著者
平塚 乃梨 渡邉 修 井上 正雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2048-A3P2048, 2009

【はじめに】従来の脳血流評価にはfMRIやPETが利用されてきたが,近年,低拘束性,安全性が高い,身体活動の制限が少ない,頻回の計測が可能な機器として,近赤外光分光法(near infra-red spectroscopy :NIRS)が注目されている.本研究では習熟度の異なる3名の被験者が100マス計算を行っている際の脳血流増加部位の相違について,NIRSを用いて前頭前野および頭頂側頭葉の血流変化の比較を行った.<BR>【対象と方法】対象は100マス計算に熟練した健常な右利きの小学生,100マス計算を練習している左利きの小学生,100マス計算未経験の右利き成人男性それぞれ1名とした.測定には近赤外光イメージング装置NIRstation OMM-3000シリーズ(島津製作所製)を用いた.血流測定部位は,国際10-20法に基づき決定し,前頭部測定のために21箇所,頭頂側頭部測定のため40箇所を測定した.実験は,始めに対象を閉眼・安静とし,NIRS信号が定常状態になった時点から15秒間の脳血流を測定した(前レスト).次に,100マス計算を30秒間実施した際の脳血流を測定した(タスク).その後,再度15秒間の閉眼・安静時の脳血流を測定した(後レスト).上記の行程を1セットとし,連続して2セット実施した.実験には小学生が日常学校にて使用しているパソコンソフトを用い,数字の打ち込みは利き手にてテンキーを,非利き手にてenterキーを使用した.なお,実験は説明と同意を得て実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った.<BR>【結果と考察】100マス計算施行中の脳血流の増加は,未経験成人では左前頭前野が,練習している小学生は両側前頭前野が,一方,熟練した小学生では前頭前野での血流の増加はあまりみられず,頭頂側頭葉(右側優位)で血流の増加を見た.以上より,未経験成人における左前頭前野の血流増加は,計算や数字などの操作によるワーキングメモリの負荷が主因と考えられた.一方,練習している小学生では,両側前頭前野での血流が著明に増加したが,パソコン上での100マス計算の習熟過程において,数字や計算を空間的に捉えていることの反映ではないかと考えられた.さらに,熟練した小学生では両側前頭前野の血流増加はほとんどみられず,むしろ頭頂側頭葉(右側優位)で血流増加をみた.これは,学習の初期過程における前頭前野の役割および習熟による頭頂連合野の役割(習熟動作の固定)を示唆するのではないか推察された.<BR>【まとめ】100マス計算の習熟度の異なる3名について,100マス計算施行中の脳血流変化をNIRSを用いて比較した.その結果,新規学習においては前頭前野が活動し,習熟に伴い活動は,頭頂側頭葉へとシフトしていくことが示唆された.しかし本推論は,3例のみの比較に留まるので,今後例数を増やしてさらに検討をしていく必要がある.