著者
内田 智士 弓場 英司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

メッセンジャーRNA (mRNA)を用いたがんワクチンは、患者毎に異なるネオ抗原を標的とした設計が容易であり、かつ抗がん免疫を得る上で重要な細胞性免疫を得られるといった特長を持つ。一方で、ワクチンには、抗原とともに、免疫賦活化のためのアジュバントの投与が必要となるが、mRNAワクチンに適したアジュバントの開発は行われてこなかった。まず、本研究では、mRNAに2本鎖RNA構造を組み込むことで、アジュバント機能を組み込んだmRNAを開発するが、この設計は安全性が高く、さらに抗原提示細胞に抗原とアジュバント共送達できるといった利点を持つ。従来我々が開発したシステムでは、mRNAに2本鎖構造を付与した結果、その翻訳活性が若干低下した。本年度の研究で、2本鎖構造を再設計した結果、翻訳活性を損なわず、高い免疫賦活化作用を示すmRNA構造見いだすことに成功した。さらに、mRNA導入により惹起される炎症反応の強度を制御することにも新たに成功したが、この点は、ワクチン効果を得るのに必要十分な強度の免疫賦活化作用を得ることで、安全かつ効果的にmRNAワクチンを投与する上で極めて重要である。また、mRNAワクチンでは、脾臓やリンパ節といった免疫組織にmRNAを効率的に送達することが必要となるが、そのためには輸送担体に免疫組織指向性のリガンドを組み込むとともに、標的組織への送達前のmRNA酵素分解を防ぐことが必要である。本年度の研究で、2本鎖RNA構造を組み込む際に用いた方法論を、mRNA輸送担体の安定化に展開することで、生体内でのmRNA酵素分解耐性の飛躍的向上に成功した。以上のように、mRNAワクチンに必要な、mRNA設計、及び輸送担体設計において、優れた成果を得ることができた。