著者
富田 文仁 庭野 和明 子田 晃一 興地 隆史
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.608-614, 2007-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
1

エンジン用ニッケルチタンファイルの適切な操作は,ファイル破折や根管の移動などの偶発事故回避の観点からきわめて重要である.そこで本研究では,熟練者と初心者がProTaperを用いて規格湾曲根管模型を形成した際の模型への力学的作用を解析することにより,術者の操作習熟度の相違を反映するパラメーターを検索した.すなわち,70個のエポキシレジン製透明湾曲根管模型を2群(A・B群)に分け,事前に1名の術者がA群ではProTaper SX(根管中央部まで),B群ではF2(作業長まで)まで製造者指定の手順で根管形成を行った.次いで,2名の熟練者と5名の初心者が,A・B群の模型(各n=5)をそれぞれS1,F3で作業長まで根管形成を行い,その際に模型に加わる切削器兵長軸方向への垂直荷重およびそれを回転中心としたトルクを根管拡大形成操作解析装置にてリアルタイムで計測した.その後,形成中の荷重・時間積,トルク・時間積,作業時間を求めるとともに,垂直荷重およびトルクが最大値となる時間差(タイムラグ)を解析した.その結果,荷重・時間値,トルク・時間積,作業時間はいずれも熟練者が小さい値となる傾向が示されたが,初心者では術者間の相違が著しく,初心者と熟練者間の有意差は必ずしもみられなかった(一元配置分散分析およびBonferroni Dunn検定).また,熟練者では垂直荷重が最大値を示した後に最大トルクが現れ,最大トルクに先立って引き上げ操作が始まるという,おおむね一定のリズムで形成が行われたが,初心者では形成に一定のリズムがみられない場合や最大トルク出現後も荷重が加え続けられた場合がしばしば認められた.熟練者2名のタイムラグをA・B群間で比較したところ,いずれも,A群よりB群が有意に大きい値であった(p<0.01,対応のないt検定).以上より,熟練者ではファイルへの荷重に応じた引き上げのタイミングが適切かつリズミカルにコントロールされていること,および,最大垂直荷重と最大トルクのタイムラグの解析が習熟度の指標となりうることが示唆された.また,熟練者においても,F3使用時にはトルク開放の遅れによるファイル破折に注意が必要と思われた.