著者
廣澤 隆行 沖田 一彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0962, 2007

【目的】我々は第10回広島県理学療法士学会にて,理学療法士(PT)が長期化した外来患者を単に医学的側面からだけでなく,心理・社会的側面を含む複数の視点から捉え悩んでいることを報告した。今回,その結果をもとに,整形外科疾患患者の痛みの訴えに対するPTの認識や悩みについてアンケート調査を実施したので報告する。<BR>【方法】広島県下で整形外科の標榜を掲げる医療機関に勤務するPT 250名に対し,郵送によるアンケートを実施した。質問は,基礎項目および患者の痛みの訴えで悩んだ経験とそれに関わる項目の計21項目であった。返送された126部の回答(回収率50.4%)から,顕著な記入漏れ・ミスがあるものを除外した112部(有効回答率88.9%)を分析対象とした。分析はまず,患者の痛みの訴えに悩んだ頻度(4段階)の差を,性別,婚姻,同居者,勤務地,関わっている診療科,勤務先の変更経験の6項目についてχ<SUP>2</SUP>検定により比較した。次に,年齢,経験年数,学歴,勤務先の規模,常勤PT数,疾患別の診療頻度,重視する専門知識,治療内容と頻度,痛みと理学所見との不一致性,患者‐PT間での認識のギャップ,効果がない場合の治療の継続性,患者の社会的側面への注意の12項目についてSpearmanの相関を調べた。そのうえで,有意差のあった項目を独立変数としたロジスティック解析(漸減法)を行い,悩みの頻度への影響因子を抽出した。<BR>【結果】患者の痛みの訴えに悩んだ経験は「ない」1名(0.9%),「ときどき」25名(22.3%),「しばしば」58名(51.8%),「常に」28名(25.0%)であった。χ<SUP>2</SUP>検定を行ったすべての項目において回答の分布に有意差はなかった。一方,相関を調べた項目については,年齢(r=-0.23, p<0.05),経験年数(r=-0.38, p<0.01),学歴(r=0.23, p<0.05),診療頻度・関節リウマチ(r=0.21, p<0.05),同・五十肩(r=0.21, p<0.05),専門知識・心理学(r=0.25, p<0.05),同・教育学(r=0.21, p<0.05),同・行動科学(r=0.27, p<0.05),理学所見との不一致性(r=0.29, p<0.01),認識のギャップ(r=0.40, p<0.01),治療の継続性(r=0.28, p<0.01)との間に有意な相関を認めた。ロジスティック解析の結果(OR=オッズ比, CI=95%信頼区間),経験年数(OR=0.25, CI=0.11-0.56, p<0.01),行動科学(OR=2.97, CI=1.33-6.62, p<0.01),認識のギャップ(OR=3.08, CI=1.12-8.44, p<0.05)が有意な影響因子として抽出された。<BR>【考察】整形外科疾患患者の痛みの訴えは治療の長期化を招く重大な要因であり,当然PTもその対応に苦悩することになる。今回の結果から,臨床経験が浅く,痛みの改善について患者との間に認識のギャップがあると感じているPTほど悩んでいることが分かった。またそのようなPTは,必要な専門知識として行動科学を重視していると考えられた。