著者
平野 宏子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.45-71, 2014-05

1節では,本研究が国立国語研究所共同研究プロジェクト「日本語教育のためのコーパスを利用したオンライン日本語アクセント辞書の開発」の一部であり,web辞書構築の土台となる韻律教育の効果を,紙媒体を使って検証してきたものであることを述べた。2節では,音声の特徴と,学習者の日本語らしい音声習得へのニーズの高さについて述べた。3節では,日本と中国で学習者の日本語音声に対する関心は高くても,音声教育が体系的に行われていないこと,従来の教科書には単音や語のアクセント型の記述はあっても,連語のアクセントや文のイントネーションの記述は少ないこと,しかし最近は韻律の重要性の認識が高まり,韻律学習を目的とした教材の出版が顕著に増えているが,現在のカリキュラムや教材の中で音声教育が自然に導入されることが理想的であることを述べた。4節では,中国語話者の日本語発話の韻律的特徴について述べた。中国語話者のピッチパターンでは,文節ごとの急峻なピッチの上下変動がみられ,音響的な意味のまとまりの形成を阻害すること,日本語にはないアクセント型が出現しやすいことを述べた。5節では,従来の音声教育の問題点を踏まえ,web辞書OJAD開発に関わる教育効果を検証するために,開発と並行して行ってきた紙媒体での音声教育の実践方法について述べた。6節では,音声教育実践の効果についてアンケート調査をもとに分析を行った。ゼロ初級からの音声教育は従来のカリキュラムを変更することなく行え,韻律視覚化教材使用によって教師と学習者間で音声に関して様々な気づきと対話が生まれ,教師は基準をもとに自信を持って指導することができるようになり,学習者は音声学習を負担に感じるよりむしろ面白いと答えた。7節では,教材のweb化,OJADの開発について紹介した。
著者
平野 宏子 顧 文涛 広瀬 啓吉 峯松 信明 河合 剛
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.333, pp.19-24, 2006-11-03

日本語学習者が自然な発音・イントネーションで話したいと願うとき,ピッチ・アクセント言語の日本語において,その自然性に主要に関わる基本周波数の適切な制御が重要になる.本研究では,母語話者と学習者(標準中国語話者)の基本周波数パターンを比較し,その特徴を分析する.その際,1)表層の音声に現れる基本周波数パターンの特徴を,F_0の局所的な上昇下降の形状や発話全体のレンジの変化の様相から述べ,2)音声合成分野に広く用いられている基本周波数生成過程モデルを,第二言語の韻律習得の分析に応用し,いくつかのパラメータから個々の特徴を分離して定量的に調べる.モデルによる分析からは以下のことが示された.1)基底周波数は学習者の方が高い,2)フレーズ指令の生起数が多く,形成される韻律句が短い,3)文節中にアクセント指令が多く生起し,文節がいくつかの韻律語に分解される,4)文(節)末で急激なF_0下降が生じ,局所的に負のアクセント指令が導入される.これらの特徴は,音節毎に声調型を持つ中国語音声の影響,第二言語発話の不慣れ,適切な韻律指導の不足に起因すると考えられる.
著者
小林 俊平 清水 信哉 峯松 信明 広瀬 啓吉 平野 宏子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.471, pp.95-100, 2012-03-01
参考文献数
19

より自然な音声を出力する日本語テキスト音声合成システムを実現するためには,入力文中の各アクセント句のアクセント核位置を適切に推定する必要がある.筆者らはCRFを用いた統計的アクセント型予測モデルに,従来から広く用いられていたアクセント結合規則を素性として組み込むことで,大きな精度改善を実現してきた.しかし,数詞を含む句や外来語を含む句など,特殊なアクセント変化を起こす句に対しては,まだ十分な精度が出ていなかった.そこで本稿では,これらの句に対して規則処理を参考にすることで定義される素性を付加することで,精度改善を試みた.また,アクセント変形予測技術の一つの応用として,日本語教育支援について検討した.具体的には,任意の日本語テキストを対象とした活用語アクセント辞書の自動生成システムを作成した.