著者
中村 禎子 田辺 賢一 中山 敏幸 奥 恒行
出版者
日本応用糖質科学会
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.124-128, 2018 (Released:2018-08-22)

我々は,腸内細菌が難消化吸収性糖質から産生する水素ガスに着目し,腸内細菌由来水素ガスは,吸入などによる水素ガスと同様の抗酸化作用があり,疾病の発症遅延や重症化予防に寄与するという仮説をたて,実験動物を用いて検証してきた。老化促進モデルマウスを難消化吸収性糖質含有飼料で長期間飼育し,学習・記憶障害を発症するSAMP8特有の症状発症と重症化の遅延を観察した。Passive avoidance testの結果では,フラクトオリゴ糖(FOS)5%含有飼料群の成績が対照飼料群に比較して有意に良好で,学習・記憶障害の発症が遅延した。FOS群では水素ガス体外排出が有意に高く,老化度得点,酸化ストレスや炎症の関連指標は有意に低値を示した。また,鉄過剰投与による肝障害モデルラットをFOS含有飼料で飼育した実験では,血液中のALTならびに酸化度は有意に低値を示し,肝障害の改善や発症遅延が観察された。以上の結果より,難消化吸収性糖質継続的摂取は,生体内水素ガス濃度をある程度高く維持し,疾病予防や重症化遅延に寄与している可能性がある。しかし,その機序については,今後の検討が必要である。
著者
有賀 修 岡本 直樹 井上 貴由 久保 元 森山 洋憲
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.142-146, 2012-05-20 (Released:2017-12-24)
参考文献数
21
被引用文献数
1

紅藻類が生産する多糖類の中でアガロースとアガロペクチンを主成分とする寒天はゲル化剤などとして食品に利用されるだけでなく,DNAや生体関連物質の分離に使われる分子生物学には欠くことのできない材料である。アガロースはガラクトースとアンヒドロガラクトースがβ-1,4およびα-1,3結合で交互に結合してできる多糖類である。したがって,アガロースを分解できる寒天分解細菌はβ-アガラーゼとα-アガラーゼを生産しアガロースを唯一の炭素源として増殖できるが,その多くは海洋環境から単離されてきた。さらに,寒天分解酵素の精製や遺伝子のクローニングが行われ,遺伝子の解析も進んできた。筆者らは非海洋性の寒天分解菌を単離し,2つのβ-アガラーゼ遺伝子のクローニングに成功し,ネオアガロオリゴ糖の生産が可能となった。菌体破壊液からのα-アガラーゼの精製を行い,諸特性を調べている。寒天オリゴ糖の研究は少ないが,抗酸化作用,ビフィズス菌の増殖促進効果なども報告されてきた。この総説では寒天分解酵素や寒天オリゴ糖の最近の研究の紹介を行う。
著者
宅見 央子 中村 弘康 釜阪 寛 米谷 俊 灘本 知憲 寺尾 純二 栗木 隆
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.186-193, 2011-04-20 (Released:2017-12-15)
参考文献数
21
被引用文献数
3 2

ヘスペリジンは,柑橘類の果皮に多く含まれるフラボノイドで,多岐にわたる生理作用を有するものの水溶性が極めて低いために食品への利用に制限があった。われわれは,シクロデキストリン合成酵素により,ヘスペリジンにα-1,4結合でグルコースを転移させ,水溶性を高めた糖転移ヘスペリジンの生理活性に着目し,血流改善作用について研究を行ってきた。冷え性をモデルとした試験では,局部急速冷却負荷試験および全身緩慢冷却負荷試験の両方において,糖転移ヘスペリジンが末梢の血流や皮膚表面温度を高く維持する作用がみられた。また,糖転移ヘスペリジンを継続摂取することにより,目の下の「くま」が軽減され,肌のハリや柔らかさが改善する傾向が示唆された。血流改善作用の機構として,血管内皮細胞由来のNO(血管拡張物質)の産生促進作用に関する機構と,自律神経を介した機構の2つの関与が示唆された。実際に,糖転移ヘスペリジンをヒトが継続摂取することで,血流や自律神経に関する項目で体調の改善がみられた。以上の結果より,糖転移ヘスペリジンは,冷えや肩こり,腰痛,肌荒れなどの婦人科疾患の改善をはじめ,人々の健康増進に役立つ成分である可能性が示された。
著者
本多 裕司 岡野 麻里 齋藤 泰宏
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.170-175, 2022-08-20 (Released:2022-09-20)
参考文献数
13

本研究では,焼きいもの肉質が粉質系に近い「五郎島金時」と粘質系の「べにはるか」の生イモと蒸したサツマイモに含まれる遊離糖組成,澱粉の物理化学的な性質,及びβ-アミラーゼ活性を分析した.両試料共に生イモに含まれる遊離糖含量はスクロースが最も多かったが,蒸しイモに含まれる遊離糖含量はマルトースが最も多かった.収穫直後の「べにはるか」澱粉の糊化開始温度 (To) は「五郎島金時」澱粉よりも5 °C以上低い値を示した.一方,定温貯蔵後の試料については,両試料共にToは63 °C付近であった.収穫直後も定温貯蔵後も「べにはるか」澱粉の各RVAパラメーターは「五郎島金時」澱粉よりも低くなる傾向がみられた.両試料のβ-アミラーゼ比活性は60 °Cが最高値であったが,40~70 °Cにおける収穫直後の両試料のβ-アミラーゼ比活性に有意差はみられなかった.一方,定温貯蔵後の試料の場合,50 °Cと60 °Cの「べにはるか」のβ-アミラーゼ比活性は「五郎島金時」の3倍以上であった.以上の分析値を用いて主成分分析した結果,「べにはるか」の食味の発現にβ-アミラーゼ活性が,「五郎島金時」の食味の発現には,澱粉の物理化学的な性質が大きく寄与している可能性が示唆された.
著者
齋藤 泰宏 本多 裕司
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.87-93, 2021-05-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
18

本研究では,焼きいもの味質において粉質系に分類される「ベニアズマ」と粘質系に分類される「べにはるか」,及びそれらの中間的な食味を示す「五郎島金時」の澱粉の物理化学的な性質の変化についてキュアリングの効果を分析した.キュアリング直後の各試料の澱粉の糊化開始温度を比較してみると,各品種ともにキュアリングによって1°C程度低下する傾向がみられた.アミロペクチン鎖長の重合度6~12の存在比を比較してみると,「ベニアズマ」と「べにはるか」由来澱粉はキュアリングによってその含量の割合が増加したが,「五郎島金時」由来澱粉はそのような変化がみられなかった.RVAの粘度上昇温度を比較してみると,「ベニアズマ」由来澱粉はキュアリングによって約1°Cの低下がみられたが,他の澱粉に差異はみられなかった.また,セットバック値を比較してみると,「ベニアズマ」由来澱粉はキュアリング後に30%上昇したが,他の澱粉の値は20%程度低下していた.以上の分析で決定したパラメータを用いて主成分分析した結果,澱粉の物理化学的な性質においても粘質,中間質,及び粉質で分類する事ができた.
著者
定清 剛 安田(山下) 亜希子 三皷 仁志 牛尾 慎平
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.291-297, 2018-11-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
32

4G-β-D-Galactosylsucrose(ラクトスクロース;LS)は,マウスにおいてスギ花粉抗原特異的なIgE産生を抑制することが報告されているが,ヒトを対象にした評価は行われていない.そこで,本研究では,スギ花粉等の飛散時期に花粉症の症状を呈する被験者にLSを摂取させ,症状の変化を解析した.試験はプラセボ対照ダブルブラインド方式で行った.被験者をLS群とプラセボ群に分け(n = 20),LS群にはLS 3gを含む水飴を,プラセボ群にはLSを含まない水飴を1日1回,18週間摂取させた.LS群では,プラセボ群と比較して鼻症状および眼症状が有意に軽減した.また,鼻と眼の症状薬物スコアもLS摂取によって有意に低下した.日常生活の支障度についてもLS摂取によって有意な低下が認められた.以上の結果から,LSの長期摂取は花粉症の症状を緩和し,花粉飛散時期における生活の質を改善することが示された.
著者
小関 卓也 堀 茜 見原 好治 河本 かずさ 伏信 進矢 小宮 大 鈴木 健太郎 祥雲 弘文 若木 高善 村山 哲也 塩野 義人
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.111-116, 2012-05-20 (Released:2017-12-24)
参考文献数
30
被引用文献数
1

フェルラ酸は植物細胞壁に存在する最も豊富なヒドロキシ桂皮酸の1つで,ヘミセルロースのキシランにおいては側鎖のアラビノフラノースのO-5あるいはO-2の位置に,ペクチンにおいては側鎖のアラビノフラノースのO-2あるいはガラクトピラノースのO-6の位置でエステル結合している。また,フェルラ酸は5,5'-,8,5'-,8,8'-および8-O-4'-結合によるダイマーを形成し,キシラン,ペクチン,リグニンとの架橋を形作っている。麹菌Aspergillus oryzae RIB40のゲノム配列情報を基に,ヘミセルロースの効率的分解に寄与するフェルラ酸エステラーゼと類似する遺伝子配列をいくつか見出し,それら遺伝子をクローン化し,Pichia pastorisで発言させた。それぞれのリコンビナント酵素のうちAoFaeBとAoFaeCはタンナーゼファミリーのフェルラ酸エステラーゼで,一次構造と一般的性質は似ていたが,いずれもタンナーゼ活性は検出されず,また,それぞれの酵素はシナピン酸エステルに対する特異性が異なっていた。AoPrbAはAoFaeBおよびAoFaeCと一次構造は類似しているものの,フェルラ酸エステラーゼ活性やタンナーゼ活性は検出されず,4-ヒドロキシ安息香酸エステル特異的なエステラーゼで,タンナーゼファミリーに分類されるエステラーゼは,その多様性が示唆された。
著者
竹中 悠人 石水 毅
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.96-102, 2020-05-20 (Released:2021-06-01)
参考文献数
26

ペクチンは植物細胞壁の構成多糖の一つで,13種類の単糖成分,30種程度の糖結合様式を含む複雑な構造をしている.このペクチンの生合成には30種程度の糖転移酵素が関わっていると考えられている.しかし,ペクチン構造の複雑さ,遺伝学の適用のしにくさのため,それらの糖転移酵素遺伝子の同定は進んでいない.我々は「逆生化学」的手法を適用して,新たな糖転移酵素ファミリーGT106を見出し,そのうちの一つのサブファミリーがペクチン主鎖を生合成するラムノース転移酵素であることを突き止めた.シロイヌナズナには34種類のGT106酵素遺伝子がコードされているが,ペクチン関連遺伝子との共発現解析などから,GT106にはペクチン生合成に関わるものが多く含まれると考えている.「逆生化学」的手法の確立とGT106の発見により,ペクチン生合成機構解明への幕が開いたと捉えている.この総説では,ペクチン生合成・生理機能の研究の現状を解説し,この分野の今後の楽しみな展開について述べる.
著者
中村 禎子 田辺 賢一 中山 敏幸 奥 恒行
出版者
一般社団法人 日本応用糖質科学会
雑誌
応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌 (ISSN:21856427)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.124-128, 2018-05-20 (Released:2022-03-09)
参考文献数
18

我々は,腸内細菌が難消化吸収性糖質から産生する水素ガスに着目し,腸内細菌由来水素ガスは,吸入などによる水素ガスと同様の抗酸化作用があり,疾病の発症遅延や重症化予防に寄与するという仮説をたて,実験動物を用いて検証してきた.老化促進モデルマウスを難消化吸収性糖質含有飼料で長期間飼育し,学習・記憶障害を発症するSAMP8特有の症状発症と重症化の遅延を観察した.Passive avoidance testの結果では,フラクトオリゴ糖(FOS)5%含有飼料群の成績が対照飼料群に比較して有意に良好で,学習・記憶障害の発症が遅延した.FOS群では水素ガス体外排出が有意に高く,老化度得点,酸化ストレスや炎症の関連指標は有意に低値を示した.また,鉄過剰投与による肝障害モデルラットをFOS含有飼料で飼育した実験では,血液中のALTならびに酸化度は有意に低値を示し,肝障害の改善や発症遅延が観察された.以上の結果より,難消化吸収性糖質継続的摂取は,生体内水素ガス濃度をある程度高く維持し,疾病予防や重症化遅延に寄与している可能性がある.しかし,その機序については,今後の検討が必要である.