著者
平井 健介 Kensuke HIRAI
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.55-88, 2021-03-20

本稿は,日本植民地における「同化」の経済的条件を解明する試論として,同化の重要な指標とされた「衛生」に着目し,台湾人の入浴行動の変容とその限界の要因を経済的現象と関係づけながら考察した。考察の結果,台湾人は特に夏季にはほぼ毎日洗身し,そのうち「有識階級」の男性を主軸とする一部の人々が,約2~3週間に1度のペースで浴場を利用したであろうということ,彼らが利用した浴場は湯屋や公共浴場のほか,公学校に併設された教員宿舎の浴場が重要であったのではないかということを指摘した。また,台湾人が入浴するには,浴場に必須の大量の温水を容易に得られるか否かという都市インフラの整備の問題,安価な石鹸が供給され続けるかという市場の問題と密接に関係しており,同化は政治的問題であると共に,経済的問題でもあったことを指摘した。