著者
広瀬 立成
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.25-33, 1977-01-05

反粒子第1号の発見はDiracにより予言された陽電子である. 今からおよそ45年前のことであった. それ以後, 陽子を始め共鳴状態も含めた総ての素粒子に対して, 必ず反粒子状態が存在することが確認されてきた. 反粒子は素粒子界に於ける影武者である. 常に粒子と対になって発生し, 粒子と結合して消滅する. この反粒子の出没自在の特異な性質は, 量子数保存という量子力学の最も基本的な法則から理解できる. 近年消滅反応は電磁相互作用や強い相互作用の研究に大変有効であることが認識されてきた. 素粒子の世界が粒子と反粒子に対して全く対称に創造されている以上, 両者を対等に理解して始めて素粒子全体の描像が解明されるのである. 反粒子が反粒子原子を形成してから消滅に至るまでの道筋を追いながら, 強い相互作用の中で反粒子消滅の果す役割を概観しよう.