著者
21世紀コーポレート・ガバナンス研究会 廖 海濤
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.181-215, 2021

日本では,株主代表訴訟において,取締役の善管注意義務違反を判示する裁判例は少なくない。特に,取締役の会社に対する責任について,昭和25(1950)年商法改正に伴い,取締役の権限を著しく拡大強化したために,従来の委任契約による善管注意義務のほか,忠実義務が加えられた。 上記の両義務については,従来から最高裁の判例では,忠実義務は「…通常の委任関係に伴う善管注意義務とは別個の,高度な義務を規定したものと解することができない」(最判昭和45・6・24民集24巻6号625頁八幡製鉄政治献金事件)の旨を示し,この見解は学説上では同質説とも呼ばれている。この同質説は,日本の商法学界において,広い層の支持を受けており,通説ともなっている。他方,忠実義務がアメリカ法の沿革から,善管注意義務とは区別された義務と説かれ,その上に義務違反者の過失の有無等が問題とされるとし,両義務を別個な内容と理解しようとして,善管注意義務と忠実義務とはその性質を異質とする見解(異質説)が,最近では有力となりつつある。異質説によれば,取締役が,株主利益の最大化を図るために,会社の職務を履行(意思決定等)する際に善管注意義務を負っている(会330条→民644条)が,この善管注意義務は,「株主の利益を最大化する」という結果実現を目的とした結果債務ではなく,「株主の利益を最大化する最善を尽くす」という手段債務に過ぎないことになる。 本稿は,アメリカの制定法上における取締役会の権限を解明し,取締役会の構成員である取締役が会社および株主との関係に基づき,とりわけ,取締役の信認義務の法的構造を分析することによって,制定法上における取締役の善管注意義務および忠実義務が異なる性質であることを明らかにし,日本法における取締役等の民事責任を追及する際に,若干の示唆を得ることを目的とする。