著者
後藤 達志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1118, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】HAM(HTLV-1 associated myelopathy)はHTLV-1無症候性感染者(鹿児島県では一般の抗HTLV-I抗体陽性率9.8%と高い)の一部に発症する慢性進行性の脊髄疾患である。主な症状の一つとして体幹から下肢にかけての運動障害(痙性対麻痺)や排尿・排便障害、自律神経障害などが挙げられる。これらの症状が進行するとしだいに足先が引っかかるようになり、杖歩行→押し車→車椅子移動へと進行していくケースが多数報告されている。このことを踏まえ今回、患者を移動能力別に分け各々の身体機能を評価し比較検討を行ったので報告する。 【対象と方法】当院へ入院または外来通院しているHAM患者10例(女性7名、男性3名;平均年齢62±25歳;平均罹病18±37年)を対象とし、杖なし歩行群(2例)・杖歩行群(5例)・車椅子群(3例)の3群に分け評価を行った。評価の内容として運動機能障害重症度(以下:OMDS)、筋肉CT、歩行距離、MMT、痙性スコア(MAS)、深部腱反射、排尿障害の重症度、圧迫骨折の有無、腰部の痛み(VAS)、BMI、FIMを行ない、これらをもとに次の項目について調べた。1)OMDSと他の評価との相関。2)3群のMMT(体幹・下肢)の比較。3)筋肉CTにて脊柱起立筋の比較。【結果】1)OMDSとFIM,歩行距離,痙性スコアに強い相関が得られた。また、圧迫骨折,腰痛に関しては有意差はなかったが強い相関は得られた。2)筋力(MMT)では傍脊柱筋群,腸腰筋,外転筋,ハムストリングス,下腿三頭筋が著明に低下しており、総体的な筋力では車椅子群が有意に低下していた。3)筋肉CTでは杖歩行群にて胸椎レベルの脊柱筋の萎縮、車椅子群にて胸椎・腰椎レベルの脊柱筋の萎縮が認められた。その他は腸腰筋なども萎縮していた。【考察】今回の結果から、HAMの進行と下肢痙性の程度と脊柱筋力低下の関係を考えると、(一期)痙性出現期・脊柱筋力減弱,(二期)痙性ピーク期・脊柱筋力低下,(三期)痙性減少期・脊柱筋・下肢筋力低下,(四期)弛緩期・脊柱筋・下肢筋力著名な低下の四期に分けられる。二期において筋肉CTでは胸椎レベルの脊柱筋が著明に萎縮していた。また三期では車椅子となるケースが多くみられた。この歩行困難となる主な理由として、腰から殿部・下腿三頭筋などの突っ張りや重み(鈍痛)などが挙げられる。これら痛みの原因として、荷重下での腰背筋や三頭筋などの痙性増強や体幹筋力低下(腰背部)による、椎間関節での神経根への影響などが考えられる。四期において両下肢は弛緩傾向にあり、体幹CTでは胸椎・腰椎レベルの脊柱筋に著明な萎縮が認められた。この時期になると患者は歩行不能となる場合が多く臥床傾向による廃用の影響なども考えられる。