著者
平良 昌彦
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.461-489, 1975-10-28 (Released:2009-02-17)
参考文献数
45
被引用文献数
4 4

水俣病の原因物質は熊大の研究でメチル水銀と断定された。その後の日本全土にわたる水銀汚染調査の過程でこのメチル水銀は, 水銀の人為的汚染のない一般魚類や一般人毛髪中にも見出された。とくに外洋のマグロに含まれる水銀の60∼70%がメチル水銀であり, またスエーデンでは, 魚類の水銀含量が異常に高いことも報告され, このような自然界に見出されるメチル水銀の由来と人類への影響を公衆衛生学的な見地より解明する目的で微生物による無機水銀の有機化の機序と生物濃縮の過程を微生物学的, 生態学的両面から検討した。すなわち, 水銀耐性の Psedomonas 属の菌を下水より分離し, この細菌による有機水銀の生合成, 分解について検討し, ついで水銀鉱床地帯, 土壌, 河川, 海水中の微生物, ある種の真菌類も有機水銀の生合成能を有することをみつけ自然界における無機水銀の有機化の可能性を肯定した。さらに有機水銀の生成度の検討と生合成メチル水銀がどの程度生物濃縮の過程を介して魚類に蓄積するのか生態学的手段を導入して検討し, 生合成メチル水銀が, 食物連鎖により濃縮が行われ, 魚類に高い水銀値を示すことはあるが, 水俣病の場合のように異常量のメチル水銀の持続的流出のないかぎり中毒 (水俣病) を起こすほどのメチル水銀が魚類に蓄積することはない。だから異常に高い水銀を魚介類から検出したときはなんらかの人工的汚染を疑い対策を講じる必要がある。