著者
山本 秀策 広岡 仁史
出版者
日本醗酵工学会
雑誌
醗酵工学雑誌 (ISSN:03675963)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.570-576, 1974-08
被引用文献数
1

グルタミナーゼは, 動植物, 酵母, 及びバクテリアに分布することは広く知られているが, カビのグルタミナーゼに関する報告はない. 前報で醤油麹菌Aspergillus sojaeのグルタミナーゼは醤油醸造過程でグルタミンをグルタミン酸に転換する働きのあることを示すとともに, その A. sojaeのグルタミナーゼ著量生産変異株262が高濃度のグルタミン酸を有する醤油を造るのに実際に使用し得ることを示した. そこで, このA. sojae 262のグルタミナーゼを精製し, その諸性質をしることは興味のあることと考えられる. グルコース, ペプトン, リン酸-カリ, 及びマグネシウム塩等からなる培地にて液体培養して得た菌体を磨砕し, リン酸バッファーにて抽出し, さらに乳酸にてpH4.5とする. これを遠心分離して, 得られる上澄に60%(v/v)までアセトンを加え, 得られる沈殿物をリン酸バッファーに溶解し, さらに同一バッファーに透析して, DEAE-Celluloseカラムにかけた. 次いで, その活性区分を透析脱塩, 凍結乾燥後, Sephadex G-200 カラムにかけ, 活性区分を集めて蒸留水に対して透析し, 凍結乾燥した. このときのグルタミナーゼは磨砕処理時のそれの約130倍に精製されていた. さらに, Hyroxylapatite, Sepharose 6B, DEAE-Sephadex A-50等を用いて精製が試みられたが, 数個のサブユニットに分かれるらしいこと, そしてこの結果, その活性を失ってしまうために, それ以上の精製を続けることは困難であった. そこで, この酵素剤が, 以下の実験を通して部分精製グルタミナーゼとして用いられた. Sephadex G-200 gel filtrationによって, このグルタミナーゼの分子量は約123,000と推定された. Hartmanらによって約110,000と報告されている E. coliのグルタミナーゼの分子量と大略等しい. このグルタミナーゼはpH8.0で最大活性を示し, ブタ, イヌ, 及びネズミのような動物のグルタミナーゼの場合にほぼ等しい. しかし, pH5.0に最大活性を示すClostrildium welchiiやE. coliのようなバクテリアのグルタミナーゼと著しく相異している. また, この酵素はpH7~9の範囲で比較的安定であった. しかし, 熱に対しては, 最も安定なpHにおいてさえも, 著しく不安定で, 30℃, 10分処理でその活性の10%を, 60℃ではその殆んどすべてを失った. しかし, この熱変性は40~50℃の範囲で, 卵白によってある程度防護された. また, このグルタミナーゼは希釈されると速やかにその活性を失うことからも, 卵白中のある種の蛋白質を安定剤としていることが推察された. Km値は3.3×10^<-4M>であった. このグルタミナーゼはMn^<8+>やMg^<8+>によってわずかに活性化されたが, Zn^<2+>やPb^<2+>によってある程度, 10^<-2M> の Hg^<2+>によって著しく阻害された. 10^<-3M>のCu^<2+>, Ca^<2+>, Fe^<2+> Co^<2+>及びHg^+によっては何ら影響されなかった. これは10^<-3M>のZn^<2+>, Cu^<2+>又はHg^<2+>によって強く阻害されるブタの腎臓のグルタミナーゼと異なる. この酵素はEDTA や SLSによってはわずかに阻害されるが, PCMB, monoiodoacetate, 及び N-ethylmaleimideのようなSH阻害剤によっては阻害されなかった. この点でイヌの腎臓, ネズミの肝臓, 及びC. welchiiのグルタミナーゼとまったく異なっている.