著者
渡邉 修
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.78-86, 2009 (Released:2010-03-10)
参考文献数
12

東京都の高次脳機能障害者実態調査(2007年;対象は通院患者899人)によると、高次脳機能障害者が呈する症状として、行動と感情の障害、記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害が上位を占めた。これらの障害のなかで、特に行動と感情の障害、注意障害、遂行機能障害の責任病巣として前頭葉の占める比率は高く、社会参加を阻害する大きな要因となることから、リハビリテーションを進める上でターゲットとなる障害である。リハビリテーションは急性期には要素的訓練を、慢性期には代償的訓練が主体となり、いずれの時期でも、行動障害に対する行動変容療法や、人、構造物、制度からなる環境調整に配慮する。認知障害や行動と感情の障害は身体障害に比べ回復に時間を要することから長期的訓練と支援が重要である。認知リハビリテーションによって脳神経活動は、損傷範囲を避け、健常者と異なる多様な賦活パターンを示すようになる。
著者
渡邉 修 山口 武兼 橋本 圭司 猪口 雄二 菅原 誠
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.118-125, 2009-02-18 (Released:2009-02-24)
参考文献数
26
被引用文献数
11

厚生労働省は,2001 年から2005 年まで高次脳機能障害支援モデル事業を実施した.そのなかで,都道府県の実態調査をもとに全国の高次脳機能障害者数をおよそ30 万人と推定した.しかし,以後,高次脳機能障害者数を推計する報告は極めて少ない.そこで,東京都は,高次脳機能障害者支援施策を展開するうえで対象となる高次脳機能障害総数を把握する必要から,脳損傷者の発生数に関する調査および通院患者に関する調査を行った.方法:(1)年間の高次脳機能障害者発生数の推定:都内全病院(651 病院)に対し調査票を配布し,調査期間(2008 年1 月7 日~20 日)中に退院した都内在住の脳損傷者を調査し,性別年齢別に年間の高次脳機能障害者の発生数を推計した.(2)高次脳機能障害者総数推計:高次脳機能障害有病者数は,性別年齢別に平均余命に当該年齢の発生数を乗じ,これの合計を求めて都内の総数を算出した.結果:回収病院数は419で回収率は64.4 %であった.東京都内の1 年間の高次脳機能障害者の推計発生数は3,010 人,都内の推定高次脳機能障害者総数は49,508 人(男性33,936 人,女性15,572 人)であった.高次脳機能障害を引き起こす主な原因疾患は脳血管障害および頭部外傷であった.これらの疾患による高次脳機能障害の発生頻度を文献的に考察すると,本調査の結果は妥当な数値と考えられた.
著者
森 克己 山田 理恵 渡邉 修希 蔭山 雅洋
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.69, pp.276_1, 2018

<p> 高校野球は、日本固有の形態をもつスポーツ文化である。また、高校球児=丸刈りというイメージが広く国民全般に定着している。例えば、2016年3月に開催された選抜高等学校野球大会に21世紀枠で出場し選手宣誓した小豆島高校の主将が長髪であったことが大きな話題となったように、他の競技では選手の頭髪が自由であるのに対し、野球だけが選手の頭髪は丸刈りであることが当然視されている。このことは、高野連には高校球児の頭髪を丸刈りとする明文の規定がないにもかかわらず、高校の野球部員や指導者が高校球児=丸刈りという慣習法的なルールにとらわれてきた結果であると考えられる。また、その背景には、精神の鍛練がスポーツの重要な使命であることを説いた飛田穂洲の著作の中にみられる選手の頭髪についての記述のように、野球を単なるスポーツではなく精神修養を伴う「野球道」の思想等とも関連づける考え方の存在があると言える。以上のことを前提として、本研究では、高校球児の髪型=丸刈りという慣習法が成立した経緯やその慣習法の成立構造について、文献・資料及びアンケート調査結果に基づき考察する。</p>
著者
渡邉 修造
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.5, pp.201-205, 2012 (Released:2012-11-09)
参考文献数
7

電位依存性ナトリウムチャネルは,神経細胞の興奮や伝達を担っており,痛みの神経伝達に深く関与することが知られている.現在までに9種類(Nav1.1~Nav1.9)の電位依存性ナトリウムチャネルが報告されているが,その中でNav1.7,Nav1.3,Nav1.8の3つのサブタイプは神経障害性疼痛との関連性を示唆する報告が多い.現在,臨床ではメキシレチン,リドカインなどの電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬が処方されている.これら既存の治療薬は,サブタイプ非選択的な薬剤であることからNav1.7,Nav1.3,Nav1.8のいずれにも作用することで鎮痛効果を示すと考えられる.また,同時に心臓に発現するNav1.5や脳に高発現するNav1.1,Nav1.2に対しても作用することから,薬効を示す用量において徐脈や中枢性の副作用が認められ,十分な治療効果が得られていない.そこで本稿では,サブタイプ選択的な電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬を探索するために,本研究所で実施している二つの評価方法について紹介する.一つは,浜松ホトニクス社と共同開発している新しい装置を用いた評価方法であり,本装置により電位依存性ナトリウムチャネルの活性を正確に,また,効率よく測定することが可能である.もう一つは,痛みの動物モデルにおける電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬の有効性を予測するために,本研究所が開発したin vitro評価系について紹介する.これら二つの評価方法は,サブタイプ選択的な電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬を効率的に見出すための有用な方法であると考えられる.これらの方法により,神経障害性疼痛に苦しむ多くの患者のために,少しでも早く新しい治療薬が見出されることが期待される.
著者
渡邉 修
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.3-10, 2017 (Released:2018-04-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

自動車運転には、運動機能、視覚機能の他に、認知機能として、計画能力、注意の維持、選択、分配、転換機能、ワーキングメモリー、遂行機能、視空間認知機能、短期記憶、長期記憶、展望記憶、道具の操作能力、感情のコントロール能力、自己認識能力を必要とする。これらの能力が保持されるためには、両側前頭葉、右頭頂葉を始めとする左右の大脳半球の広範な機能が健全である必要がある。したがって、当院では、脳損傷者が運転再開を希望する場合、前提条件として、医学的に安定し、日常生活が自立しており、社会性が保持されていること等を確認し、その後、脳画像所見と神経心理学的検査結果を参考として、ドライビングシミュレーターによる運転能力評価を行っている。そしてこれらで問題がない場合には、近隣の自動車教習所において実車による運転能力評価を行っている。
著者
渡邉 修 秋元 秀昭 福井 遼太 池田 久美 本田 有正 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-8, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
11

【はじめに】交通事故や転倒転落を主な原因とする外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)は、とくに中等度から重度の場合、後遺する身体障害および高次脳機能障害により、介護する家族の負担は深刻である。しかし、外傷後の経過とともに、これらの障害は、改善していくことから、家族の介護負担感も軽減していくと考えられる。本研究は、TBI後、10年以上が経過した事例について、その家族の介護負担感を調査した。【対象および方法】TBI後、10年以上が経過した344例の患者の家族に、質問紙によるアンケート調査を行った。344例(男性289例、女性55例)は、受傷時平均年齢は24.0±13.3歳、現在の平均年齢は、43.6±12.3歳、TBIからの平均経過年数は、19.6±7.5歳であった。【結果】現在、296例(86.0%)が家族と同居していた。このうち、34例(全体の9.9%)が配偶者と同居していた。単身者は48例であった。バーセルインデックス(barthel index;BI)は、平均89.3±19.3で、日常生活が自立しているとされる85点以上は、270例(78.5%)であった。認知行動障害とZarit介護負担尺度は正の相関を認めた。一方、BIとZarit介護負担尺度には相関は認められなかった。就労群の受傷時年齢は非就労群に比し若年であった。そして、現在の年齢も、就労群のほうが若年であった。一方、介護負担感は、有意に就労群のほうが低かった。外出頻度別に介護負担感を比較すると、高頻度外出群のほうが、介護負担感は低かった。【結語および考察】受傷後、10年が経過しても介護する両親(あるいは主に妻)の負担感が大きい。介護負担感と認知行動面の障害には正の相関があり、さらに介護負担感には有意に就労の有無、外出頻度が関連していた。社会性の確立こそがTBIで表れやすい認知行動障害を改善に導く。患者ごとにそれぞれの目標に沿って、地域リハビリテーション、職業リハビリテーションを提供していくことが、家族の介護負担感を軽減することになると考えられる。
著者
渡邉 修
出版者
日本鉄道技術協会
雑誌
JREA : 日本鉄道技術協会誌 (ISSN:04472322)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.33895-33898, 2009-01-01
著者
山本 一真 大熊 諒 岩井 慶士郎 渡邉 修 安保 雅博
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2020-12-15

近年,脳卒中や脳外傷による後天性脳損傷者の自動車運転再開支援が全国の医療機関などで行われるようになり,実車での評価前のスクリーニングとして神経心理学的検査が実施されている.しかし,失語症者の場合は実施できる神経心理学的検査が非言語性のものに限られるため,運転再開に至る机上検査結果の基準が示しにくいのが現状である.そこで今回,脳損傷後の失語症例で自動車運転を再開できた再開例と再開できていない非再開例の「病巣」「失語症のタイプ」「SLTA(標準失語症検査)の結果」を比較し,運転を再開できた失語症者の傾向について予備的分析を実施した.結果,失語症者の運転再開例の脳損傷範囲や失語の重症度には幅がみられたが,病巣は前頭葉が多く,タイプはブローカ失語が多かった.そのことから,失語症者の運転再開には聴覚的理解がある程度保たれており,自身の病態を認識していることの必要性が示唆された.
著者
渡邉 修
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要
巻号頁・発行日
vol.43, no.1-2, pp.1-7, 2007-03-07

日本国内への外来雑草の侵入を明らかにする研究の中で,大量の雑草種子が輸入穀物から検出され,輸入飼料が雑草の侵入ルートの一つであることが確実となった。イチビ,ショクヨウガヤツリ,ワルナスビなど飼料畑の強害雑草となっている草種について,栃木県那須地域の20km四方の範囲で,GPSを用いて詳細な分布調査を実施し,分布パターンを解析した。分布パターンは草種によって大きく異なり,イチビとショクヨウガヤツリは農耕地に発生が集中し,アレチウリ,オオオナモミ,ブタクサは50%以上が非農耕地で発生が確認された。GPSデータは外来雑草の今後の分布拡大を地理的スケールで明らかにするためのデータベースとして利用可能であり,侵入植物に対する生物資源や生態系保護のための効率的な取り組みに活用できる。
著者
平塚 乃梨 渡邉 修 井上 正雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2048-A3P2048, 2009

【はじめに】従来の脳血流評価にはfMRIやPETが利用されてきたが,近年,低拘束性,安全性が高い,身体活動の制限が少ない,頻回の計測が可能な機器として,近赤外光分光法(near infra-red spectroscopy :NIRS)が注目されている.本研究では習熟度の異なる3名の被験者が100マス計算を行っている際の脳血流増加部位の相違について,NIRSを用いて前頭前野および頭頂側頭葉の血流変化の比較を行った.<BR>【対象と方法】対象は100マス計算に熟練した健常な右利きの小学生,100マス計算を練習している左利きの小学生,100マス計算未経験の右利き成人男性それぞれ1名とした.測定には近赤外光イメージング装置NIRstation OMM-3000シリーズ(島津製作所製)を用いた.血流測定部位は,国際10-20法に基づき決定し,前頭部測定のために21箇所,頭頂側頭部測定のため40箇所を測定した.実験は,始めに対象を閉眼・安静とし,NIRS信号が定常状態になった時点から15秒間の脳血流を測定した(前レスト).次に,100マス計算を30秒間実施した際の脳血流を測定した(タスク).その後,再度15秒間の閉眼・安静時の脳血流を測定した(後レスト).上記の行程を1セットとし,連続して2セット実施した.実験には小学生が日常学校にて使用しているパソコンソフトを用い,数字の打ち込みは利き手にてテンキーを,非利き手にてenterキーを使用した.なお,実験は説明と同意を得て実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った.<BR>【結果と考察】100マス計算施行中の脳血流の増加は,未経験成人では左前頭前野が,練習している小学生は両側前頭前野が,一方,熟練した小学生では前頭前野での血流の増加はあまりみられず,頭頂側頭葉(右側優位)で血流の増加を見た.以上より,未経験成人における左前頭前野の血流増加は,計算や数字などの操作によるワーキングメモリの負荷が主因と考えられた.一方,練習している小学生では,両側前頭前野での血流が著明に増加したが,パソコン上での100マス計算の習熟過程において,数字や計算を空間的に捉えていることの反映ではないかと考えられた.さらに,熟練した小学生では両側前頭前野の血流増加はほとんどみられず,むしろ頭頂側頭葉(右側優位)で血流増加をみた.これは,学習の初期過程における前頭前野の役割および習熟による頭頂連合野の役割(習熟動作の固定)を示唆するのではないか推察された.<BR>【まとめ】100マス計算の習熟度の異なる3名について,100マス計算施行中の脳血流変化をNIRSを用いて比較した.その結果,新規学習においては前頭前野が活動し,習熟に伴い活動は,頭頂側頭葉へとシフトしていくことが示唆された.しかし本推論は,3例のみの比較に留まるので,今後例数を増やしてさらに検討をしていく必要がある.
著者
渡邉 修
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.3-8, 2015 (Released:2018-03-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

脳外傷の年齢層は20歳と50歳に2相性のピークを有し、前者では交通事故が、後者では転落・転倒事故が主な原因である。近年の救急医療の発展および交通事故対策の結果、交通事故の死亡者数は年々減少しているが、生存する例は増え、重症例はむしろ増加していることから、リハビリテーションの果たす役割は大きい。一般に脳外傷は、受傷機転より、前頭葉および側頭葉に損傷をきたしやすい。したがって、障害像は、身体障害としては、失調症状は多いが運動麻痺は少なく、重症例でもADLは自立する例が多い。しかし、高次脳機能障害としては、前頭葉損傷として注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害(自発性の低下、易怒性、病識の低下等)が、側頭葉損傷として記憶障害がみられやすい。リハビリテーションは、環境調整、要素特異的訓練、代償的訓練、行動変容療法、全人的、包括的リハビリテーション、地域リハビリテーション、職業リハビリテーションからなる。重度の高次脳機能障害例は、病院内の回復期までのリハビリテーションでは改善せず、地域の社会資源を活用した、医療・福祉・行政の連携体制が必要となる。自験例より、認知リハビリテーションによって、脳血流が改善することを報告した。脳外傷後の認知障害および社会的行動障害は、重度例であっても、時間をかけた、なだらかな回復を示し、受傷後、数年以上にわたって回復をみることから、長期的なリハビリテーションと支援体制の構築が必要である。
著者
武原 格 一杉 正仁 渡邉 修 林 泰史 米本 恭三 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.247-252, 2016-03-18 (Released:2016-04-13)
参考文献数
14
被引用文献数
11 8

はじめに:脳損傷者の自動車運転再開に必要な高次脳機能の基準値の妥当性を検証するために実態調査を施行した.方法:2008年11月~2011年11月までに東京都リハビリテーション病院に入院し運転を再開した脳損傷者を基準値群,2011年12月~2012年11月まで同院に入院し運転を再開した脳損傷者を検証群とした.検証群の高次脳機能検査結果より暫定基準値の妥当性を検討した.結果:基準値群は29名,検証群は13名であった.検証群のうち高次脳機能検査結果がすべて基準値内である脳損傷者は9名(69.2%)であった.暫定基準値を下回った高次脳機能検査項目は,1名はMMSEおよびTMT-A,1名はWMS-Rの視覚性再生および視覚性記憶範囲逆順序,2名はWMS-Rの図形の記憶であった.結論:机上検査結果は運転再開可否の目安となるが絶対的基準とは言えず,症例ごとに運転再開の安全性について検討すべきである.
著者
松田 雅弘 野北 好春 妹尾 淳史 米本 恭三 渡邉 修 来間 弘展 村上 仁之 渡邊 塁 塩田 琴美 高梨 晃 宮島 恵樹 川田 教平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1026, 2011

【目的】<BR> 脳卒中において利き手側の片麻痺を呈した場合、麻痺の程度が重度であれば非利き手側でADL動作を遂行することとなるため、リハビリテーションの一環として利き手交換練習が実施されている。利き手側で同様の運動を獲得していたとしても、非利き手での運動を学習する一連の経過は新規動作の獲得と同様に時間を要する。しかし、その動作習得過程で、どのようなリハビリテーションの手法を用いることの有効性に関するニューロイメージングの視点からの知見は少ない.そこで今回,健常者における非利き手での箸操作の運動時、イメージ時、模倣時の脳神経活動を検出した。<BR>【方法】<BR> 対象は、神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人5名(平均年齢20.7歳)である。<BR> 課題は3種類設定し、第1課題は開眼にて左手にて箸を把持して箸先端を合わせる運動の課題(運動課題)、第2課題は左手で箸を持っている映像をみせて実際に箸操作運動を行わずに、箸操作を行っているときをイメージさせる課題(運動イメージ課題)、第3課題は左手で箸操作を行っている映像をみながら運動課題と同様の箸操作運動を行う課題(模倣課題)とした。スキャン時間はこれらの課題および安静を各々30秒間とし,3種類の課題はランダムに配置し,各課題間は安静を挟む(ブロックデザイン)ようにして撮像した。測定装置はPhilips社製3.0T臨床用MR装置を使用した。測定データはMatlab上の統計処理ソフトウェアSPM2を用いて集団解析にて被験者全員の脳画像をタライラッハ標準脳の上に重ね合わせて,MR信号強度がuncorrectedで有意水準(p<0.001)をこえる部位を抽出した。<BR>【説明と同意】<BR> 全対象者に対して、事前に本研究の目的と方法を説明し、研究協力の同意を得た。研究は共同研究者の医師と放射線技師の協力を得て安全面に配慮して行った。<BR>【結果】<BR> 運動課題では両側感覚運動野、補足運動野、下頭頂小葉、大脳基底核、小脳、前頭前野、右Brodmann area(BA)44の賦活が認められた。運動イメージ課題では、右感覚運動野、両側補足運動野、上頭頂小葉、下頭頂小葉、BA44、大脳基底核の賦活がみられ、運動課題でみられた左感覚運動野と両側小脳の活動が消失した。模倣課題では、両側感覚運動野、補足運動野、上頭頂小葉、下頭頂小葉、BA 44、左前頭前野の賦活が認められた。<BR> 最も広範囲に賦活が認められたのは運動課題で、次に模倣課題であり、両課題とも両側運動関連領野の活動がみられた。運動イメージ課題が最も活動範囲は狭かったが、運動の実行がなくても運動関連領域の活動が認められた。さらに模倣課題時、運動イメージ課題時とも下頭頂小葉、BA 44の活動が両側広範囲にみられた。<BR>【考察】<BR> 運動イメージ課題時、模倣課題時にはミラーニューロンに関連する領域の広い活動が確認された。補足運動野、前頭葉の活動など、感覚運動野に入力する前運動野の活動が広く確認され、運動学習を遂行する上で必要な部位の活動が確認された。模倣課題時は広範囲に活動が認められ、見本を教示しながら動作を指導する方が、活動範囲が広範囲でありリハビリテーションに有用であることが示唆された。イメージ動作でも同様に狭小ではあるが運動関連領野の活動が認められ、運動開始以前に運動イメージを行わせることが重要であることが示唆された。運動イメージで運動を開始する準備を行い、模倣動作を促すことで広く運動関連領野の活動性を向上させることから、リハビリテーション医療の治療では、運動の実行のみではなく画像を提示したり、イメージを繰り合わせた方法が有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 機能的MRIなどによって非侵襲的に脳活動を捉えられるようになったが、その研究手法は実際のADL動作と直結しているものではなく、閉鎖的な実験環境上の問題でタッピングなどの動作を主体としているため、ADL動作時の脳内活動の検討は不十分であった。今回実際にADL動作を行い,リハビリテーション治療で行われている手法に関してニューロイメージングの視点から知見を報告した。リハビリテーション医療の治療の中で、運動の実行のみではなく画像を提示したり、イメージを繰り合わせた方法の有用性が本研究より示唆された。
著者
村上 仁之 渡邉 修 来間 弘展 松田 雅弘 津吹 桃子 妹尾 淳史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0561, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】近年,PETや機能的MRIなどのイメージング技術により,随意運動や認知活動の脳内機構が明らかにされている.しかし,随意運動遂行中に密接に関連する触覚認知の脳内機構に焦点化した研究は極めて少ない.触覚認知がどのように行われ,どのように学習されるのかを明らかにすることは,脳損傷後の理学療法の治療戦略を立てる際に,重要な示唆を与えると考えられる.そこで本研究は,触識別時の脳内機構および学習の影響を明らかにすることを目的に,機能的MRIを用いて麻雀牌を題材として,初心者と熟練者を対象に,触識別に関する脳内神経活動を感覚運動野(sensorimotor cortex: 以下,SMC)と小脳に焦点化して定量的,定性的に分析を行った.【対象】対象者は健常者16名である.内訳は,麻雀経験のない初心者が10名(対照群)と、5年以上の麻雀経験を持ち,母指掌側のみで牌を識別できる熟練者6名(熟練者群)である.【方法】GE社製1.5T臨床用MR装置を用いて,閉眼にて利き手母指掌側での麻雀牌の触知覚時および触識別時の脳内神経活動の測定を行った.データ解析はSPM99を用い,得られた画像データを位置補正,標準化,平滑化を行い,有意水準95%以上を持って賦活領域とした.加えて,両群間の差の検定をt‐検定を用いて分析した.【結果】対象者16名中,触知覚時では,対側SMCが14名で賦活した.さらに触識別時では,SMCの賦活のなかった2例を加えた16名で,SMCの賦活領域の増大を確認した.加えて,同側SMCが12名と同側小脳が11名の賦活を認めた.また,全脳賦活領域をボクセル数として定量化した平均値は,対照群は触知覚時467.0ボクセル,触識別時4193.0ボクセル,熟練者群は触知覚時408.5ボクセル,触識別時2201.8ボクセルであった.両群とも触知覚時に比べ,触識別時では有意に増加した.また熟練者群は対照群に比べ,触識別時に全脳賦活領域が有意に減少した.【考察】触知覚時は,対側SMCの賦活が認められ,触識別時は,対側SMCだけでなく,さらに同側SMC,小脳でも賦活が認められた.つまり,単なる触知覚に比べ,触識別という認知活動時には,両側SMCや小脳などの広い領域が関与していると考えられる.しかし,熟練者においては,全脳賦活領域が減少し,限局したことから,“学習”により,全脳賦活領域の縮小,限局をもたらすことが示唆された.触識別という認知的要素が脳内機構として明確化され,学習により縮小,限局するという脳内の可塑的現象は,脳損傷者に対する理学療法において,認知的要素が中枢神経系になんらかの影響を及ぼす可能性を示唆しているではないかと考えられる.
著者
渡邉 修
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.110-116, 2020-02-18 (Released:2020-03-25)
参考文献数
13

自動車運転は障害者の社会参加にとってきわめて有用な手段であるが,重大な社会的責任を伴うことから,リハビリテーション科医は,その安全性を見極める必要がある.自動車運転に際し,全身状態が安定していること,服薬状況を確認し,ついで,①視覚系では,視力が保たれ,視野欠損,半側空間無視がないこと,②感覚・運動系では運転操作能力があること,③認知系では,注意,遂行機能,記憶機能,情報処理速度,メタ認知能力が保持されていることを確認する.
著者
松田 雅弘 渡邉 修 来間 弘展 村上 仁之 渡邊 塁 妹尾 淳史 米本 恭三
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.117-122, 2011 (Released:2011-03-31)
参考文献数
22
被引用文献数
8 5

〔目的〕脳卒中により利き手側の片麻痺を呈した場合,利き手交換練習を行うことが多い。そのため健常者における非利き手での箸操作の運動時,イメージ時,模倣時の脳神経活動を明らかにした。〔対象〕神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人5名(平均年齢20.7歳)とした。〔方法〕課題は,左手箸操作運動課題,左手箸操作イメージ課題,左手箸操作の映像をみながら箸操作運動課題(模倣課題)の3種類とし,その間の脳内活動を3.0T MRI装置にて撮像した。〔結果〕運動課題では左右感覚運動野・補足運動野・小脳・下頭頂小葉・基底核・右Brodmann area 44が賦活した。イメージ課題では,運動課題と比べ左感覚運動野・小脳の賦活が消失していた。模倣課題では,左右感覚運動野・補足運動野・上下頭頂小葉・Brodmann area 44が賦活した。〔結語〕イメージ課題と模倣課題には,運動課題時に賦活する領域を両課題とも補う傾向にあることから,箸操作訓練の際には運動課題のみではなく両者を取り入れて行う意味があることが示唆された。
著者
宇佐 英幸 竹井 仁 畠 昌史 小川 大輔 市川 和奈 松村 将司 妹尾 淳史 渡邉 修
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.155-164, 2011-12-25

健常者24名(男女各12名)を対象に(平均年齢:男性21.3歳女性20.6歳),大腿・骨盤の動きと仙腸関節・腰仙関節・腰椎椎間関節の動きを,腹臥位と腹臥位・膝関節伸展位での股関節5・10・15°伸展位,15°伸展位から10・20N・mの伸展方向への加重を大腿遠位部に加えた肢位の6肢位で撮像したMRI(Magnetic Resonance Imaging: 磁気共鳴画像)を用いて解析した。結果,男女とも,股関節伸展角度の増加に伴って,大腿は骨盤に対して伸展し,骨盤は前傾した。股関節非伸展側の仙腸関節では前屈,第3/4・4/5腰椎椎間関節と腰仙関節では伸展の動きが生じた。しかし,第3/4腰椎椎間関節を除く各部位の動きは,10N・m加重時と20N・m加重時の間では女性だけにみられた。これらの結果から,他動的一側股関節伸展時の腰椎骨盤-股関節複合体を構成する関節の正常な動きが明らかになった。