著者
府川 哲夫 清水 時彦
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.13, pp.37-49, 1990-05-30

都道府県別生命表の作成は,かなり以前から行われており,厚生省統計情報部でも昭和40年から5年ごとに作成している。これに対し,市区町村別生命表は,死亡数の少ない小地域で観察される死亡率の不安定性という困難な問題のため,あまり研究が進んでいない。しかし,このような小地域における死亡率の推定には,ベイズ統計学が強力な手法となることが明らかにされてきている。「地域別生命表に関する研究班」(主任研究者:鈴木雪夫 多摩大学教授・東京大学名誉教授)では,小地域生命表の作成にベイズ統計学の手法を適用して1989年3月に「1985年市区町村別生命表」を発表した。本論文では,上記研究班での研究をもとに,ベイズ統計学の手法を生命表作成に適用する際の方法論を,伝統的統計学の手法との比較を含めて検討し,ベイズ統計学を用いた効果を論じ,結果として得られた市区町村別平均寿命を用いて死亡水準に関する若干の地域分析を行った。市区町村別生命表における性・年齢階級別中央死亡率の推定は,当該市区町村を含むより広い地域の死亡率の情報を利用するという形でベイズ統計学の手法を適用している。この方法は,ある市区町村の死亡率の推定において,その市区町村を含むより広い地域の死亡率を当該市区町村における観測結果により補整するという点できわめて自然なものであるといえる。このため,性・年齢階級別の推定死亡率は安定し,その結果,ほとんど全ての市区町村で平均寿命に対する標準誤差が0.5年以内に収まることがわかった。北海道の全市区町村を例に,ベイズ統計学の手法を適用した場合と適用しない場合の,女の平均寿命に対する標準誤差を比較してみると,全ての市区町村でベイズ統計学の手法を適用した場合の方が精度がよく,特に人口規模の小さい市町村においてその効果が顕著であることがいえる。市区町村別生命表の結果を用いて地域の死亡率の特徴を考察すると, (1)長野,岐阜,静岡の3県は男の平均寿命が高い市町村が多いが,男の90歳以上の死亡率は全国平均値より高い, (2)有明海沿岸の市町村は男女とも比較的平均寿命が高いが,特に女の80歳以上の死亡率はきわだって低い,等のことがわかった。このように,市区町村別生命表の結果を用いて,従来観察できなかった小地域の死亡水準に関する分析が可能となった。
著者
府川 哲夫 清水 時彦
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.37-49, 1990-05-30 (Released:2017-09-12)

都道府県別生命表の作成は,かなり以前から行われており,厚生省統計情報部でも昭和40年から5年ごとに作成している。これに対し,市区町村別生命表は,死亡数の少ない小地域で観察される死亡率の不安定性という困難な問題のため,あまり研究が進んでいない。しかし,このような小地域における死亡率の推定には,ベイズ統計学が強力な手法となることが明らかにされてきている。「地域別生命表に関する研究班」(主任研究者:鈴木雪夫 多摩大学教授・東京大学名誉教授)では,小地域生命表の作成にベイズ統計学の手法を適用して1989年3月に「1985年市区町村別生命表」を発表した。本論文では,上記研究班での研究をもとに,ベイズ統計学の手法を生命表作成に適用する際の方法論を,伝統的統計学の手法との比較を含めて検討し,ベイズ統計学を用いた効果を論じ,結果として得られた市区町村別平均寿命を用いて死亡水準に関する若干の地域分析を行った。市区町村別生命表における性・年齢階級別中央死亡率の推定は,当該市区町村を含むより広い地域の死亡率の情報を利用するという形でベイズ統計学の手法を適用している。この方法は,ある市区町村の死亡率の推定において,その市区町村を含むより広い地域の死亡率を当該市区町村における観測結果により補整するという点できわめて自然なものであるといえる。このため,性・年齢階級別の推定死亡率は安定し,その結果,ほとんど全ての市区町村で平均寿命に対する標準誤差が0.5年以内に収まることがわかった。北海道の全市区町村を例に,ベイズ統計学の手法を適用した場合と適用しない場合の,女の平均寿命に対する標準誤差を比較してみると,全ての市区町村でベイズ統計学の手法を適用した場合の方が精度がよく,特に人口規模の小さい市町村においてその効果が顕著であることがいえる。市区町村別生命表の結果を用いて地域の死亡率の特徴を考察すると, (1)長野,岐阜,静岡の3県は男の平均寿命が高い市町村が多いが,男の90歳以上の死亡率は全国平均値より高い, (2)有明海沿岸の市町村は男女とも比較的平均寿命が高いが,特に女の80歳以上の死亡率はきわだって低い,等のことがわかった。このように,市区町村別生命表の結果を用いて,従来観察できなかった小地域の死亡水準に関する分析が可能となった。
著者
府川 哲夫
出版者
Population Association of Japan
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.13-27, 1995-05-31 (Released:2017-09-12)

マイクロ・シミュレーションモデルの1つである「世帯情報解析モデル」INAHSIMは1981〜82年及び1984〜85年にかけて「世帯モデル研究会」によって開発された。INAHSIMは世帯,世帯員(個人),夫婦(配偶関係)の3つの情報単位で実社会の世帯を表現し,基礎率として出生率,死亡率,結婚率,離婚率,単身化率及び復帰率,世帯合併率等を用いて実社会の世帯の変動をシミュレートしている。このモデルから得られる結果は,世帯の種類別世帯数の将来推計の他に,世帯動態,高齢者の世帯状況,ファミリー・ライフサイクルに関する情報,基礎率を変化させた場合の世帯構成への影響評価,等多岐にわたっている。今回, INAHSIMに初期値作成手順の大幅な変更を加え, 1990年を起点として2040年までの50年間のシミュレーションを行った(1994年推計)。1994年推計の初期値は人口1.7万人,世帯数5.5千世帯であった。今回の推計によって,世帯調査から初期値を得られない場合にもINAHSIMによる世帯推計は可能であることが確認された。今回用いた標準基礎率に基づく推計によると,総人口は2010年頃,総世帯数は2010年代にピークを迎え,その後減少し始めるが,単独世帯及び世帯主が65歳以上の世帯の増加が顕著であった。その結果,65歳以上の単独世帯の割合は2000年には19%, 2040年には24%と増加することが見込まれた。世帯動態に関しても,これまでに得られていた結果を拡充する情報が得られた。今回の推計では基礎率の吟味は十分行えなかった。個人セグメントに健康状態の情報を付加すればINAHSIMから介護に関するデータが得られる等,モデルの発展の可能性も議論した。