著者
安積 紗羅々 岡 奈理子 亘 悠哉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.85-91, 2019 (Released:2019-08-23)
参考文献数
15

東京都の御蔵島では近年,ノネコFelis silvestris catusがオオミズナギドリCalonectris leucomelasの個体群に大きな捕食圧を与えていることが問題になっている.御蔵島には外来のクマネズミRattus rattusとドブネズミR. norvegicusが侵入・定着している.ノネコの代替餌であり中間捕食者ともなりうるこれらの外来ネズミ類の分布や生態を把握することは,ノネコ問題を考える上で重要であると考えられるが,そうした知見は今までにほとんどなかった.本研究では,オオミズナギドリが繁殖のために滞在している9月と,滞在していない12月の2回にわたって,8ヶ所の調査ライン上でカゴ罠を用いたネズミ類の捕獲調査を行い,その生息状況を調べた.9月には,ドブネズミは主に低標高の地点で出現し,クマネズミは低標高から高標高の地点にかけて広く出現した.一方,12月には,ドブネズミは高標高の地点にも出現したが,クマネズミは全体的に100トラップナイト当たりの捕獲数(CPUE)が減少した.2種のネズミは分布やCPUEが標高や季節によって変化し,その変化のしかたは2種のあいだで異なっていた.この結果は,御蔵島においてドブネズミとクマネズミが異なる生態的特性をもつことを示唆する.
著者
岡 奈理子
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.99-108_1, 1994-10-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
20
被引用文献数
3 5

明治初期から昭和中期にかけて,日本の幾つかの海鳥繁殖地で,無秩序な採集圧が海鳥個体群を絶滅,あるいは減少させたことが知られているが,オオミズナギドリめ最大の繁殖地の一つ,伊豆七島の御蔵島では,長期にわたる島民の採集圧で個体群規模が縮少した傾向はみられない。島民がオオミズナギドリ採集を始めた時期と,個体群規模を減らさないで採集した方法とその利用法,および天然資源の持続的利用哲学を生み出した島の社会的背景を,聞き取りと文献調査で明らかにした。オオミズナギドリの御蔵島での採集利用は,文献の残る1700年代前半以降,捕獲の大幅規制が開始された1978年までの少なくとも250年間の長きにわたり,数万羽規模で毎年行われてきた。江戸時代は,島の男性が,その後は病人,幼児を除く島民全員が島の共同作業の一つとして参加した。島民はオオミズナギドリを採集するにあたり,次の主な狩猟規則を島社会の不文律として設けていた。1)雛のみ採集する。2)採集日を巣立ち期前の11月初頭の,毎年2日間(1960年以前は3日間)に限定する。3)採集日以外に巣穴に干渉して,繁殖妨害をしない。この規則に違反すると,採集した鳥は没収され,その家族と共に,以後3年間,採集を禁止された。こうした不文律の採集規則が乱獲や密猟の発生防止に大きく寄写し,数百年にわたる採集圧にも関わらず,日本でも有数の繁殖個体群規模が御蔵島に維持されたと考えられた。オオミズナギドリの秩序ある採集の背景には,生活物質の公平な配給を受ける見返りに,島のあらゆる作業を共同で行う普持米制度の伝統がある。また,独自の家株制度の施行で人口が明治初期まで比較的低く抑えられたことも,資源の食いつぶしの回避をはかる資源管理型御蔵島社会の一つの事例としてあげられる。採集された雛は,各家庭で精肉され,肉,皮,内臓,骨に至るまでのほとんどの体部が伝統的保存法で数カ月間保存され,自家消費された。一部の塩蔵肉や塩辛は隣島の三宅島島民との食料,物資の交換に使われた。島の生計は世代を継いだ全島民による営林事業が主体であったが,今世紀前半からの柘植(つげ)材の用材価値の低下につぎ,1978年からのオオミズナギドリの伝統的採集の外圧的廃止は,森林生態系の永続的利用を実践し,共生してきた村人に,伝統的な生活習慣を断っことを強い,最近にみる急傾斜地への大型道路敷設事業導入による森林破壊と,オオミズナギドリの生息地の破壊を引き起こす背景になっていることを指摘した。生態的知識に基づく自然物の秩序ある採集は,自然との共存文化として温存すべき理由を,鳥島や北海道の渡島大島などにみる出稼ぎ的採集で海鳥の繁殖個体群を衰亡させた略奪的自然利用に対峙して見いだせる。
著者
岡 奈理子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.161-167, 2010-10-20 (Released:2010-11-08)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

表層採食ガモのマガモAnas platyrhynchosは,湖沼や河川,湿地などの好適な生息地のほとんどが氷雪で覆われる寒冷な地域においても越冬する.彼らは厳冬期にオホーツク沿岸の藻琴湖の水深1 mの汽水河川で繰り返し潜水し,二枚貝を8割の高い成功率で採食していた.潜水時間は平均6秒・回−1で最長12秒,飲み込み時間は平均10秒・回−1,最長21秒であった.潜水と飲み込みに要した採食時間は平均16秒,最長31秒であった.彼らは小型な貝を採ることで採食速度を早められたが,実際には嘴幅サイズ(20 mm)もしくはやや大きめなサイズを多く採食し,その結果,採食速度を大幅に落としていた.秋に優占し,小型サイズの貝を好む潜水ガモの捕食圧フィルターを経て,厳冬期には大きめのサイズの相対資源量が多かったためと判断された.マガモが1日のエネルギー要求量を,藻琴湖汽水域のベントス資源のなかから貝の採食だけで満たすならば,性状が異なる貝の種類によって,1日あたり体重の1.1倍~3.5倍の採食量が必要であった.厳冬期のマガモは,採食方法を本来の水面採食から潜水に変化させることで,氷雪で覆われる北方で,汽水域の豊富なベントス資源を利用し,越冬を可能にしていたと考えられた.
著者
徳吉 美国 岡 奈理子 亘 悠哉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.237-241, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
22

イエネコFelis silvestris catusによる在来種の捕食は生物多様性保全における大きな問題である.特に島嶼における鳥類への影響は大きいとされるが,いまだ日本における報告は限られている.伊豆諸島御蔵島において,絶滅危惧種鳥類であるアカコッコTurdus celaenopsの生体1羽を咥えたイエネコを,森林内に設置した自動撮影カメラで初めて記録したので報告する.撮影日は2018年7月24日であり,アカコッコを咥えたイエネコの静止画と,このアカコッコがイエネコに咥えられながら嘴を開閉させる動画が撮影された.これらの映像から判断し,イエネコが他の要因で死んだアカコッコを咥えていたのではなく,イエネコ自身が捕獲したと考えられた.捕獲されたアカコッコは巣立ち前後の雛の特徴を有するため,撮影直前にイエネコがアカコッコの巣内雛もしくは移動能力の低い巣立ち雛を襲ったものと考えられた.アカコッコ以外にもオオミズナギドリCalonectris leucomelasを咥えて運ぶ映像も撮影され,イエネコによる在来鳥類への捕獲リスクの存在が示唆された.今後は,映像記録の蓄積や糞分析などにより,島の在来鳥類へのイエネコの捕殺や捕食の実態の把握が必要である.御蔵島を含め,アカコッコの分布地域には放し飼いや野生化したイエネコが生息している.これらの地域で捕食リスクを低減するために,イエネコの適正飼養や効果的な捕獲対策が求められる.
著者
岡 奈理子
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.164-188, 2004-03-20 (Released:2008-11-10)
参考文献数
100
被引用文献数
23 26

The global distribution and status of colonies of the Streaked Shearwater (Calonectris leucomelas) were elucidated on the basis of a comprehensive survey of all published literature, of unpublished literature, and a specimen survey and interviews. Information on colony population size was also obtained. The species occurs or occurred on a total of 98 islands in East and South-east Asia; consisting of 86 islands where breeding occurs (breeding islands), 11 islands with a high likelihood of breeding occurring, and one island with a low likelihood of breeding occurring. The 86 breeding islands, including three on which breeding has definitely or possibly ceased, are located in the following seas from 24-42°N, 121-142°E; 30 islands (35%) in the Pacific, 20 (23%) in the Sea of Japan, 16 (19%) in the East China Sea, 9 (10%) in the Yellow Sea, 7 (8%) in Tsushima Strait, and 4 (5%) around Taiwan. Japan hosts 72 (84%) of the 86 islands, South Korea hosts 6, China hosts 4, North Korea hosts 2, and Russia and Taiwan host one each. Thus most of the breeding islands are located on the continental shelf in the seas surrounding the Japanese Archipelago, an area of high marine productivity. Information on present colony status was unavailable for 21 (24%) of the 86 breeding islands, most of which were in Japan. Streaked Shearwaters still breed on the remaining 62 (72%) islands (52 of which are in Japan) but probably no longer breed on the three other islands. Most (80%) of the 86 breeding islands are situated in temperate areas within the 5-20°C zone of average Spring (March) surface water temperatures; 42% of the islands within the 15-20°C zone, 20% within the 10-15°C zone and 19% within the 5-10°C zone. The remaining 20% are within the 20-25°C (10%) and 1-5°C (9%) zones. Streaked Shearwater populations have recently tended to increase rapidly in the higher latitudes for this species (38-40°N) within the 5-10°C zone in the subarctic boundary between the warmer and colder currents in the northwest Pacific, where about 100, 000 birds breed on the uninhabited islands.Breeding activities largely take place on those islands with a large Streaked Shearwaters population, which corresponds to about 30% of the breeding islands, while only 1-2% of the breeding population breed on the remaining 70% of islands hosting small or medium-size populations. The number of breeding birds on 36 islands (excluding Mikura Island, which has by far the largest population), was recently estimated as 816, 000 birds. As the Mikura Island total was roughly estimated to be 1, 750, 000-3, 500, 000 birds, the total number of Streaked Shearwaters breeding on the 37 islands amounted to 2, 566, 000-4, 316, 000 birds. Further population surveys of the Mikura Island population are needed, as this single estimate greatly influences the size of the estimated world population for this species. Up-to-date information on the status and distribution of Chinese and Korean populations of the Streaked Shearwater is also desired, as both countries have many offshore islands near the breeding zone for the species.
著者
岡 奈理子 土屋 光太郎 河野 博 菊池 知彦 丸山 隆
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.52-56, 2013-04-23

伊豆諸島鳥島(北緯30°29′02″東経140°18′11″)で,2000年5月中旬,巣立ち期に近いクロアシアホウドリ<i>Phoebastria nigripes</i>(Audubon 1849)のヒナが吐出した胃内容物を採取し同定した.4羽すべてが中深層性の遊泳動物を吐出した.このうちイカ類はアカイカ科トビイカ属トビイカ<i>Sthenoteuthis oualaniensis</i>,ダイオウイカ科ダイオウイカ属,サメハダホオズキイカ科オオホオズキイカ属,ユウレイイカ科ユウレイイカ属,魚類はクロボウズギス科,エビ類はヒオドシエビ科アタマエビ属アタマエビ<i>Notostomus japonicus</i>の成体であった.クロボウズギス科はクロアシアホウドリの胃内容物から初めて出現した.クロアシアホウドリの親鳥自らがこれらの中深層性の遊泳動物を自力で捕獲したとみるより,人間活動により投棄されたり,餌動物自らが潜水遊泳に長けた高次捕食者の採食活動や他の理由で死んで浮上したものを,採食した可能性が高いと考えられた.クロアシアホウドリが本来は採食機会がない中深層性の遊泳動物を採食していたことは,彼らが海洋のスカベンジャー,もしくは人間活動や他の高次捕食者の採食活動などに依存した採食ニッチを持つことを示す.
著者
綿貫 豊 佐藤 克文 高橋 晃周 岡 奈理子 高田 秀重
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

海鳥の移動と体組織の汚染物質をつかって汚染分布をモニタリングする新しい手法を開発した。ミズナギドリ類2種130個体以上をバイオロギング手法で追跡した。繁殖期において、尾腺ワックス中の残留性有機汚染物質濃度は異なる海域で採食する個体毎に異なり、PCBs,DDTs,HCHsでそのパタンが違った。越冬中に生える羽の水銀濃度にも、異なる海で越冬期を過ごす個体毎で差があった。これらの地域差は汚染物質の放出源と拡散によって説明できた。この手法によって海洋汚染を海洋区プラニングで必要とされる空間スケールで測定できる。