著者
兼松 隆 照沼 美穂 後藤 英文 倉谷 顕子 平田 雅人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.2, pp.105-112, 2004 (Released:2004-01-23)
参考文献数
52

イオンチャネル内蔵型のGABAA受容体は,γ-アミノ酪酸(GABA)をトランスミッターとし,脳における抑制性神経伝達をつかさどる主要な受容体である.この受容体の異常は,不眠·不安·緊張·けいれん·てんかんなどの様々な病態を引き起こすことが知られ,GABAA受容体の正常な働きは,複雑な脳·精神機能を形成する分子的基盤の重要な一角をなす.興奮性神経伝達機構の解析が分子レベルで進む中,抑制性神経伝達機構の解析は後手にまわっている感があった.しかし近年,GABAA受容体の相互作用分子が次々と発見され,それらの分子をとおしてGABAA受容体の機能制御機構を解析することで,その全体像が明らかになりつつある.本総説は,現在明らかになっているGABAA受容体の構築から分解系に至る分子メカニズムを「GABAA受容体の一生とそれを調節する分子達」と題してまとめたものである.我々は,新規イノシトール1,4,5-三リン酸結合性タンパク質(PRIP-1)研究を進める中,PRIP-1に相互作用する2つの分子を同定した.その一つがGABARAP(GABAA受容体の膜輸送に関係があるとされる分子)であったことから,PRIP-1欠損マウスを作製しGABAシグナリングの解析を行った.するとこのマウスは,GABAシグナリングに変調をきたした.また,PRIP-1はプロテインホスファターゼであるPP-1に結合し,この酵素活性を負に調節する.最近,PRIP-1がGABAA受容体自身のリン酸化/脱リン酸化反応をPP-1の酵素活性を制御することで調節することをみいだした.あわせてここで紹介する.今後,抑制性神経伝達機構解明研究が分子レベルで進めば,複雑な脳·精神機構の理解が深まり,多くの脳·精神疾患の新しい治療法や新薬の開発につながることが期待できる.
著者
大植 香菜 原田 佳枝 兼松 隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.93-97, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
43

肥満,特に内臓脂肪型肥満は,糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発症リスクを高め,病態の進展を助長する.肥満は,脂肪の蓄積と消費のバランスの崩れによって引き起される.よって,脂肪細胞における脂肪の蓄積や分解の分子基盤を明らかにすることは,複雑な生体のエネルギー代謝を理解する一助となる.21世紀に入ってこの調節メカニズムの解明研究が飛躍的に進んだ.その中で,白色脂肪細胞は余剰エネルギーの単なる貯蔵庫ではなく,アディポカインの産生などを介して身体の恒常性維持に多様な機能を発揮する重要な臓器だと分かった.褐色脂肪細胞は,ミトコンドリアにおける非ふるえ熱産生系を介してエネルギーを熱として放散させる体熱産生に特化した細胞である.最近,その活性制御と肥満との関係が重要だと分かってきた.さらに,白色脂肪組織の中に褐色脂肪細胞様の第3の脂肪細胞が報告された.これは,ベージュ脂肪細胞と呼ばれ,寒冷刺激などによって白色脂肪組織の中から分化(browning)してくる新たな体熱産生細胞として注目されている.交感神経系の活性化は,脂肪分解を促進し非ふるえ熱産生を増加させてエネルギー消費を昂進させる.すなわち肥満を抑制する方向に傾く.本稿では,交感神経活動(アドレナリンβ受容体)の活性化によっておこる脂肪分解の分子メカニズムを,我々が最近明らかにした脂肪分解を負に制御する分子を交えて紹介する.そして,その分子が褐色脂肪細胞における非ふるえ熱産生機構にどのように関わるかを概説する.
著者
森田 道 曽山 明彦 高槻 光寿 黒木 保 安倍 邦子 林 徳真吉 兼松 隆之 江口 晋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.483-487, 2013 (Released:2013-08-25)
参考文献数
8
被引用文献数
5 7

59歳,女性.主訴はなし.検診目的の腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘され当科紹介となった.腹部造影CTでは肝外側区域から肝外に突出する造影効果に乏しい腫瘤を認めた.肝腫瘍の他,肝胃間膜内発生の悪性リンパ腫や胃GIST,炎症性腫瘤との鑑別が困難であり,診断的意義も含め腹腔鏡下腫瘤摘出術を施行した.術中所見では腫瘤は肝胃間膜内に肝外側区域背側に接するように存在していた.腫瘤と接する肝外側区域を一部合併切除し腫瘤を摘出した.病理組織所見は変性壊死を中心とした好酸球性肉芽腫で,内部にアニサキス虫体を認め消化管外アニサキス症と診断した.アニサキス症の多くは消化管に発生し激烈な腹痛を特徴とするが,初回感染では本症例のように無症状で消化管壁を穿通し消化管外アニサキス症として発見される例の報告もある.発見契機としては,絞扼性イレウス,膵腫瘤などの報告があるが,肝腫瘤として発見された例は国内では5例と稀である.
著者
藤田 有紀子 佐道 紳一 増山 純二 黒坂 升一 兼松 隆之
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.581-587, 2017-08-31 (Released:2017-08-31)
参考文献数
6

背景・目的:NOACは利便性の高さで当院でも年々処方数が増加している。しかし,適正使用のうえで,各薬剤の特徴を正確に知っておくことが肝要である。そこで,今回,当院医師および近隣の調剤薬局薬剤師におけるNOAC適正使用の基本的事項の理解度を検討し,課題を明らかにしたので,報告する。対象・方法:当院でNOACを処方している医師10名・初期研修医7名・近隣の調剤薬局薬剤師15名にNOAC適正使用に関するアンケート調査を行い,CS分析を用いて評価した。結果および考察:CS分析の結果から,医師は,初期研修医や薬剤師に比べると用法用量の確認を行い,NOACを使用していた。初期研修医は,術前休薬期間の確認や他の抗血栓薬からの切り替え方の確認が重点改善分野にプロットされた。NOACをより適正に使用するためには初期研修医・薬剤師が医師に依存せず,薬剤師が専門性を生かし,医師と協働して抗凝固薬治療に参画することが課題である。
著者
前田 茂人 林田 直美 メイルマノフ セリック 清水 一雄 兼松 隆之 林 徳真吉
出版者
独立行政法人国立病院機構長崎医療センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2007年から2009年の3年間にかけて、セミパラチンスク(カザフスタン)の核実験場近くのセミパラチンスクがんセンターおよびセミパラチンスク医科大学にて、甲状腺癌および乳癌に対する外科的医療支援を行った。同地域では、1949年から1989年まで489回にもわたる核実験が行われており、2009年は核実験が閉鎖されて20年となる年である。甲状腺癌および乳癌の標準的診断および外科治療が施行されるように、インターネット教育および現地での実践を行った。特に甲状腺癌外科治療おいては、頸部リンパ節郭清の概念および手技の導入が現地外科医になされたと考えられた。
著者
蒲原 行雄 山家 仁 重岡 裕治 吉永 啓 青木 史一 梶原 義史 兼松 隆之
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.922-926, 1994-04-01
被引用文献数
9

鈍的腹部外傷によって生じる小腸狭窄はまれな疾患である.今回われわれは,転倒による腹部打撲後に発症した小腸狭窄の1例を経験したので,本邦報告例の検討とともに報告する.症例は56歳の男性.バイク乗用中転倒し,下腹部を打撲し来院した.入院時の腹部超音波検査,computed tomography(CT)検査にて腹腔内出血を認めたが,保存的に軽快した.第14病日に腹痛と嘔吐が出現し,腹部単純X線撮影にて鏡面形成を伴う小腸ガスの増加を認めた.イレウス管を挿入し症状は軽減したが,小腸造影で回腸に全周性の狭窄を認めた.開腹にて回盲弁から50cmの回腸の狭窄と周囲の腸間膜に瘢痕を認めた.腸切除を行い,術後経過は良好であった.病理学的検索にて,U1II-IIIの輪状潰瘍と炎症細胞の浸潤,および線維化を伴う肉芽組織の増生を認め,鈍的外傷による回腸の限局性の循環不全で生じた瘢痕狭窄と考えられた.