- 著者
-
渡辺 学
網本 和
新井 智之
廣瀬 隆一(MD)
- 出版者
- 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
- 雑誌
- 関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
- 巻号頁・発行日
- pp.17, 2006 (Released:2006-08-02)
【目的】「鏡失認」は、鏡上の物体を探索しその物体が視野内に呈示された後でもその探索行動を変容できない症状で、1997年にRamachandranが初めて報告した。また彼は鏡の利用により半側空間無視が改善する可能性を示唆しているが、その後も定量的な研究は行われていない。今回、半側空間無視に鏡失認を認めた例に対して定量的な評価を行い、次に鏡を利用することで半側無視の改善が得られたので報告する。【対象】症例A:85歳、女性。右頭頂葉皮質下出血、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage上肢II手指I下肢II、左感覚重度障害、同名半盲なし。合併症は、見当識障害、認知障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視、Pusher症候群。ADLは全介助、作話あり。症例B:89歳、女性。右側頭頭頂葉皮質梗塞、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage全てVI、左感覚障害なし。合併症は、同名半盲、認知障害、構成障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視。ADLは監視レベル。【方法】車椅子の右側に矢状面方向で姿勢鏡を隣接した。検査者は対象者の右前方に位置し、鏡に注意を向けさせそれが何かを呼称させた後、鏡上に映る物体を呼称させた。次に閉眼させ、対象者の前方50cm両眼の下20cm高さで鏡面から水平方向に左50cm(対象者の身体正中線より左側)の所に、ピンク色で直径6.5cmのボールを上方から糸で吊して呈示した。対象者を開眼させ鏡上に映るボールが認識できるか確認してから、「手を伸ばしてボールを取って下さい」と口頭指示した。鏡上を探索し実際のボールが掴めない場合は再び閉眼させ、ボールを10cm間隔で鏡面に近づけて同様の指示した。これを実際のボールを掴めるまで繰り返し、掴めたら今度は10cm間隔で鏡面から離していき、再びボールを掴めなくなる位置を確認しこれを閾値とした(鏡条件)。その後、鏡条件での閾値位置前後でボールの認識とリーチ動作を繰り返し(ミラーアプローチ)、治療前後でAlbertテストを実施した。【結果】鏡条件では、症例Aはボールを鏡面から10cm、症例Bは5cmの位置に近づけるまでは一度実際のボールを見ても鏡像を掴もうとして鏡面を探り、「鏡に浮いていて掴めない」「掴めるわけない」と訴えた。反対にボールを鏡面から離していくと症例Aは40cmで再び鏡上を探るようになり、症例Bは50cm離れても実際のボールを直接握ることができた。ミラーアプローチ前後のAlbertテストは、症例Aは17/40から36/40に、症例Bは38/40から40/40に変化した。【考察】実際の目標をつかめた距離の測定により、鏡失認と半側空間無視の評価を定量的に行う手段となりうる。一方、鏡の利用により半側空間無視が改善する例があり、治療法として有効な手段の一つであると同時に、症例により効果が異なる可能性が示唆された。