- 著者
-
後藤 健志
- 出版者
- アンデス・アマゾン学会
- 雑誌
- アンデス・アマゾン研究 (ISSN:24340634)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.1-32, 2021-12-20 (Released:2022-04-06)
- 参考文献数
- 71
ブラジルでは、空間を構成する土地や財をめぐって、実際上の利用者に正規の権利主体性を認定する措置、すなわち「正則化」を通じて、国家は統治が十分に行き届かない辺境域の領域化を進めてきた。一方、現地の権利主体は、国家が所管する土地や財が、占有され、事後的に正則化され、私有財として領有できる対象と見なしてきた。本稿では、正則化のメカニズムを国家による統治の視点からではなく、現地の視点から捉えるため、アマゾニアにおける領域化の進展を、植民者の在来知に着目して読み解いた。 事例研究では、マト・グロッソ州北西部に1990 年代を通じて設立された農地改革の入植地における土地利用に注目した。ブラジルの農地改革は、著しい社会格差の是正に向けた施策である一方、既存の土地所有構造の改変を目的としていない点に大きな特徴がある。それは同政策が半世紀に渡り、土地の私有化を通じて、辺境域の領域化を推進するための「植民」として実施されてきたことと密接に関係する。 入植地における土地利用の分析では、国家による正則化と植民者による自発的植民の相互作用に着目した。自発的植民とは、公式な植民事業に付随して発生してきた民衆による非公式な植民事業である。その過程は、非公式に取得された土地が、行政が体系化したスキームに即して再整形され、占有に基づき適切に管理され、やがて正則化されていく流れを辿ってきた。農地改革の過程もまた、事業実施後のわずかな期間のうちに、この民衆による運動の渦中へと不可避に呑み込まれていく。 フロンティアの拡大は、立法・行政・司法に関わる諸機関を通じて有効化される正則化と多種多様な植民者によって実行される自発的植民との間の有機的共同によって推進されている。本稿では、今日なおもアマゾニア全域で展開するこの壮大な事業が、湿潤熱帯環境という極めて不安定な生態学的基盤のうえに成り立っている実態を、植民者たちのありふれた生活経験に即して描き出した。