著者
平田 政嗣
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在広く臨床応用されている人工歯根(インプラント)は、天然歯根と違いその周囲に歯根膜を有しないため、様々な問題が存在している。そこで、歯根膜由来培養細胞を用いて人工歯根周囲に歯根膜を再構築する必要がある。近年、付着依存型細胞の大量培養法としてマイクロキャリアー培養法が開発・応用されてきている。前年度の研究では、マイクロキャリア培養法が歯根膜線維芽細胞にも応用可能であり、その足場および移植担体(scaffold)としてコラーゲンゼラチン製の多孔性マイクロキャリアに関して適用可能であることが判明した。今回の研究では細胞を付着させたマイクロキャリアの生体内への応用および生体内での応答に関して、ラットおよびビーグル犬を用いて組織学的ならびに免疫組織化学的に検討した。歯根窩洞に細胞を付着させたマイクロキャリアおよびチタンを挿入し、歯周組織の反応を検索した結果、チタン周囲に新生骨様組織が形成されていた。また新生骨様組織とチタンとの間には一部線維が垂直に配列した歯根膜様軟組織が形成されていた。1.コラーゲンゼラチン製多孔性マイクロキャリア上で歯根膜由来線維芽細胞は付着伸展し、立体的な構造を呈することが判明した。3.ラットを用いたチタン埋入実験では、既存歯根膜組織が埋入チタン表面に伸展し、セメント質様構造物を伴った歯根膜様組織が再構築されることが判明した。またチタン表面に近接した組織ではアルカリホスファターゼ活性が上昇し、当部位での高い細胞活性と硬組織産生能が示唆された。以上の結果より、コラーゲンゼラチン製多孔性マイクロキャリアが歯根膜細胞の足場(scaffold)として応用可能であり、歯根膜および骨組織再生の可能性が示唆された。今後は、既存歯根膜組織に頼らない組織再構築の開発および培養・移植された細胞特性の詳細な解明が必要であると思われる。