著者
青木 信裕 尾登 誠 橋倉 祐子 下村 哲志 西山 徹 古山 彰 金 明和 森本 晃司 下村 奈央美 圷 清香 服部 考彰 中野 里佳 金谷 千尋
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.55, 2006 (Released:2006-08-02)

【はじめに】 当院では関節リウマチ(以下RA) 患者と家族を対象に「リウマチのリハビリテーション教室」を年2回の頻度で開催している。RA患者の合併症としては間質性肺炎や肺線維症があり、死因のひとつとなっている。RA患者に対して呼吸機能低下を予防する必要性を考え、今回「リウマチの肺合併症と呼吸リハ」というテーマで呼吸機能についての教室を行なったので報告する。【プログラム】1.リウマチの呼吸機能と肺合併症の講演2.呼吸機能改善のリハビリについての講演3.肺機能検査のデモンストレーション4.呼吸訓練、ストレッチ5.呼吸筋トレーニング6.肩甲帯、体幹のトレーニング7.リウマチ体操【方法】呼吸訓練:腹式呼吸+口すぼめ呼吸の指導ストレッチ:胸郭の柔軟性の改善体操の指導呼吸筋トレーニング:呼気の延長を目的としたゲーム4種目を考案し実施。ストロー、ボール、車のおもちゃを使用して楽しみを持たせた。肩甲帯、体幹のトレーニング:肩甲帯・体幹周囲筋のストレッチ、筋力訓練の指導 ストレッチ、体操は各参加者が禁忌肢位を考慮し、可能な運動のみを痛みのない範囲で行なうよう指導した。参加者の中で同意を頂いた方の経皮的酸素飽和度、脈拍数を各プログラムの実施前後で測定した。教室終了後にはアンケートを実施し、呼吸機能のリハビリについての意見を頂いた。【結果】 教室参加23名中、測定に同意頂いた方15名。経費的酸素飽和度が実施前より改善した人の割合は、呼吸訓練60%、ストレッチ60%、呼吸筋トレーニング68%、肩甲帯・体幹のトレーニング10%であった。 アンケートでは、呼吸リハビリテーションを行なったことがある人は31%であり、今回の教室が有意義であったという人が100%であった。呼吸訓練、肩甲帯・体幹のトレーニングについては「自宅で行える」といった声が多く、呼吸筋トレーニングは「楽しかった」という意見が多かった。【考察】 RA患者に対して呼吸リハビリテーションを行い、呼吸機能にアプローチをした報告はほとんどない。結果として短時間の呼吸訓練、ストレッチ、呼吸筋トレーニングで改善が認められていた。RA患者においても早期からの呼吸指導により呼吸機能の低下を予防し、改善に向かうことができると考える。呼吸訓練は継続することが重要であるが、体操の指導のみでは継続的な訓練とならない可能性がある。今回、ゲームの要素を持たせ、楽しみながら呼吸機能にアプローチする方法を紹介することで、「楽しかった」といった声が多く、継続的な自主トレーニングとなる可能性が考えられる。簡便で有用な呼吸訓練を自主トレーニングの中に取り入れることで、RA患者の生命予後にも深く関与する可能性が示唆された。今後、RA患者に対する呼吸訓練の継続的な評価を行なう必要性が考えられる。
著者
齋藤 里美 齋藤 幸広 濱野 俊明 高関 じゅん 畠中 佳代子(OT) 加藤 理恵(ST) 友井 貴子 内田 賢一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.23, 2006 (Released:2006-08-02)

【はじめに】膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者における経過と機能の変化を把握する目的で、調査検討を行ったので報告する。【対象と方法】対象は2002年4月以降、当院にて外傷性の膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者28例(男18女10、平均年齢54.7歳)である。 診療録より、各症例の骨折型、手術日、理学療法(PT)開始日、膝関節可動開始日、荷重開始日、退院日、退院時膝関節可動域、退院時移動能力を調査した。【結果】骨接合術後、PT実施計画に大幅な変更無く退院した例は28例中24例だった。骨折型は腰野の分類で、単純横骨折型8例、第3骨片型が9例、第4骨片以上多骨片型(多骨片型)が7例であった。手術日~PT開始日までは平均1.9日、退院日までは平均24.0日であった。 PT開始日より術側膝関節伸展位での股・膝関節周囲筋の筋力増強、非荷重での立位・歩行を行った。膝関節可動域の回復に合わせて術側下肢の自動介助運動を追加したが、関節運動を伴う積極的な筋力増強は退院時まで行わなかった。 膝関節可動域については、単純横骨折型と第3骨片型では全例で術後1週以内に開始したが、多骨片型では術後1週以内が4例、残りの3例は術後2週以降の開始となった。 部分荷重負荷での歩行は単純横骨折型と第3骨片型では1例を除く16例で2週以内に開始した。多骨片型では4例は2週以内に開始、2例はギプス固定後早期に開始し、残りの1例は5週の安静となった。 24例のうち3例は、手術後ギプス固定が必要となった。うち2例が多骨片型の骨折であり、バイク乗車中の受傷であった。 退院時にギプス固定をしていなかった22例の膝関節屈曲角は平均120°であった。120°に達しなかったものは第3骨片型で9例中3例が100°~120°、多骨片型では6例中2例が90°未満であった。 退院時移動能力は、独歩が9例、T字杖歩行が4例、片松葉杖歩行が6例、両松葉杖歩行が3例、その他2例であった。 一方、28例中4例は在院中に再手術の適応となった。1例は術後10日で転倒し再骨折となった80歳男性で、再手術後2週で部分荷重負荷を開始し、30日後膝関節屈曲角130°でT字杖歩行退院となった。3例は術後早期の画像所見にて骨片脱転が認められ、うち2例は当院で再手術を施行した。術後15・28日後にギプスシーネ下にて部分荷重負荷・関節可動を開始し、43・44日後にそれぞれ片松葉・T字杖歩行にて自宅退院となった。尚、退院時膝関節屈曲角は70・90度であった。【まとめ】膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者について調査検討を行った。再骨折や骨片脱転などで再手術となる例もあった。
著者
目黒 智康 桒原 慶太 金子 志保 渡辺 学 新井 智之 松永 篤彦
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.80, 2006 (Released:2006-08-02)

【はじめに】本態性振戦は,姿勢時及び動作時振戦だけを唯一の神経症状とする良性の神経疾患である.また,本態性振戦の亜型として書字振戦が報告されている.この書字振戦は書字という特定の動作においてのみ出現する課題特異的振戦であり,書字動作そのものの障害だけでなく,手段的日常生活動作能力の著しい低下に繋がる可能性がある.しかし,書字振戦に対する理学療法の介入効果に関する研究報告は極めて少ない.今回我々は,書字振戦を呈した高齢患者に対して,失調症に対して弾性緊縛帯を適用し,書字振戦が改善する経験を得たので報告する.【症例紹介】症例は85歳の男性で,特記すべき既往歴はみられなかった.現病歴は誘因なく発熱,嘔吐,頚部硬直を伴って意識レベルが低下し,ヘルペス脳炎の診断を受ける.なお,パーキンソニズムや小脳失調性などの神経学的な異常所見は認められなかった.第21病日より理学療法を開始し,第30病日には院内T杖歩行が可能となった.第31病日より書字練習開始した.【初期評価】安静時には振戦はみられないものの,上肢を挙上するとわずかに手指振戦が出現し,さらにこの振戦は書字時に増悪した.感覚機能は正常であり,運動機能は,握力が右16.0kg・左12.5kg,ペグボードテストが右12本・左13本,簡易上肢機能検査(STEF)では右85点・左91点であった.さらに Mini Mental State Examinationによる得点は27点, Functional Independence Measureによる運動項目は91点であった.いずれの評価も著しい低下はみられなかった.【理学療法介入】書字振戦に対する理学療法として,弾性緊縛帯を適用した.方法は,弾性包帯で手関節を固定するように巻き,毎日1時間程度ひらがなの文章を書写する練習を繰り返し,計15日間行った.【結果と考察】書字練習開始時では弾性緊縛帯で手関節を固定した時のみ振戦が減少し書字の不均整に改善を認めたのに対して,退院時には弾性緊縛帯を適用しない状態で書字の不均整に明らかな改善がみられた.先行研究によると,弾性緊縛帯は失調症に対して固有感覚系を介して運動制御を促通する効果があると報告されている.本症例の書字振戦が改善した理由も,弾性緊縛帯により書字の際に手関節の不随意運動が制限され,書字動作時の運動制御を促通した可能性がある.また,弾性緊縛帯による書字の不均整の減少(即時効果)が書字練習時の正しい結果のフィードバックにつながり,さらにはこの学習過程が繰り返し継続されたことが書字という緻密な動作の再学習に効果的に働いたと考えられた.
著者
渡辺 学 網本 和 新井 智之 廣瀬 隆一(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.17, 2006 (Released:2006-08-02)

【目的】「鏡失認」は、鏡上の物体を探索しその物体が視野内に呈示された後でもその探索行動を変容できない症状で、1997年にRamachandranが初めて報告した。また彼は鏡の利用により半側空間無視が改善する可能性を示唆しているが、その後も定量的な研究は行われていない。今回、半側空間無視に鏡失認を認めた例に対して定量的な評価を行い、次に鏡を利用することで半側無視の改善が得られたので報告する。【対象】症例A:85歳、女性。右頭頂葉皮質下出血、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage上肢II手指I下肢II、左感覚重度障害、同名半盲なし。合併症は、見当識障害、認知障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視、Pusher症候群。ADLは全介助、作話あり。症例B:89歳、女性。右側頭頭頂葉皮質梗塞、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage全てVI、左感覚障害なし。合併症は、同名半盲、認知障害、構成障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視。ADLは監視レベル。【方法】車椅子の右側に矢状面方向で姿勢鏡を隣接した。検査者は対象者の右前方に位置し、鏡に注意を向けさせそれが何かを呼称させた後、鏡上に映る物体を呼称させた。次に閉眼させ、対象者の前方50cm両眼の下20cm高さで鏡面から水平方向に左50cm(対象者の身体正中線より左側)の所に、ピンク色で直径6.5cmのボールを上方から糸で吊して呈示した。対象者を開眼させ鏡上に映るボールが認識できるか確認してから、「手を伸ばしてボールを取って下さい」と口頭指示した。鏡上を探索し実際のボールが掴めない場合は再び閉眼させ、ボールを10cm間隔で鏡面に近づけて同様の指示した。これを実際のボールを掴めるまで繰り返し、掴めたら今度は10cm間隔で鏡面から離していき、再びボールを掴めなくなる位置を確認しこれを閾値とした(鏡条件)。その後、鏡条件での閾値位置前後でボールの認識とリーチ動作を繰り返し(ミラーアプローチ)、治療前後でAlbertテストを実施した。【結果】鏡条件では、症例Aはボールを鏡面から10cm、症例Bは5cmの位置に近づけるまでは一度実際のボールを見ても鏡像を掴もうとして鏡面を探り、「鏡に浮いていて掴めない」「掴めるわけない」と訴えた。反対にボールを鏡面から離していくと症例Aは40cmで再び鏡上を探るようになり、症例Bは50cm離れても実際のボールを直接握ることができた。ミラーアプローチ前後のAlbertテストは、症例Aは17/40から36/40に、症例Bは38/40から40/40に変化した。【考察】実際の目標をつかめた距離の測定により、鏡失認と半側空間無視の評価を定量的に行う手段となりうる。一方、鏡の利用により半側空間無視が改善する例があり、治療法として有効な手段の一つであると同時に、症例により効果が異なる可能性が示唆された。