- 著者
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冨士田 裕子
小林 春毅
平出 拓弥
早稲田 宏一
- 出版者
- 植生学会
- 雑誌
- 植生学会誌 (ISSN:13422448)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.1, pp.43-57, 2022 (Released:2022-06-28)
- 参考文献数
- 49
1. 北海道北部のサロベツ湿原を含む地域で2014年から2017年にかけ収集された環境省による9頭の雌のエゾシカのGPS首輪のデータを再解析し,1/25000植生図や日最深積雪データとの重ね合わせから,エゾシカの植生利用の日周あるいは季節移動の特徴を明らかにした.2. エゾシカの越冬地は海岸砂丘上の針葉樹林(一部,針広混交林)で,1月から3月は越冬地とその周辺で活動していた.厳冬期の1月・2月は,昼夜ともに針葉樹林や針広混交林内に留まることが多かった.強風で雪が飛ばされやすい近隣の牧草地や海岸草原を採食場所として利用でき,国立公園の特別保護地区である砂丘林はエゾシカにとって安全で,積雪が深い内陸の針葉樹林より魅力的な越冬地と考えられた.3. 定着型の1頭を除き,4月積雪深が10 cm以下になると,エゾシカは越冬地から夏の生息地に3週間以内で移動していた.4頭が移動時に湿原を横断し,砂丘林の両端付近を越冬地にもつエゾシカなど4頭は湿原を横断せずに夏の生息地に移動していた.4. 夏の生息地はサロベツ湿原から離れた場所にあり,昼間は広葉樹林やヨシクラスの植生を主に利用し,夜間は牧草地を利用していた.1頭のみ湿原に隣接する場所が夏の生息地になっていたが,夜間は牧草地に移動し,湿原をエサ場にはしていなかった.今後の個体数増加や湿原への影響の累積化に,注視が必要と考えられた.5. 夏の生息地の行動圏面積の平均値は狭く,広域移動せずに小さな行動圏で十分なエサを得ていることから,エゾシカは夏の生息地として良質な場所を選択していることが明らかになった.6. 10月中旬から12月に夏の生息地から越冬地への移動が徐々になされ,積雪があると急激に移動距離が長くなることが明らかになった.