- 著者
-
袴田 航
室井 誠
西尾 俊幸
奥 忠武
高月 昭
長田 裕之
福原 潔
奥田 晴宏
栗原 正明
- 出版者
- 日本応用糖質科学会
- 雑誌
- Journal of applied glycoscience (ISSN:13447882)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.2, pp.149-154, 2006-04-20
- 参考文献数
- 20
- 被引用文献数
-
9
現在,新H5N1型インフルエンザやSARSなど続々と出現する新興ウイルス感染症や鳥インフルエンザのヒトへの伝播等,新興ウイルス感染症は人類の脅威となっている.しかし,ウイルス感染症に対する有効な薬剤の開発は,細菌感染症の抗生物質に比べ遅れている.そこで,ウイルス共通の感染機序に基づいた薬剤の開発が重要と考え,外被を有する多くのウイルスの感染・増殖には複合型のN-結合型糖鎖が関与している知見を基にして,小胞体N-結合型糖鎖プロセシング酵素を標的酵素とした分子標的薬の開発を目指して研究を行っている.分子標的薬の開発には,標的酵素である糖鎖プロセシング酵素の基質特異性の解明が必要であると考えた.そこで,合成プローブを用いてN-結合型糖鎖プロセシングの第1段階を担うプロセシンググルコシダーゼI (EC 3.2.1.106)と第2段階を担うプロセシンググルコシダーゼII (EC 3.2.1.84)のグリコンおよびアグリコン特異性を調べ,α-グルコシダーゼ (EC 3.2.1.20, GH13 and GH31) のそれと比較した.その結果,グルコシダーゼIのグリコン特性はGH13 α-グルコシダーゼと,グルコシダーゼIIのグリコン特性はGH31 α-グルコシダーゼと同様であった.またグルコシダーゼIとグルコシダーゼIIのアグリコン認識は同様であり,GH13およびGH31 α-グルコシダーゼとは異なっていた.そこで,プロセシンググルコシダーゼIおよびIIを標的として,酵素阻害剤候補化合物の設計と合成を行った.これら候補化合物の<i>in vitro</i>酵素阻害活性と細胞レベルでのウイルス外被糖タンパク質の合成・成熟・転送阻害およびプラーク法による感染性ウイルス数の測定を行った.その結果,<i>in vitro</i>においてヘプチトール誘導体,スルフォニル誘導体の一部にIC<small>50</small>約50 μMの阻害活性を,カテキン誘導体の一部にIC<small>50</small> 0.9 μMの強力な阻害活性を見いだした.さらに,細胞レベルではカテキン誘導体の一部にプロセシンググルコシダーゼ阻害を作用点とするとみられる比較的強い抗ウイルス活性を見いだした.今後,ウイルス外被糖タンパク質の糖鎖構造解析等により詳細な作用機序の解明を行う予定である.