著者
森 洋一 中澤 港
出版者
Population Association of Japan
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.27-39, 2003-11-30 (Released:2017-09-12)

本論文は,ヒトの死亡についての新しいモデルを提示し,これが100を超える生命表に適合することを示すことで,その有用性・理論的重要性を示すものである。ヒトの死をモデル化するには,2つの競合するゴールがあるように思われる。現実の生存曲線を記述することと,病因論的な変数で死亡を説明するごとである。これまでは,この2つのゴールを1つのモデルで達成したものはなかった(Woodら,1992)。Gavrilov and Gavrilova (1991)の雪崩モデルにヒントを得て本論文で構築した単純な病因論的モデルは,これら2つのゴールをともに達成したと考えられた。フランス,日本,スウェーデン,米国の生存曲線に対して,このモデルを最小二乗法で当てはめたところ,最適なパラメータの場合にはきわめて良い適合が得られ,しかも日本についてみると,これらのパラメータは,現実の歴史的変化を十分に説明していることが示された。
著者
府川 哲夫
出版者
Population Association of Japan
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.13-27, 1995-05-31 (Released:2017-09-12)

マイクロ・シミュレーションモデルの1つである「世帯情報解析モデル」INAHSIMは1981〜82年及び1984〜85年にかけて「世帯モデル研究会」によって開発された。INAHSIMは世帯,世帯員(個人),夫婦(配偶関係)の3つの情報単位で実社会の世帯を表現し,基礎率として出生率,死亡率,結婚率,離婚率,単身化率及び復帰率,世帯合併率等を用いて実社会の世帯の変動をシミュレートしている。このモデルから得られる結果は,世帯の種類別世帯数の将来推計の他に,世帯動態,高齢者の世帯状況,ファミリー・ライフサイクルに関する情報,基礎率を変化させた場合の世帯構成への影響評価,等多岐にわたっている。今回, INAHSIMに初期値作成手順の大幅な変更を加え, 1990年を起点として2040年までの50年間のシミュレーションを行った(1994年推計)。1994年推計の初期値は人口1.7万人,世帯数5.5千世帯であった。今回の推計によって,世帯調査から初期値を得られない場合にもINAHSIMによる世帯推計は可能であることが確認された。今回用いた標準基礎率に基づく推計によると,総人口は2010年頃,総世帯数は2010年代にピークを迎え,その後減少し始めるが,単独世帯及び世帯主が65歳以上の世帯の増加が顕著であった。その結果,65歳以上の単独世帯の割合は2000年には19%, 2040年には24%と増加することが見込まれた。世帯動態に関しても,これまでに得られていた結果を拡充する情報が得られた。今回の推計では基礎率の吟味は十分行えなかった。個人セグメントに健康状態の情報を付加すればINAHSIMから介護に関するデータが得られる等,モデルの発展の可能性も議論した。
著者
大谷 憲司
出版者
Population Association of Japan
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.31-43, 1992-05-30 (Released:2017-09-12)

本稿は,現代日本における未婚者の性行動,結婚前の妊娠,女子の結婚確率,結婚後の避妊,ならびに最初の妊娠の確率といわゆるlocus of controlの関係を吟味している。1987年に厚生省人口問題研究所によって行われた第9次出産力調査のデータを用いて, logistic regressionおよびproportional hazards modelにより次のような予想が確認された。(1)18-22歳の未婚女子における外因帰属者(externals)は,内因帰属者(internals)よりも性交する可能性が高い。(2)内因帰属者である未婚女子の結婚確率は外因帰属者の結婚確率よりも高い。(3)最初の妊娠が生ずる前の避妊実行確率は内因帰属者である妻の方が外因帰属者よりも低い。(2)と(3)の結果は,内因帰属(internal locus of control)がより周到な計画的行動と密接に結びついているという一般的な期待と一見矛盾するように見えるが,それを説明する試みがなされた。また,われわれの期待とは反対に,既婚女子に関する限り彼女達が結婚前に妊娠をする確率はlocus of controlと何の関係も示さなかった。さらに,第1子妊娠確率についてもlocus of controlとの関係は見いだされなかった。これらの予想と結果のギャップを生みだした要因について考察がなされた。