著者
張 萍
出版者
佛教大学
雑誌
社会学部論集 (ISSN:09189424)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-14, 2009-09-01

本稿の目的は,中国における高齢者虐待を定義付けることにある。人口高齢化の加速と高齢者人権意識の高まりにつれて,高齢者虐待という元来家族の内部に隠された潜在的な問題が,すでに顕在化した社会問題になってきている。しかし,中国はまだ「高齢者虐待防止法」を制定しておらず,高齢者虐待の定義も確定されていない。高齢者虐待の実態を把握するためには,その定義を明確化する必要がある。敬老の伝統を持つ中国では,高齢者虐待の行為は真っ先に道徳違反のものとして世論から非難を浴びせられる。その行為が重い場合,違法犯罪のものとして刑罰の対象となる。それゆえ,高齢者虐待の定義を考える際に,道徳と法律という二つの側面から捉えなければならない。現代中国の道徳規範と法規定は昔のものとはずいぶん異なってきているが,従来から継承したものもある。本稿では主に親子関係を軸にして,高齢者権益に関わる道徳規範と法規定の変化を歴史的な視点から整理したうえで,中国の高齢者虐待に定義を下すことを試みた。