著者
徳吉 美国 岡 奈理子 亘 悠哉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.237-241, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
22

イエネコFelis silvestris catusによる在来種の捕食は生物多様性保全における大きな問題である.特に島嶼における鳥類への影響は大きいとされるが,いまだ日本における報告は限られている.伊豆諸島御蔵島において,絶滅危惧種鳥類であるアカコッコTurdus celaenopsの生体1羽を咥えたイエネコを,森林内に設置した自動撮影カメラで初めて記録したので報告する.撮影日は2018年7月24日であり,アカコッコを咥えたイエネコの静止画と,このアカコッコがイエネコに咥えられながら嘴を開閉させる動画が撮影された.これらの映像から判断し,イエネコが他の要因で死んだアカコッコを咥えていたのではなく,イエネコ自身が捕獲したと考えられた.捕獲されたアカコッコは巣立ち前後の雛の特徴を有するため,撮影直前にイエネコがアカコッコの巣内雛もしくは移動能力の低い巣立ち雛を襲ったものと考えられた.アカコッコ以外にもオオミズナギドリCalonectris leucomelasを咥えて運ぶ映像も撮影され,イエネコによる在来鳥類への捕獲リスクの存在が示唆された.今後は,映像記録の蓄積や糞分析などにより,島の在来鳥類へのイエネコの捕殺や捕食の実態の把握が必要である.御蔵島を含め,アカコッコの分布地域には放し飼いや野生化したイエネコが生息している.これらの地域で捕食リスクを低減するために,イエネコの適正飼養や効果的な捕獲対策が求められる.