著者
弓削 繁
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学国語国文学 (ISSN:02863456)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.37-52, 1989
著者
弓削 繁
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、拙著『六代勝事記の成立と展開』(平成15年、風間書房刊)の成果を承け、承久の乱後に明確になってくる、イデアとしての帝王と現実の天皇とを峻別する二元的な王権思想について、その変容と展開の姿を中世文学史の中に見定めようとするものであった。まず、乱前の思想状況を捕捉するために、改めて『愚管抄』について検討した。その結果、『愚管抄』は国家の基本形態を宗廟神の意思によるものとして、「文武兼行ノ摂録」の出現を歴史の道理と説く原理論的な著作であることを確認することができた。一方、乱後に成った『六代勝事記』は、儒教的な徳治主義の立場から政治の善悪による帝位の有限性を説く鑑戒の書であるが、中に幕府側を正当化する政子の神功皇后再誕説が含まれているのが注意される。すなわち、これを自己の存在証明として利用したのが『吾妻鏡』であり、この話に天照大神の政子への示現(の夢想)を重ね合わせることで、<政権神話>を作り上げていく『吾妻鏡』の構想を明らかにすることが出来た。次に『神皇正統記』や『梅松論』になると、国王を相対化するものとして「天道」が措定されてくるが、その思想形成過程の詳細については続考を期したい。この外、『徒然草』第226段の背景に承久の乱の記憶が存することを明らかにし、また新資料として『五代帝王物語』の高松宮家本と、『人幡宮愚童訓』の岩国徴古館本を略解を付して紹介した。なお、当初の計画では軍記物語や説話集へも視野を広げる予定であったが、問題が多岐にわたることもあり、多くを今後の考察に委ねざるを得なかった。