著者
平井 勇介
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.97-115, 2014 (Released:2015-07-04)
参考文献数
19

本稿の目的は, 森林環境保全や生活保全のために地権者自らが所有権を一時的に制限しようとした, 地権者組織の論理を明らかにすることである.本稿の事例地は, 都市近郊に位置し, 開発圧力が非常に高い場所である. 一般的に, そのような地域で計画された自然再生事業や自然環境保全活動に対して, 地権者の協力を得ることは難しいと想定される. しかしながら, 事例地の地権者組織は, 一時的ではあれ自らの所有権を制限する, 事業への条件つき賛成案を提案したのだ.この地権者組織の所有権制限の論理とは, 簡略に述べれば地域社会の「秩序再構築」であった. 事例地では, 1990年代に生じたダイオキシン問題によって, 地権者間に経済的・心理的な格差がうまれていた. なぜなら, ダイオキシン問題の原因となった産業廃棄物業者などへ土地を貸借/売却した地権者や平地林を売らずに守り続けた地権者などが, 地域社会に併存していたためである. 地権者組織は, この地権者間の格差を是正するという案だからこそ, それぞれの地権者の所有権を制限する, 自然再生事業への条件つき賛成案を組織の総意とできたのである.こうした事例から本稿では, 森林環境保全や生活保全のために所有者自らがその権利を一時的に制限しようとした論理として, 地域社会の「秩序再構築」が挙げられることを明らかにした.