著者
渡邊 浩 平林 民雄
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

本研究では(1)二次元ゲル電気泳動法による群体間の質的な違いの検索、(2)イタボヤ二種における群体特異性の記載、(3)拒絶反応の組織・微細構造学的観察、(4)ホヤ被嚢の組織・微細構造学的観察についてそれぞれ以下の成果を得た。(1)についてはクローン株の間で易動度の異なる種内変異と判断されるタンパクを数種見つけることができたが、群体特異性とそのタンパク群との関連性は見いだせなかった。(2)最も進化した有性生殖(胎性)を行うイタボヤ二種(Botrylloides violceus,B.fuscus)はこれまで知られていなかった新しいタイプの群体特異性を示すことが明らかになった。また、本種では自己・非自己認織の場が被嚢(特に被嚢細胞)に限定されていることが示唆された。(3)拒絶反応は本質的には血球の1種であるmorula cellが被嚢内に浸潤し、これが崩壊して含有物を放出することと、被嚢内に壊死した組織と群体とを仕切るnew wallが形成されることであるらしい。(4)イタボヤ類の被嚢は特異な構造を持ったcuticle層が最外層を覆っているが、同様な構造は近縁の単体ホヤにも見られるため、この構造は群体特異性に直接は関与しないと思われる。被嚢中には種によって一〜三種の被嚢細胞が観察される。予報的な知見ではあるが、特にvacuolated tunic cellは被嚢内における自己・非自己認織と深くかかわっている可能性がある。本研究によって、イタボヤ類における群体特異性の進化や拒絶反応の詳細について深い議論が行えるようになってきたが、「認織」のステップについてはまだ不明確な点も多い。しかし(2)については自己・非自己認織の場について、(4)では認織担当細胞について議論してゆく端緒が得られてきている。今後(3)(4)の研究を発展させてゆくことによって、更に認織機構の実体に近づいていくことが期待される。