣化要因となると考えられた。