著者
平田 利晴
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.11, pp.23-32, 1985-11-10

萩原朔太郎と短歌の問題は、詩作品や詩論にくらべて論の対象となることが少なかった。それは稀有の口語自由詩人の側から資料的に扱うという我々の享受姿勢にも一因がある。そこで、『恋愛名歌集』の「新古今集」の部を可能のかぎりそれそのものとして検討することが先決の課題となる。<憂鬱>・<無為のアンニュイ>といった『青猫』系列の詩篇の詩想が朔太郎の新古今評釈には深く根ざしているが<技巧>と詩想とのめでたい芸術的一致を式子内親王の歌に見た彼は、『氷島』においてそれを我がものとすることができなかったと察せられる。