著者
平賀 富一
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
巻号頁・発行日
no.10, pp.251-270, 2004-09-30

小売業の分野でも外資有力企業の重要な参入ターゲットになっている中国においては、特に2001年12月のWTO加盟を契機に外資系企業の動きが加速している。それらの中には、カルフールのように特に積極的かつ大規模な展開を行なっている企業がある反面、相対的に慎重な企業も見られ、日系企業の成功事例として挙げられるローソン、イトーヨーカ堂、伊勢丹等も、欧米の大手企業に比べればその企業行動は慎重で小規模なものに留まっている。本稿では、中国小売市場の構造変化およびその開放動向を踏まえて、(1)外資各企業間の対中参入戦略や取り組みの違いはどうして生じているのか、(2)中国小売市場で外資企業が成功を期する上では何が重要な要因であり、日本企業にとっての留意点は何か、という課題につき、現地での店舗の視察と先行研究・各種調査データ等の諸文献を踏まえて考察した。具体的には、先ず中国の小売業の概況、改革・開放後の中国政府による小売市場の開放方針・法制度の変遷、今後の市場環境に大きな影響を有するWTO加盟に際しての国際約束について概観し、次いで欧米日の有力企業6社を取り上げその対中戦略や中国市場での経営・営業動向を考察し、関連する小売業の国際化理論に関する先行研究について述べた。最後に、それらを踏まえた総合的な考察の結果として、各社の対中戦略・取り組みの違いとしては、中国への進出の重要性に関する各企業の認識の違いが大きな要因となっていること、また外資企業の成功要因としては、自社の強みを活かし現地ニーズへの適応を含む戦略の策定・実行、政府との良好な関係の構築の必要性などを挙げた。さらに日本企業にとっての留意点としては、将来を見据えた戦略を持っての行動、日本での成功体験に固執せず現地市場の特性を認識し、より柔軟に適応すべきこと、歴史認識問題など対日感情の悪さや欧米系企業に比べた企業イメージの低さなどにも配慮し正攻法で事業活動を展開すべきことを指摘した。