著者
平川 澄子 仲澤 眞
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

女性スポーツに少なからぬ影響を及ぼしているメディアとジェンダーの関係を中心に研究をすすめた。メディアで醸成される身体や運動・スポーツに関わる言説は、筋肉に象徴される逞しい男性の身体と、無駄な脂肪の少ないしなやかな女性の身体という、性によって異なる理想の身体像をつくりだした。その背景には、スポーツの産業化の進展によるフィットネスクラブの急増、テレビメディアを介してのスポーツの氾濫があった。「フィットネス」は、より積極的に理想の身体を獲得するための営みとなり、改造可能な身体観がもたらされた。1980年以降のBMIの推移をみると若い女性のスリム化傾向は著しく、男性は体格向上ないしは肥満化傾向にある。身体のジェンダー化は着実に浸透している。身体を重要な要素とするスポーツはジェンダー化された身体像の影響を大きく受けている。スポーツを題材としたテレビコマーシャルの映像分析を行った結果、男性が主人公となるCFが64.8%で女性の14.3%を大きく上回っていた。質的にも異なる描写がなされ、男性スポーツ選手はメディアを介してより偉大に描かれていくのに対して、女性スポーツ選手は矮小化されていくことが明らかになった。女性スポーツ発展のためには、ジェンダーにとらわれない個性ある身体を見直すこと、メディアを批判的に読み解き、是正する声をあげることの重要性が示唆された。また継続して考察を進めてきた女子サッカーリーグの運営と観戦者に関する日米比較研究からは、女性ファンの開拓、スター選手のメディア露出、女子サッカーのプレイ環境の整備などの課題が示唆された。
著者
平川 澄子 中澤 眞
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、運営状況がきわめて対照的な、アメリカの女子プロサッカーリーグ(WUSA)と日本の女子サッカーリーグ(Lリーグ)の観戦者特性を明らかにすることによって、日本の女性スポーツリーグの発展に有効な知見を得ることを目的とした。調査は2001年6月から11月にかけて、WUSAとLリーグの各3会場において、観戦者を対象とした質問紙調査及びスタジアム内での観察調査を実施した。WUSA調査では、998票の有効回収票を得た。Lリーグ調査では、335票の有効回収票を得た。観戦者調査の比較分析から、(1)WUSAでは女性観戦者が62.1%を占めていたが、Lリーグでは男性観戦者が72.1%を占めていた、(2)WUSAでは94.2%が家族や友人と来場していたが、Lリーグでは40.2%が一人で来場していた、(3)WUSAではWWC99が女子サッカーファン増大の契機になり、女性観戦者の73.8%が女子サッカーを選好していた、ことなどが明らかになった。また、観戦行動に関わる杜会心理的要因として、「サッカーへの関心」「サッカー鑑賞」「ゲームのドラマ」「健全な環境」など、サッカーという種目に直接関わる要因の重要性では共通の傾向がみられた。しかし、WUSA観戦者では特に女性観戦者において「ロールモデル」「女性スポーツのサポート」が重要な要因となっていたのに対して、Lリーグ観戦者では「代理達成」「娯楽」「選手への関心」が重要な要因となっていた。以上の結果から、アメリカの女子サッカー人気の背景として、(1)WWC99の成功、(2)女性の機会均等を開拓するロールモデルとしてのスター選手の存在、(3)女性達による女性スポーツサポートの意識、(4)家族や友人と楽しむ健全な娯楽としてのスポーツ観戦、などが推察された。