著者
久米 悠太 平松 健司 長嶋 光樹 松村 剛毅 山崎 健二
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.154-160, 2016-07-15 (Released:2016-08-19)
参考文献数
23

[背景]小児期の人工弁置換術には術後の脳関連合併症や血栓弁,成長に伴うサイズミスマッチなどの懸念があり可及的に弁形成術を行うことが望ましいが,やむを得ず弁置換術となる症例が存在する.15歳以下の孤立性僧帽弁疾患(孤立性僧帽弁閉鎖不全症,孤立性僧帽弁狭窄症)に対する僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の遠隔期成績を検討した.[対象]1981年1月から2010年12月までに当院で僧帽弁形成術を行った30例(P群:男児21例,平均年齢4.6±4.6歳,平均体重13.4±8.9 kg),および機械弁による僧帽弁置換術を行った26例(R群:男児9例,6.2±4.6歳,平均体重16.4±11.2 kg)の計56例を対象とした.平均追跡期間9.3±7.8年,最長27.7年であった.また,孤立性僧帽弁閉鎖不全症(iMR)群と孤立性僧帽弁狭窄症(iMS)群とに分けて追加検討を行った.[結果]P群,R群ともに周術期死亡例はなく,遠隔期にR群で4例を失った.再手術はP群で6例,R群で5例に認めた.脳関連合併症は両群とも遠隔期に1例ずつ認めたのみで,人工弁感染は認めなかった.10年時および20年時での生存率はP群100%,100%,R群88.0%,80.0%であり有意差が見られた(p=0.043).10年時および20年時での再手術回避率はP群77.6%,77.6%,R群77.0%,70.0%,10年時における脳関連合併症回避率はともに100%であり有意差は見られなかった.iMR群とiMS群の10年時における生存率は100%と53.3%であり有意差がみられた(p=0.001).iMR群とiMS群の10年時における再手術回避率は77.1%と64.3%,20年時では72.0%と64.3%であり有意差は見られなかった.[結語]15歳以下の孤立性僧帽弁疾患に対する僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の遠隔期成績は,懸念していた機械弁置換術後の脳関連合併症回避率や再手術回避率も僧帽弁形成術と有意差なく,小児期の僧帽弁手術として許容されるものであった.特に孤立性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁手術の遠隔期成績は良好であった.孤立性僧帽弁狭窄症においては孤立性僧帽弁閉鎖不全症に劣らない再手術回避率であったが生存率には懸念が残る結果となった.