著者
溝上 顕子 川久保(安河内) 友世 竹内 弘 平田 雅人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.201-205, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
39

骨は能動的な内分泌器官であることが明らかとなった.中でも,骨基質タンパクであるオステオカルシンは,糖・エネルギー代謝をはじめ雄の生殖機能調節,脳の発育・発達の調節等に重要な役割を果たしていることが最近の研究で明らかにされた.このような骨による生体恒常性維持の様々な局面が明らかになりつつある.オステオカルシン作用の個々のシグナリング経路は十分に解明されていないが,エネルギー代謝に限定すると,受容体として機能する分子の1つとして同定されたGPRC6Aを介して膵臓β細胞に作用して,あるいは消化管に作用してインクレチンの分泌を促し,次いでインスリンの分泌を促す.そのインスリンは骨にも作用して骨代謝を活性化し,さらなるオステオカルシンの分泌を促すというポジティブサイクルが明らかにされている.極論すると,骨代謝が活発になるとインスリン分泌・糖代謝が亢進する.さらに骨代謝が活発化して丈夫な骨になり,かつ肥満・糖尿病になり難いという魅力的なストーリーである.一方で,オステオカルシンが及ぼす効果には性差があることが示唆されている.本稿では,オステオカルシンの特に糖・エネルギー代謝を調節するホルモンとしての役割について,最近の知見を踏まえて紹介する.
著者
兼松 隆 照沼 美穂 後藤 英文 倉谷 顕子 平田 雅人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.105-112, 2004 (Released:2004-01-23)
参考文献数
52

イオンチャネル内蔵型のGABAA受容体は,γ-アミノ酪酸(GABA)をトランスミッターとし,脳における抑制性神経伝達をつかさどる主要な受容体である.この受容体の異常は,不眠·不安·緊張·けいれん·てんかんなどの様々な病態を引き起こすことが知られ,GABAA受容体の正常な働きは,複雑な脳·精神機能を形成する分子的基盤の重要な一角をなす.興奮性神経伝達機構の解析が分子レベルで進む中,抑制性神経伝達機構の解析は後手にまわっている感があった.しかし近年,GABAA受容体の相互作用分子が次々と発見され,それらの分子をとおしてGABAA受容体の機能制御機構を解析することで,その全体像が明らかになりつつある.本総説は,現在明らかになっているGABAA受容体の構築から分解系に至る分子メカニズムを「GABAA受容体の一生とそれを調節する分子達」と題してまとめたものである.我々は,新規イノシトール1,4,5-三リン酸結合性タンパク質(PRIP-1)研究を進める中,PRIP-1に相互作用する2つの分子を同定した.その一つがGABARAP(GABAA受容体の膜輸送に関係があるとされる分子)であったことから,PRIP-1欠損マウスを作製しGABAシグナリングの解析を行った.するとこのマウスは,GABAシグナリングに変調をきたした.また,PRIP-1はプロテインホスファターゼであるPP-1に結合し,この酵素活性を負に調節する.最近,PRIP-1がGABAA受容体自身のリン酸化/脱リン酸化反応をPP-1の酵素活性を制御することで調節することをみいだした.あわせてここで紹介する.今後,抑制性神経伝達機構解明研究が分子レベルで進めば,複雑な脳·精神機構の理解が深まり,多くの脳·精神疾患の新しい治療法や新薬の開発につながることが期待できる.