著者
張 允貞
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.361-377, 2012-11-25 (Released:2017-06-15)

日本は石油資源に恵まれない国で,海外石油の確保は戦前期を一貫して日本にとって重大な懸案事項であり続けた。とりわけ,1930年代後半に入るとアメリカ石油の安定的輸入の見通しが不透明になる中で,日本にとっては蘭印石油の確保が喫緊の課題となった。そこで,日本政府はこの問題を解決すべく,1940年9月に「日蘭石油交渉」に乗り出した。本稿の課題は日蘭石油交渉を蘭印側の立場から検討し,その対日石油輸出方針を明らかにすることである。本稿での分析の結果,明らかになったことは次の2点てある。第1に,交渉開始以前において蘭印政府は,日本向けの石油輸出増加に前向きな判断を示しており,その方針は決して消極的なものではなかった。第2に,交渉過程における蘭印側方針の特徴は,状況の推移に応じて方針の変化はあるものの,常に日本に対する一定の配慮を忘れていないことである。蘭印側は航空燃料につき「皆無」の回答を提出した代わりに,日本側の要求していない品目を自ら進んで提示してきた。交渉における成約量はそれ以前の蘭印の対日石油輸出量に比べれば,例年より3〜4倍の輸出増加を意味するものであった。