著者
富田 文仁 庭野 和明 子田 晃一 興地 隆史
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.608-614, 2007-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
1

エンジン用ニッケルチタンファイルの適切な操作は,ファイル破折や根管の移動などの偶発事故回避の観点からきわめて重要である.そこで本研究では,熟練者と初心者がProTaperを用いて規格湾曲根管模型を形成した際の模型への力学的作用を解析することにより,術者の操作習熟度の相違を反映するパラメーターを検索した.すなわち,70個のエポキシレジン製透明湾曲根管模型を2群(A・B群)に分け,事前に1名の術者がA群ではProTaper SX(根管中央部まで),B群ではF2(作業長まで)まで製造者指定の手順で根管形成を行った.次いで,2名の熟練者と5名の初心者が,A・B群の模型(各n=5)をそれぞれS1,F3で作業長まで根管形成を行い,その際に模型に加わる切削器兵長軸方向への垂直荷重およびそれを回転中心としたトルクを根管拡大形成操作解析装置にてリアルタイムで計測した.その後,形成中の荷重・時間積,トルク・時間積,作業時間を求めるとともに,垂直荷重およびトルクが最大値となる時間差(タイムラグ)を解析した.その結果,荷重・時間値,トルク・時間積,作業時間はいずれも熟練者が小さい値となる傾向が示されたが,初心者では術者間の相違が著しく,初心者と熟練者間の有意差は必ずしもみられなかった(一元配置分散分析およびBonferroni Dunn検定).また,熟練者では垂直荷重が最大値を示した後に最大トルクが現れ,最大トルクに先立って引き上げ操作が始まるという,おおむね一定のリズムで形成が行われたが,初心者では形成に一定のリズムがみられない場合や最大トルク出現後も荷重が加え続けられた場合がしばしば認められた.熟練者2名のタイムラグをA・B群間で比較したところ,いずれも,A群よりB群が有意に大きい値であった(p<0.01,対応のないt検定).以上より,熟練者ではファイルへの荷重に応じた引き上げのタイミングが適切かつリズミカルにコントロールされていること,および,最大垂直荷重と最大トルクのタイムラグの解析が習熟度の指標となりうることが示唆された.また,熟練者においても,F3使用時にはトルク開放の遅れによるファイル破折に注意が必要と思われた.
著者
三谷 章雄 大澤 数洋 森田 一三 林 潤一郎 伊藤 正満 匹田 雅久 佐藤 聡太 川瀬 仁史 高橋 伸行 武田 紘明 藤村 岳樹 福田 光男 稲垣 幸司 石原 裕一 黒須 康成 三輪 晃資 相野 誠 岩村 侑樹 鈴木 孝彦 外山 淳治 大野 友三 田島 伸也 別所 優 前田 初彦 野口 俊英
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.313-319, 2012-10-31

目的:欧米では,心臓血管疾患と歯周病には関連性がみられるというデータが得られているが,日本人における心臓血管疾患と歯周病の関連についてはほとんど報告がない.そこで今回われわれは,東海地方での心臓血管疾患の罹患状況と歯周病の指数を比較することで,日本人における心臓血管疾患と歯周病の関係を明らかにすることを目的とし,健診のデータを基にその関連性の検討を行った.対象と方法:2008年に豊橋ハートセンターのハートの日健診において,一般健診を受診した者でかつ歯科健診を受けた者549名についてのデータを分析対象とした.心臓血管疾患データとして,血圧,脈拍,動脈硬化・不整脈の有無,狭心症・心筋梗塞の既往の有無,手術歴を,歯周病データとして,現在歯数,Community Periodontal Index (CPI)を用いた.これらのデータを用いて,心臓血管疾患の有無と健診時点での歯周病の指数を比較し,統計分析を行った.結果:対象者の平均年齢は61.7±13.6歳であった.狭心症,心筋梗塞,手術(経皮的カテーテルインターベンション)のいずれかの既往のある者を冠動脈心疾患(coronary heart disease: CHD)群(82名:男性44名,女性38名)とし,それに該当しない者,すなわち非CHD群(467名:男性122名,女性345名)と比較検討したところ,女性ではCHD群の現在歯数が有意に少なかった.また男性では,糖尿病,BMI,中性脂肪,HDL,総コレステロールおよび年齢の因子を調整してもなお,CHD既往のあるオッズ比は,CPIコード最大値2以下の者に比べ,CPIコード最大値3以上の者が3.1倍(95%信頼区間1.2〜7.7)高かった.結論:CPIや現在歯数と,CHDの既往があることの関連性が認められ,日本人においても歯周病とCHDに相関がみられることが示唆された.
著者
小西 秀和 荒木 孝二 砂川 光宏 高瀬 浩造 加藤 熈
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.455-465, 2007-08-31
被引用文献数
11

近年,多くの医療機関において「院内感染」という病院内の安全管理に支障をきたす事態が多数発生しており,一般開業歯科診療所や病院歯科においても例外ではない.そこで本研究では,日常的な歯科臨床を実践するうえで,歯科医師会に属する歯科医師の院内感染予防対策意識の現状を明らかにすることを目的とした.山口県内の歯科医師(歯科医師会会員)744名に対して,感染予防対策に関するアンケート調査を実施したが,その設問内容は,対象とした歯科医師の年齢層,日常的な歯科臨床での感染予防対策などの12項目とした.回収したアンケートを集計し,Spearman ρ相関分析にて統計学的分析を行って,各設問回答間の相関程度など歯科医師の感染予防対策意識の現状を検索した結果,次のことが明らかとなった.1. 感染予防対策のアンケート回収率は24.2%であった.代表的な設問での最高の回答率の選択肢を列挙すると,ユニバーサル(スタンダード)プリコーションの認知度は「全く知らない」(43%),帽子やプラスチックエプロンなどの着用は「ほとんど着用しない」(62%)など,本調査時点で多くの歯科医師が万全な感染予防対策を実践していない可能性が考えられた.2. しかし,手洗いの方法は「日常手洗いと衛生的手洗い」(61%),ウイルス性肝炎患者の歯科診療は「診療を行っている」(95%)など,感染予防対策の重要性を認識している歯科医師は比較的多いと思われた.3. 相関分析の結果,歯科医師の年齢が若いほど,帽子やブラスチックエプロンなどの着用には消極的であるが,グローブの着用交換,ウイルス性肝炎患者の歯科診療を積極的に行っている可能性が高いこと,またユニバーサル(スタンダード)プリコーションの認知度が高いほど,グローブの着用交換,帽子やプラスチックエプロンなどの着用,エイズ・結核患者来院時の対応,診療時の飛沫粉塵対策を積極的に行っている可能性が高いことが,有意に示された.以上の結果から,改正感染症法の施行に伴い,今後歯科医師へ院内感染予防対策の啓蒙や研修の機会を増やし,国際歯科連盟(FDI)の声明や米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドラインなどに示された具体的な感染予防対策の普及促進が実現すれば,各自の歯科診療室を衛生的で快適な診療環境に整備できると考えられる.
著者
村田 幸枝 松田 康裕 田中 享 小松 久憲 佐野 英彦
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.799-807, 2007-12-31
参考文献数
25
被引用文献数
2

再石灰化効果をもつ数種類のガムが,特定保健用食品として認められている.本研究の目的は,特定保健用食品の指定を受けているガム3種(添加物としてFN-CP:フノリ抽出物と第二リン酸カルシウム,POs-Ca:リン酸化オリゴ糖カルシウムおよびCPP-ACP:カゼインホスホペプチド-非結晶性リン酸カルシウム複合体を配合)の再石灰化パターンを比較検討することである.ヒト健全第三大臼歯のエナメル質を0.01mol/l酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.0)で50℃,2日間脱灰し,実験的に初期齲蝕を作製した.この脱灰エナメル質試料を,ガム群は再石灰化溶液を用いた各ガムの抽出液に,コントロール群は再石灰化溶液のみに,37℃,2週間浸漬し再石灰化処理を行った.再石灰化処理を行った試料から作製された研磨試料をTMR(transverse microradiography)撮影し,ミネラルプロファイルを作成した.その後,新たに開発されたプログラムを用いて9項目のパラメーターを算出し,再石灰化の促進効果について比較検討した.3種類のガムでΔΔZが有意に増加していたことから,すべてのガムで再石灰化を促進させる効果があることが認められた.FN-CPはΔLd,ΔLBd,ΔLB,ΔSZ,ΔOSZ,ΔSA,ΔILB,ΔΔZの8つのパラメーターで有意差を認め,初期齲蝕病変の深層を主体として病変全体の再石灰化を促進することが認められた.POs-CaではΔLB,ΔILB,ΔΔZの3つのパラメーターで有意差を認め,深層での再石灰化を促進することが認められた.CPP-ACPではΔLB,ΔSZ,ΔSA,ΔILB,ΔΔZの5つのパラメーターで有意差を認め,中間層と深層の再石灰化を促進することが認められた.以上のことからすべてのガムで再石灰化を促進する効果があるが,その再石灰化パターンには違いがあることが明らかとなった.さらに,FN-CPが初期齲蝕の再石灰化に最も有用であることが示唆された.
著者
礪波 健一 田村 友寛 高橋 英和 荒木 孝二
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.320-327, 2012-10-31

目的:近年,審美歯科へのニーズの高まりから,歯の漂白が歯科臨床で行われる機会が増えている.一方,漂白作用の本質を担う活性酸素の作用は非特異的であるため,象牙質の機械的特性にも影響を与えることがわかっている.本研究では,漂白処理後の歯の象牙質の引張強さについてワイブル分析を行い,処理面や処理回数といった条件の違いが象牙質の破壊原因の違いに及ぼす影響について検討した.材料と方法:牛切歯の歯冠唇面を薄切し,象牙質に漂白処理面を形成した.同面に漂白処理として,ハロゲンランプ照射下で30%過酸化水素水を15分作用させた.漂白処理回数は1回もしくは3回とした.漂白処理した牛切歯の歯冠唇側表面からの深さ2.5〜3.5mmの象牙質よりダンベル型の象牙質引張試験片を作成し,象牙質引張試験を行った.各条件ともn=10とし,引張強さの平均をその条件の引張強さとした.上記象牙質処理の2条件に加え,既報(J Med Dent Sci 2008; 55: 175-180)で得られたエナメル質処理2条件および,コントロールの引張強さを用いて,統計処理とワイブル分析を行った.ワイブル分析では,各条件のワイブルプロットについて,回帰直線の傾きとして得られるワイブル係数を求め比較した.成績:象牙質引張強さは,漂白処理回数が増えるほど低下する傾向を示したが,エナメル質処理,象牙質処理で象牙質引張強さに違いは認められなかった.一方,ワイブル分析ではエナメル質処理,象牙質処理でワイブルプロットに違いを認めた.すなわち,象牙質処理群では処理回数の増加に従い,ワイブルプロットが全体的に低強度側に移動したのに対し,エナメル質処理群では,漂白処理により強度の順位が高い試片の強度が下がる傾向を示した.象牙質処理では活性酸素の影響がほかの欠陥を凌駕して単一の破壊原因となる一方,エナメル質処理では活性酸素の影響が既存の欠陥と競合する形で破壊原因の一つに加わったことが,ワイブルプロットの違いとなったことが考えられる.ワイブル係数はエナメル処理群において処理回数とともに増加したことから,信頼性の点からはエナメル質処理のほうが象牙質強度に与える漂白処理のリスクが少ないことが考えられた.結論:以上の結果より,漂白歯の象牙質引張強さは漂白処理回数や,処理面に影響を受けるため,臨床において象牙質強度に配慮した漂白処置が必要であることが示唆された.
著者
菅 俊行 石川 邦夫 松尾 敬志 恵比須 繁之
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.313-320, 2007-06-30
被引用文献数
5

フッ化ジアンミン銀(サホライド^[○!R])は,齲蝕進行抑制剤および象牙質知覚過敏症治療剤として臨床で使用されている.しかしながら,フッ化ジアンミン銀は塗布後に銀の沈着による歯の黒変が起こる.したがって,フッ化ジアンミン銀は主に乳歯に使用されている.この欠点を改良するために,フッ化ジアミンシリケートを調製した.銀の代わりにシリカを導入した理由は,シリカは歯質の変色を起こさないこと,そして擬似体液からアパタイトの生成を誘導するからである.本研究の目的はヒト口腔内を模倣した環境下において,フッ化ジアミンシリケート処理後の象牙細管封鎖効果と持続性を評価することである.フッ化ジアミンシリケートの象牙細管封鎖効果は,ヒト抜去歯を用いて評価を行った.フッ化ジアミンシリケート処理直後および人工唾液浸漬7日後の象牙質プレートの表面を,走査電子顕微鏡(SEM)にて観察を行った.SEM観察の結果,開口象牙細管はフッ化ジアミンシリケート処理直後にはシリカ-リン酸カルシウム結晶により完全に封鎖されていた.さらに,人工唾液浸漬7日後には象牙質表面は新たに生成した結晶により覆われていた.EDXA分析によると,フッ化ジアミンシリケート処理直後に象牙細管内に析出した結晶はシリカ,カルシウム,リンを含有しており,シリカ-リン酸カルシウム結晶であることが明らかとなった.その結晶のカルシウムとリンのモル比はフッ化ジアミンシリケート処理直後には2.02であったが,人工唾液浸漬後には徐々に減少した.一方,象牙質表面に新たに生成した結晶は実験期間を通して,ほぼ一定の値(Ca/P=1.16〜1.28)であった.周囲の管間象牙質と比べて有意に低い値であることから,おそらくカルシウム欠損アパタイトが析出していると推察された.フッ化ジアミンシリケート処理は人工唾液中からリン酸カルシウムの析出を誘導し,したがって,ヒト口腔内を模倣した環境下において,持続的な象牙細管封鎖能を有することが明らかとなった.
著者
川崎 孝一
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.854-866, 2006-12-31
被引用文献数
5

Some endodontists maintain that periapical cysts do not heal following conservative endodontic therapy, and the mechanism by which periapical cysts can heal is not well understood. The purpose of the present study was to suggest a new rationale for the nonsurgical endodontic treatment of periapical cysts. To induce subepithelial hemorrhage and dissolution of the epithelial lining of the cyst wall, application of canal irrigant was carefully performed with 6% sodium hypochlorite (Purelox^[○!R]) followed by 3% hydrogen peroxide alternately into the canal. The effectiveness of the solubility of the tissue was estimated by macroscopic bleeding. The patients were a 51-year-old man and a 35-year-old man who had respectively a large periapical rarefaction over the area of the lower or the upper lateral and central incisors. The latter patient had nasal-apical communication associated with the involved tooth, and presented swelling and discomfort from the upper left lateral incisor which was accompanied in the left nostril. The diagnosis was made of inadequate root canal fillings with periapical rarefaction and the presence of epithelial cells by means of the periapical biopsy and cholesterol crystals from the periapical lesions. FR paste material containing guaiacol-folmaldehyde resin and calcium hydroxide was estimated to occupy 1 to 2 mm of the apical root canal space. The remaining canal was filled with gutta-percha cones and zinc oxide eugenol sealers (Canals^[○!R]) by lateral condensation. Radiographs of these cases demonstrated the gradual resolution of the large lesions over a period of nearly 5 to 7 years after root canal filling. This article describes the successful root canal treatment and decompression by using opened canal therapy releasing copious amounts of suppurative exudates for 6 months. The rationale behind the usefulness of this technique is reviewed and its advantages are highlighted.
著者
寺沼 浩 村井 宏隆
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.81-93, 2009-02-28
被引用文献数
1

近年,コンポジットレジンの接着性の向上や患者の審美的要求の高まり,Minimal Intervention(MI)の概念などから,コンポジットレジンを用いた審美修復が多用されるようになってきている.より高度な審美修復を行うための一つとして,周囲の色がコンポジットレジンに与える影響を考慮した色調選択が重要であると思われる.審美的要求の高まりから充填に使用されるコンポジットレジンも,積層して使用するものやカメレオン効果により,より天然歯の色調に近い修復が可能になった.しかし,実際に色調を調和させるためには,さまざまな条件を踏まえたシェードの選択や形態の回復が必要であり,熟練が要求される.そこで今回,コンポジットレジンの色調に有彩色が与える影響について実験を行った.本実験には,コンポジットレジンとしてエステライトΣ(トクヤマデンタル),ビューティフィルII(松風),フィルテック_<TM>シュープリームDL(3M ESPE,USA),テトリックセラム(Ivoclar Vivadent,Liechtenstein)のA3色,背景として標準白色板と黒色板,低発泡塩化ビニル板(アクリサンデー)の白,黒,黄,赤,青,緑を使用した.直径8mm,高さ1mmの円盤状試料を作製し,各背景の上に載せ,分光測色器Spectra Scan PR650(Photo research,USA)において,色の測定を行った.算出したコンポジットレジンの色調から背景のL^*値は,黒,赤,青,緑,黄,白の順に高くなり,a^*値は,赤で最大,緑で最小,b^*値は,黄で最大,青で最小であった.標準白色板と各背景との色差ΔE^*abは,白,緑,青,黄,赤,黒の順に高くなった.各コンポジットレジンにおいて,標準白色板上で測定した色調をコントロールとして各背景上で測定した色調から色差ΔE^*abを比較すると,4種類のコンポジットレジンともに,白,黄,赤,緑,黒,青の順に高くなった.背景の色差と異なる色の背景上におけるコンポジットレジンの色差に差を認めることから,背景の明度だけでなく彩度もコンポジットレジンの色調に影響を与えること,また色差からコンポジットレジンは,特に背景の赤あるいは緑色系の影響を受けにくいことが示唆された.
著者
岩谷 いずみ 向井 義晴 冨永 貴俊 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 = THE JAPANESE JOURNAL OF CONSERVATIVE DENTISTRY (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.818-825, 2007-12-31
参考文献数
23
被引用文献数
3

一般的に,フッ化物徐放性修復材料は,非徐放性修復材料に比較し歯質周囲の脱灰抑制のみならず,窩洞形成時に取り残した脱灰部位の再石灰化も促すといわれている.しかし,再石灰化が歯面を取り巻く環境によってどのように誘導されるかということは知られていない.この研究の目的は,in vitroにおいて,pHと粧性の異なる口腔の条件をシミュレートした液相でこの物性を評価することである.Baselineを作製するため,ウシ象牙質のシングルセクションを,37℃,pH 5.0の酢酸ゲルシステム中に5日間浸漬した.グラスアイオノマーセメント(GIC)およびコンポジットレジン(CR)をアクリルブロックの人工窩洞内に填塞し,脱灰された象牙質のシングルセクションを材料から1mm離れた溝に挿入した.これらのブロックは,以下の4つの再石灰化環境中に37℃で4週間保管された.Group 1:pH 7.0溶液群(Ca/PO_4:1.5/0.9),Group 2:pH 7.0 2層法群(ゲルとpH 7.0の溶液),Group 3:pH 6.5 2層法群(ゲルとpH 6.5の溶液),Group 4:pH 6.0 2層法群(ゲルとpH6.0の溶液).また,Transversal Microradiographyは再石灰化の前後で撮影し,平均的なミネラル喪失量(ΔZ)の差はΔZaとして算出した.収集したデータは,one-way ANOVA とDuncan's multiple range test を用いて統計学的分析を行った.Group 1:再石灰化はGICとCRともに示したが,ΔZaの有意差は認められなかった.Group 2:再石灰化はGICとCRともに示されたが,CRはGICほど著明ではなかった.Group 3:CR と比較して,GICは"過石灰化"を伴う顕著な再石灰化を示し,ΔZaはCRより有意に高かった(p<0.05).Group 4:ΔZaは両材料とも,脱灰を示すマイナスの値になったが,GICはCRより小さかった(p<0.05).結論として,この研究からpHと粘性のわずかな差は再石灰化に影響すること,また,pH 6.5ゲルすなわち,歯の表面状態のプラーク蓄積によるわずかに酸性状態をシミュレートしたような状態では,代表的なフッ化物徐放性填塞材であるGICは,辺縁の表層下病巣に顕著な再石灰化を誘導することが示された.
著者
烏帽子田 敬 勝海 一郎
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.570-581, 2007-10-31
被引用文献数
4

この研究の目的は,エンジン用器具で拡大形成を行ったことを前提にしたテーパーが6/100の樹脂製直線根管模型に,材質,サイズが異なる各種のスプレダーを用い側方加圧充填法による根管充填を行い,ガッタパーチャポイントの圧接状態を評価するとともに,評価方法を比較検討することにある.すなわち1種のステンレススチール製スプレダーDentalEZのStar Dental D11T(S-D11T)と6種のニッケルチタン製スプレダー〔RoekoのNiTi#15(R-15)とNiTi #25(R-25), NiTi #35(R-35)およびNiTi D11T(R-D11T),BrasselerのNaviflex NT D11T(B-D11T)とNaviflex NT 4SP(B-4SP)〕を用い,側方加圧充填法による根管充填を同一スプレダーごとに模型3個ずつ行った.圧接状態の評価は,根尖側6mmの根管壁面に残存する厚さ5μm以下のシーラーの占める割合(GP圧接率),マイクロフォーカスX線CT装置により撮影した根尖から1,2,3,4,5,6mmの全断層面におけるガッタパーチャポイントの占める割合の平均(GP/CT充塞率),根尖から1,2,3,4,5,6mmの全根管切断面におけるガッタパーチャポイントの占める割合の平均(GP総充塞率),各切断位置ごとのガッタパーチャポイントの占める割合の平均(GP位置充塞率)を求め評価するとともに,評価方法の比較検討を行うことにより以下の結論を得た.残存シーラーによるGP圧接率は,B-D11Tが92.1%と最も高く,次いでR-D11T,S-D11T,R-15とR-25,R-35の順で,B-4SPは57.9%と最も低い値を示した.マイクロフォーカスX線CT装置によるGP/CT充塞率は,S-D11Tが96.6%と最も高く,次いでB-D11T,R-D11T,R-25,R-35,R-15の順で,B-4SPは88.9%と最も低い値を示した.根管切断面によるGP総充塞率は, S-D11Tが97.9%と最も高く,次いでB-D11T,R-D11T,R-25,B-4SP,R-15の順で,R-35は90.4%と最も低い値を示した.根管切断面の切断位置によるGP位置充塞率は,S-D11Tが各切断位置で96.9%以上の高い値を示したが,B-D11TはS-D11Tよりも根管先端部での圧接がやや劣り,またR-D11T,R-25,R-15,B-4SP,R-35の順に,根管中ほどで充塞率が低下する現象がみられた.以上の結果より,S-D11T,R-D11T,B-D11Tは良好にガッタパーチャポイントの圧接を行うことができたが,R-35,B-4SPでは十分に圧接を行えないことがわかった.またマイクロフォーカスX線CT装置によるGP/CT充塞率と切断面によるGP総充塞率の評価法については,両者に統計学的な有意差は認められず,マイクロフォーカスX線CT装置による評価の信頼性,有用性が確認できた.
著者
小澤 寿子 中野 雅子 新井 高 前田 伸子 斎藤 一郎
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.363-369, 2009-08-31
被引用文献数
3

歯科ユニット給水系(DUWS)からタービンやシリンジなどを介して流出する水は,多くの微生物に汚染され,水回路チューブ内表面に形成されたバイオフィルムにより,多くの細菌数が検出されることが報告されている.米国においては歯科ユニット給水系の水質基準として,Centers for Disease Control and Preventionが500CFU/ml以下を推奨し,American Dental Associationでは200CFU/ml以下を基準としている.しかしながら,日本では水質基準は提示されていない.われわれは,2003年に鶴見大学歯学部附属病院内の17台の歯科用ユニット水について微生物による汚染状況調査を行った.さらにDUWS用洗浄剤の選択,洗浄剤の安全性確認,洗浄消毒方法を検討した.次いで,「ショックトリートメント」(DUWSチューブ内のバイオフィルムを除去する化学的洗浄方法)を2004年より実践した.このショックトリートメントとは,診療終了後にDUWS用洗浄液をDUWS内に流入し,洗浄液を満たして一晩放置する.翌日診療開始前に洗浄液を通常のフラッシングの要領で排出する.これを連続して3日間繰り返し行う.ショックトリートメント実施前には,フィルターや逆流防止装置などの設置の有無にかかわらず,全ユニットから2.4×10^2〜6.1×10^4CFU/mlの微生物が検出された.またフラッシングにより汚染度は減少したが,フラッシング後もなお汚染が確認されたユニットもあった.ショックトリートメントを実施した後に同様な微生物による汚染状況調査を行った結果では,DUWSの水の汚染は著しく改善していた.しかしながら,DUWS水回路流入元へのコックの取付けや流入装置の準備,詰まりや水漏れに対する対策が必要であった.また定期的に洗浄消毒を繰り返す必要があることがわかったため,現在も引き続きショックトリートメントを実施中である.
著者
京泉 秀明 山田 純嗣 鈴木 敏光 久光 久
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.259-268, 2011-08-31
被引用文献数
1

フロアブルレジンは材料学的な改良に伴い,物理的性質が向上し,操作性も良くなっている.そしてさらに審美性や強度などの向上を目的として,フィラーのサイズをナノレベルにしたフロアブルレジンや,ナノハイブリッドタイプのフロアブルレジンが相次いで開発,市販されてきている.そこで本研究では,ナノフィラーが混入されているフロアブルレジンを含めた各種フロアブルレジンの歯ブラシ摩耗性について検討することを目的とした.また併せて,表面硬さ,表面粗さ,フィラーの含有量と歯ブラシ摩耗との関連性についても検討を加えた.9種類のフロアブルレジンおよび1種類のペーストタイプのコンポジットレジンを実験に使用した.歯ブラシ摩耗試験は炭酸カルシウム飽和水溶液を使用し,繰り返し回数は5万回とした.1万回ごとに表面粗さ輪郭形状測定機にて摩耗面の最大深さを計測し,歯ブラシ摩耗量とした.表面硬さは#1000シリコンカーバイドペーパーの研磨面においてビッカース硬さを測定した.表面粗さは研磨面および摩耗面において測定し,Raを用いて評価した.表面性状の観察は,摩耗試験後にSEMを使用して行った.その結果,使用したすべての材料で摩耗回数とともに摩耗深さが直線的に増加していく傾向を示した.5万回後の歯ブラシ摩耗量に関しては,9種類のフロアブルレジンのなかでテトリックN-フローが最大の摩耗深さを示し,続いてパルフィークエステライトLVハイブローが大きな深さを示した.逆に最小の摩耗深さを示したのはクリアフィル^[○!R]マジェスティ^[○!R]LVで,続いてフィルテック_<TM>シュープリームフローコンポジットレジンであった.また,歯ブラシ摩耗量と表面硬さ,摩耗試験前の表面粗さおよび製造者公表のフィラー含有量との間に密接な関係は認められないが,摩耗量が少ない材料では摩耗後の表面粗さが大きいことが判明した.SEM観察からも,フィラーあるいはナノクラスターが大きい材料ほど摩耗量は少ない傾向が認められた.
著者
岩谷 いずみ 向井 義晴 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-11, 2009-02-28
被引用文献数
7

エナメル質に対して高濃度の過酸化水素水を用いて多数回の漂白処理を施した場合,表層が脱灰されると報告されている.しかし,実際の口腔内においてエナメル質は漂白処理以外の期間は常に唾液に覆われており,漂白による脱灰は唾液中のミネラル成分により修復される可能性も考えられる.本研究では多数回の漂白が与える影響についてウシエナメル質を用いて,漂白処理以外の時間は脱イオン水(DW)に浸漬した(Hw)群と,唾液をシミュレートした再石灰化溶液に浸漬した(Hr)群を設け比較した.漂白には,35%過酸化水素水を主成分とするHiLite(松風)を用い,1週間を1クールとして12クール行った.脱灰様相はTransversal Microradiographyによるミネラル喪失量(IML),および超微小押し込み硬さにより比較した.また,漂白後の再石灰化処理がエナメル質結晶の構成に与える影響について顕微ラマン分光分析を用い,漂白面,および非漂白面の表面および断面10〜300μmにおける炭酸基とリン酸基の変化を測定した.なお,漂白効果の有無は色彩色差計を用いて判定した.Hw群には,エナメル質表面から10μmの位置にミネラル密度が約60vol%の表層下病巣が形成され,12週間再石灰化液に連続して浸漬したコントロール(C)群に比較し,IMLは有意に大きな値であった.Hr群はC群と同様,脱灰,ならびに硬さの低下は示さなかった.各群に耐酸性試験(D)を行ったCD,HwD,およびHrD群すべてに表層下病巣が形成されたが,IMLは全群間で差はなかった.Hr群の表面の顕微ラマン分光分析の結果,漂白面は非漂白面に比較しリン酸基の強度が上昇していた.12クールという多数回の漂白処理においても,口腔内をシミュレートした再石灰化環境に置かれたエナメル質では,漂白により無機質が溶出した後も,周囲環境中の無機質イオンがエナメル質中に取り込まれる可能性が示唆された.また,最表層部では,その後の耐酸性に影響を与えるほどの変化ではないものの,炭酸基が減少し,リン酸基の含有量が多い安定したアパタイトが沈着する再石灰化が生じていることが確認された.
著者
両角 祐子 佐藤 聡 佐藤 治美 原田 志保 宮崎 晶子 小倉 英夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.23-31, 2007-02-28
被引用文献数
3

プラークコントロールは歯周病の予防,治療において最も重要である.本研究では,親指ストッパーを設けた現行型の歯ブラシのヘッドと柄に改良を加えた歯ブラシを作製し,現行型との比較を刷毛のこわさおよび柄の強度で行うとともに,プラーク除去効果に及ぼす影響についても比較検討を行った.また,対照に市販歯ブラシを用い,歯ブラシの種類によるプラーク除去効果および使用感についても比較検討を行った.その結果,以下の結論を得た.1. 刷毛のこわさは2.14〜2.39N/cm^2であった.歯ブラシ柄の衝撃試験ではすべての歯ブラシに破断は認められなかった.2. 歯ブラシの刷毛のこわさおよび柄の柔軟性の違いによるプラーク除去率に有意な差は認められなかった.3. 全顎のプラーク除去率は,改良型歯ブラシが最も高い値を示した.部位別のプラーク除去率では,親指ストッパーを設けた改良型,現行型ともに臼歯部において高い除去率を示した.特に,改良型歯ブラシでは,隣接面,舌側,下顎臼歯において高い除去率を示した.4. アンケート調査の結果では,改良型歯ブラシが全体的に高い得点を示した.親指ストッパーを設けた歯ブラシでは,奥歯の磨きやすさで高い値を示した.以上の結果から,ブラッシングの困難な臼歯部では,グリップに2種類の親指ストッパーを設けることにより,ブラッシング圧を含めた歯ブラシの操作性が向上し,プラーク除去率が高くなることが示唆された.また,改良型では柄に柔軟性をもたせたことにより,より臼歯,舌偏,隣接面へのブラシの到達が可能になったと考えられる.
著者
波部 剛 高森 一乗
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.256-265, 2008-06-30
被引用文献数
2

近年,歯科治療において,審美的,理工学的などの用件より接着技術が頻用されている.口腔を対象とする歯科臨床において,接着の阻害因子である湿度のコントロールが重要である事実を,In vitroの多くの研究,すなわちその上昇により接着強さが低下するという結果が明らかにしている.しかし,口腔の湿度分布やその防湿効果に関する研究は少なく,その詳細は不明である.今回われわれは,今後主流を占めるであろう接着臨床に必要となる基礎データを,口腔の環境面からのアプローチとして,口腔内の温・湿度に着目し,その分布とエア・ブロー,サクション,ラバーダム防湿による変化を検討した.事前に本研究の主旨を説明し同意が得られた,顎口腔機能に異常を認めない成人10名,平均年齢31±4歳(男性5名,女性5名)を対象に行った.なお本研究は,明海大学倫理委員会承認番号A0607に則って行った.測定装置として温・湿度センサ(THP-B4T,神栄)を用い,温湿度変換器(THT-B121,神栄)を用いて,データ記録装置(midi Logger GL200,グラフテック)にデータを記録した.PC上で解析ソフト(midi Logger Software,グラフテック)を用いて検討した.実験1 口腔内温・湿度分布上顎前歯ならびに臼歯の唇(頬),口蓋側にそれぞれ湿度センサを配置し,その温・湿度が安定するのを待って測定を行った.実験2 エア・ブロー,サクションによる温・湿度の変化上顎第一大臼歯頬側部にセンサを配置し,エア・ブロー,サクションをそれぞれ5,10秒行い,処置前後の温・湿度の変化を経時的に観察した.また同部にラバーダム防湿を行い,その変化も測定した.口腔の湿度においては,後方にいくほどその湿度の上昇が観察され,温度も上昇が観察された.相対湿度ならびに絶対湿度の測定においていくつかの差異が認められた.各防湿法の比較においては,エア・ブローならびにサクションにおいて,温・湿度の低下が観察されたが,その影響は一時的なものであり,それぞれを中止すると,ただちに温・湿度の上昇が観察された.ラバーダム防湿においては,防湿後の温度の変化はほとんど観察されないが,有意な湿度の低下が観察され,その効果は持続的で安定していた.部位的な差異同様,相対湿度と絶対湿度においていくつかの差異がみられた.以上の結果より,口腔内の温・湿度の分布に差があること,持続的な防湿効果はラバーダム防湿のみに観察されること,エア・ブロー,サクションにより温度が大きく変化することにより,相対湿度ではなく絶対湿度が湿度の指標として適切であることが明らかとなった.
著者
米田 雅裕 泉 利雄 鈴木 奈央 内藤 徹 山田 和彦 岡田 一三 岩元 知之 桝尾 陽介 小島 寛 阿南 壽 廣藤 卓雄
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.168-175, 2009-04-30
参考文献数
24
被引用文献数
2

歯科医療では観血処置の頻度が高く,注射針や鋭利な器具の使用により針刺し・切創の危険もある.血液媒介感染の危険のある針刺し・切創等を効果的に防止するためには,施設における現状把握とその対策の評価を行う必要がある.今回,福岡歯科大学医科歯科総合病院の感染制御チーム(ICT)が中心となって,本院の針刺し・切創等の事故状況を分析し,さらに改善策を検討してその効果を確認した.平成14年から平成19年に本院で提出された感染事故報告書を基に集計を行った.6年間で計80件の針刺し・切創が報告され,月別では11月,曜日別では火曜日,時間帯では午前11時台に多く発生していることが明らかになった.事故に関連した器材では注射針が最も多く,縫合針,スケーラーチップ・バー類がこれに続いた.受傷者の職種別割合では医師・歯科医師が最も多く,臨床実習に参加している短期大学学生,歯学部学生がこれに続いた.事故時の作業内容では片づけ中が最も多かったが,これは実習生が片づけに参加していることも原因の一つだと考えられる.これらの現状を踏まえ,本学では医療安全に関するマニュアルの整備を行い,針刺し・切創防止のための講義や講演会を実施している.さらに平成17年からは注射針の取り扱いを職員に限定し,実習生の注射針の取り扱いを禁止した.その結果,平成18年から平成19年にかけて針刺し・切創が減少し,特に短期大学学生による事故が減少した.一方,事故が発生しても未報告のケースもあると考えられるので,今後は,事故が発生したときには迅速な報告を促す必要があると思われる.また,ヒューマンエラーはゼロにできないことから安全装置の開発や導入も必要であると考えられる.
著者
高松 秀行 片桐 さやか 長澤 敏行 小林 宏明 小柳 達郎 鈴木 允文 谷口 陽一 南原 弘美 早雲 彩絵 和泉 雄一
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.31-39, 2013-02-28

目的:慢性歯周炎はインスリン抵抗性を亢進させることにより,2型糖尿病患者の血糖コントロールを悪化させると考えられている.高感度C反応性タンパク(hs-CRP), tumor necrosis factor-α (TNF-α), interleukin-6 (IL-6),また,アディポネクチン,レプチン,レジスチンのようなアディポカインなどのさまざまなメディエーターの増加や減少は,インスリン抵抗性に関与すると考えられている.本研究の目的は,歯周炎に罹患した2型糖尿病患者における,歯周治療による血糖コントロールおよび血清中のメディエーターへの影響を調べることである.対象と方法:歯周炎を伴う2型糖尿病患者41名に,抗菌薬の局所投与を併用した歯周治療を行った.ベースライン時と歯周治療2,6カ月後に,歯周組織検査として,プロービング深さ(PPD),プロービング時の出血(BOP)を測定し,また採血を行って糖化ヘモグロビン(HbA1c), hs-CRP, TNF-α, IL-6,アディポネクチン,レプチン,レジスチンを測定した.結果:全被験者において,PPDとBOPは有意に減少したがHbA1cおよび血清中のメディエーターには有意な変化は認められなかった.次に,6カ月後のBOPの改善率が50%以上の群(BOP-D群)とBOPの改善率が50%未満の群(BOP-ND群)に分けて解析を行ったところ,BOP-D群ではPPD, BOP, HbA1cが有意に減少しており,血清中のアディポネクチンは有意に増加していた.一方,BOP-ND群においては,PPDとBOPの有意な減少が認められたが,HbA1cや血清中のメディエーターには有意な変化は認められなかった.さらにBOP-D群においては,BOPとレジスチンの6カ月間の変化量の間に有意な正の相関(p=0.03, ρ=0.49)が認められた.結論:歯周炎に罹患した2型糖尿病患者において,歯周組織の炎症が顕著に改善した被験者では,血清アディポネクチンの増加およびHbA1cの減少が認められた.またBOPの減少に伴ってレジスチンも減少することが示された.歯周炎に罹患した2型糖尿病患者に対してBOPの改善率が50%以上と表されるように大きく炎症が減少することにより,インスリン抵抗性が改善し,血糖コントロールが安定する可能性が示された.
著者
海老沢 政人 大島 朋子 長野 孝俊 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.386-394, 2007-06-30

現在,歯周組織再生療法の一つにエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を利用した方法がある.EMDを含むEmdogain^[○!R]-Gel(Emd^[○!R]-Gel)を用いた処置は,通法の歯周外科処置と比較して術後の治癒が良好であり,炎症反応の抑制が知られている.その理由の一つに,EMDが抗菌作用を有することが考えられているが,先行研究において一定した評価は得られていない.この理由として,EMDはアメロゲニン(AMEL),エナメリン,シースリンといった複数のタンパク質やタンパク質分解酵素を含む粗精製物であることが考えられる.このうち,AMELは最も豊富な構成物質で,EMDの約90%以上を占め,さまざまな分子量のAMELが会合して存在している.本研究の目的は,EMDの主要成分であるAMELの口腔内微生物に対する抗菌効果を評価することである.EMDは,ブタ下顎骨の幼若ブタ歯胚エナメル質から抽出し,Sephadex G-100を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより精製された25kDaとその誘導体である20kDa,13kDa,6kDa AMELを用い, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Candida albicansに対する抗菌効果を判定した,また,Emd^[○!R]-Gel,PGA,BSA,histatin 5との効果の比較を行った.Emd^[○!R]-Gelはすべての菌に抗菌効果を示し,Emd^[○!R]-Gelの溶媒であるPGAは歯周病関連細菌に強い抗菌作用を示したが,C. albicanには効果を示さなかった.250μg/ml濃度の25kDa,20kDa,6kDa AMELはP. gingivalisに対して抗菌効果を示したがその効果は低かった,P. intermediaおよびA. actinomycetemcomitansに対して,AMELは抗菌作用を示さなかった.したがって,Emd^[○!R]-Gelの歯周病関連細菌に対する抗菌効果はPGAがその主体であることが示唆された.一方,C. albicansに対してすべてのAMEL画分は,濃度依存的に強い抗菌効果を示した.したがって,Emd^[○!R]-GelのC. albicansに対する抗菌効果はAMELによるが,EMDにはAMEL以外にエナメリンやシースリンといったタンパクが含まれるため,これらの非AMELタンパクが抗菌作用を有する可能性も考えられる.今後,EMDに含まれるAMELおよび非AMELタンパクの特性の解明は,抗菌ペプチドの開発や臨床応用の可能性を検索するうえできわめて重要であると考える.
著者
木村 裕一 田辺 理彦 山崎 信夫 天野 義和 木下 潤一朗 山田 嘉重 増田 宜子 松本 光吉
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.12-20, 2009-02-28

現在,歯根破折の診断において視診を確実にする目的で,ヨード,メチレンブルー,齲蝕検知液などの染色液や電気抵抗値の測定,透過光線試験(透照診),根管内視鏡,実体顕微鏡,バイトテスト,超音波診断法などを併用した報告がなされている.しかしながら,これらの方法は不完全破折や亀裂の場合には客観的ではなく,不正確になりやすいことから,診断にあまり頻繁には使用されていない.本研究の目的は,齲蝕診断に有用なDIAGNOdent^[○!R]を用いて歯根破折の診断への応用の可能性を探ることである.まず,基礎的な研究として破折のないヒト抜去歯根がメチレンブルーによる染色時間と濃度でどの程度のDIAGNOdent^[○!R]値(以後,D値と略す)を示すかを調べた.次に歯根面に切削器具による人工的な溝を作製し,染色液の有無での幅または深さとD値との関係を調べた.そのほかに歯根に圧力をかけて不完全破折を起こし,D値との関係を染色の有無で調べた.さらに,破折部への浸透性を高めるため染色液に含有するエタノール濃度とD値との関係を調べた.統計学的方法は,Mann-Whitney U検定により危険率1%で有意差を検定した.染色時間とD値との関係は5分後までは徐々に増加したが,それ以降はほとんど変化がなかった.濃度との関係では濃度依存的にD値が増加し,10^<-4>%と1%ではD値に有意差があった.染色液の使用,人工的な溝の幅における増大,または溝の深さの増大に呼応してD値は有意に増加した.歯根破折前後を比較した実験では,染色液の有無にかかわらず有意にD値が増加していた.また染色液にエタノールを20%または40%含有させると,有意にD値が増加した.これらの結果より,臨床応用するには染色液とエタノールの口腔内組織への影響などに関してさらなる研究が必要であるが,染色液を併用することでDIAGNOdent^[○!R]により歯根破折の診断がより正確にできる可能性が示唆された.
著者
織田 洋武 坪川 瑞樹 玉澤 賢 堀内 健次 鴨井 久博 中島 茂 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.384-392, 2011-12-31

銀は一般家庭において除菌,抗菌,脱臭などの目的で高頻度に使用されている.銀コロイド溶液は,銀を電気分解して精製される無色透明の溶液であり,銀イオンよりも安定した状態で殺菌力をもつことで注目されている.また,銀コロイドは,特殊イオン交換体の相乗作用により殺菌,抗菌,脱臭の効果が増強することが報告され,食品の消毒や医療分野への転用が期待されている.本研究は銀コロイド溶液の口腔内病原細菌に対する殺菌効果,ならびにヒト歯肉および歯根膜より分離培養した線維芽細胞への影響についてin vitroにて検証した.殺菌試験は,Streptococcus mutans (ATCC25175), Aggregatibacter actinomycetemcomitans (ATCC29522), Poyphyromonas gingivalis (W83, ATCC33277), Prevotella intermedia (ATCC25611), Fusobacterium nucleatum (ATCC25586)の6菌種を使用した.各細菌を洗浄後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)にて1分間処理した.その後希釈し,寒天培地に塗抹後A. actinomycetemcomitans, S. mutansは48時間, P. gingivalis, P. intermedia, F. nucleatumは72時間培養を行い,評価はColony Forming Units (CFU)で行った.細胞毒性試験は,ヒト歯肉線維芽細胞とヒト歯根膜線維芽細胞を用いた.細胞を培養後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)を30秒,1, 2, 4分間それぞれ作用させた.その後,8日間の細胞増殖の変化を測定した.また,歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に対し,銀コロイド溶液を1〜100ppmに調整した培養液にて培養し,検討を行った.その結果,30ppmの銀コロイド溶液はS. mutans (ATCC25175), A. actinomycetemcomitans (ATCC29522), P. gingivalis (W83, ATCC33277), P. intermedia (ATCC25611), F. nucleatum (ATCC25586)の6菌種に対して完全な殺菌効果を示し,1.5ppmと3ppmの濃度においても有意な細菌の殺菌力を示した.さらに銀コロイド溶液は30ppmの濃度において歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に抑制作用を示した.この作用は希釈により低下し,20ppmにおいては抑制作用を認めなかった.細胞生存率は,100ppm以下の濃度において歯肉および歯根膜線維芽細胞のLD50値は観察されなかった.以上の結果から,銀コロイド溶液は宿主細胞に影響しない濃度下で口腔内病原細菌に対して強い殺菌作用を示すことが認められた.