- 著者
-
山崎 彰
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 = Socio-economic history (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.81, no.4, pp.587-608, 2016
本研究は,ブランデンブルクの貴族家であるマルヴィッツ家を対象として,19世紀に同家の所領(農場)の所有形態がレーエン(封)から世襲財産へと移行した歴史的意義を検討した。レーエンでは所領は狭く領主家に限らず,親族全体の経済的基盤としての意味を持たされ,遺産相続においては共同相続人に対する平等の分割を前提としていた。しかし18世紀に領主家によるフリーデルスドルフ領の開発が進み,所領の評価価値が上昇するにつれ,共同相続人に対して遺産配分のために発行される抵当債券の残高が増大し,かえって領主家の財務状況を悪化させた。領主家は,18世紀後半には富裕な貴族家との縁組みを通じた嫁資の獲得によって債券の回収をはかったが,しかし19世紀前半には農場収益の大半が利払いによって費消されるほど,財務状況は悪化した。マルヴィッツ家によるレーエン制の廃止と世襲財産の導入(1854年)は,新規借入を停止し,農場資産の一括した継承権を長子に認めた上で,相続人から傍系男子親族を排除することによって,貴族家における親族制度の解体と小家族制の成立を意味するものとなった。