著者
袴田 航 平野 貴子 西尾 俊幸
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.72-78, 2021-05-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
25

糖鎖は細胞内で糖タンパク質・糖脂質などとして存在し,重要かつ多様な生命機能を提供している.それら糖鎖の構築には,多種類の糖加水分解酵素・糖転移酵素が関わっている.ヒト細胞内の主要なオルガネラには複数のexo-型糖加水分解酵素が存在し,その阻害剤は細胞内で糖鎖構造を変化させることにより,免疫機能調節・がん転移制御・抗がん作用・バクテリアおよびウイルス感染抑制と予防効果等を示すため,有望な創薬ターゲットとなっている.これら酵素の阻害剤を開発するためには,ヒト細胞を用いた標的酵素阻害評価系の構築が必要となる.本研究では,ヒト培養細胞を酵素源とし生細胞中の微弱な標的酵素活性を効率的に検出可能な蛍光基質を開発し標的酵素阻害評価系の構築することによって,目的阻害剤の探索を可能とした.本稿では特に小胞体グルコシダーゼ阻害剤がエンベロープウイルスに対して抗ウイルス活性を示すこと中心に述べる.小胞体グルコシダーゼ阻害剤は,薬剤耐性ウイルスの出現回避・ウイルス感染予防薬となりうる宿主標的型抗ウイルス剤に大別される.しかしながら,糖構造を基盤とする既知小胞体グルコシダーゼ阻害剤は,抗ウイルス活性を示すが高い親水性に基づく低い膜透過性の問題があり,問題解決を目指したそれらの誘導体も抗ウイルス薬として上市には至っていない.そのため,既知阻害剤の構造展開といったアプローチではなく,標的酵素の蛍光基質開発,それを用いたヒト培養細胞における阻害剤探索系を構築し,化合物ライブラリより阻害剤探索する方法を採用した.その結果,目的の性質を有するヒット化合物が得られ,その合成法を確立,さらに構造展開を行うことによって,既知阻害剤よりも高い抗ウイルス活性を有する誘導体を得ることができた.