著者
康 志賢
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.101-114, 2011-03

本稿は翻刻と解題を通して『色男大安売』を考察する筆者の五番目の論文である。草双紙の翻刻作業に取り組むことによって、以下のことが新しくわかった。(1)図のみ見ると御飯のおかずのように色を売り歩く滑稽な設定のように見えるが、続く地の文を読むと結局そこまで非現実的な行動はしないことが初めてわかり、荒唐無稽な黄表紙との差が理解できる。(2)駆け落ちの相手を間違えるという事件が、状況的に荒唐無稽ではなく、起こり得る話として写実的に描写されている。これも地の文を丹念に読むことでわかる合巻の特色である。(3)艶二郎に対して「幸福者なり」という表現が度々使われるが、これは彼を揶揄する意味を含む。(4)本文では語られない場面が画像として描かれている、即ち本文では省略された後の事件を想定して絵として補充して見せていることがわかる。(5)オチョンの服装が先学の言及とは異なる服装であることがわかるのは、本注釈作業のように文字と絵を細々と読んで、見て、初めて得られる成果であろう。