著者
徳安 健 廣近 洋彦
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

イネの二次壁セルロース生合成に係る酵素遺伝子を部分的に改変したものを導入し、遺伝子組換えイネを作出することにより、茎葉の細胞壁のセルロース構造を部分的に改変し、酵素糖化性が向上した植物体とする可能性を検討することを目的として、本萌芽研究を実施した。イネ二次細胞壁セルロースの生合成に関与する三種類のセルロース合成酵素(OsCesA4,OsCesA7及びOsCesA9)をコードする遺伝子に対して、部位特異的変異が導入された配列をもつ3種類のベクターをイネに導入し、形質転換株を得た。その結果、表現型として、カマイラズ形質の株やそうでない株が混在することとなった。大量発現により、遺伝子発現そのものが抑制されている株が存在する可能性が示唆された。今回の実験では、ノーザンブロット法によりセルロース合成酵素遺伝子の発現量が多い株を選抜することとした。選抜株の茎葉を回収したのち、亜塩素酸処理と水酸化カリウム処理により粗セルロースを精製し、その酵素糖化特性を評価した結果、コントロールイネの茎葉と比較して、有意な効率化は観察されなかった。その一方で、組み換えイネ由来セルロースのX線散乱データでは、結晶化度には差は見られなかったものの、セルロースミクロフィブリル繊維の配向性には差が観察された。細胞や細胞壁構造の構築速度やバランスが異なっているものと推察された。予備的検討としての本研究では、結晶構造そのものが破壊されたことを示すデータは得られなかったが、プロモータの検討、セルロース合成酵素遺伝子の部位突然変異導入場所、セルロース合成酵素複合体形成の有無の確認手法の開発、選抜基準の確定などの各要素を検討することにより、研究を着実に前進させることが可能となる。また、酢酸菌のセルロース合成系等を活用した低次元の実験モデルで、その戦略の妥当性を確証し、植物へ活用することが望ましいと考える。