著者
庄 建治朗 鎌谷 かおる 冨永 晃宏
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.294-306, 2017-09-05 (Released:2017-10-05)
参考文献数
18
被引用文献数
3

本研究では,歴史時代の水文・気候環境を復元する資料としての古日記天気記録の利用可能性を検証するため,気象台による観測開始以降の明治・大正期に書かれた古日記を用い,日記天気記録と気象観測データとの関係を分析した.京都とその周辺地域で書かれた8つの古日記から天気記録を収集し,日単位の降水量・雲量のデータと照合したところ,各天気種別に対応する観測値の分布は,日単位で見れば非常に広い範囲にばらつくが,長期間の平均値は異なる日記間で互いに近い値をとることが分かった.このことは,日記天気記録は日単位では非常に誤差が大きいが,月単位や季節単位といった期間積算値を用いることで客観性が高まり,降水量等の定量値を推定できる可能性が高くなることを示唆している.さらに,これらの解析結果を応用して,観測時代について歴史時代と同じ方法で日々の天気から入出梅日を推定することにより,過去約240年間にわたる時間的に均質な入出梅日のデータを作成し,梅雨期間の長期変動を分析した.結果は,20世紀が過去に見られないような梅雨期間の長期化した時期であったことなど,過去の研究でも指摘されていたことを再確認するものであった.